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ラナ・ギブソン
シンリーは情報通
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夜会は無事終わって帰途に着く際兄に言われて気がついた。今日は探していたシンリーと会うことはなかったが、いつもなら仲の良さを見せつけてくるベル嬢とラナの婚約者が来ることはなかった。
ラナはアーサーと別れた後、いつものように壁の花になっていたというのに。
兄から見ると、夜会の間中、ラナの婚約者はいつもと違い、とても不機嫌だったらしい。
「あら、喧嘩?」
喧嘩するほど仲が良いってことなのか、と思えば、兄は、彼はベル嬢と喧嘩した訳ではないと言う。
「そんなことより、アーサーとはどうなんだ?二人が話しているところなど初めて見たぞ。」
「学園時代に色々お世話になったのよ。主に愚痴を聞いてもらったり、悩みを聞いてもらったり、そんなところ。」
兄とアーサーは同じ歳で交流もあったのかと思えば、そんなに深いものではないらしい。
「話しかければ返ってくるけど、続かないな。話すことが得意なんじゃないのかと思っていたけれど、違うんだな。」
変人と言う噂通りの振る舞いに何故か安心する。ラナはアーサーに自分の恋心が伝わってしまったことに困惑していたが、後悔はしていなかった。
「お前のドレスの色といい、まるで二人の方が婚約者みたいだったな。」
兄は笑って冗談みたいに呑気に口にするが、ラナは笑えなかった。
兄は身内だから、不貞ではない、と言ってくれるが、普通ならそうは思われない。
特に悪意を持つベル嬢のような人が見れば、まるでそれが真実のように噂されてしまう。
ラナはアーサーの言いつけ通りに毎日石鹸を使うが、この夜会以降の集まりに出かけることは控えた。
茶会や夜会を欠席しても、ラナは寂しくはなかった。シンリーが見舞いと称して遊びに来てくれるからだ。
ラナは彼女から石鹸の謎と、婚約者とベル嬢のことを聞くことができた。何故、アーサーが石鹸のことを知っていたのかも。
ラナにはシンリー以外にも友人はいるが、家の事情関係なく、友人でいられるのは彼女以外いない。
「あの石鹸は実はね、普通の石鹸ではないの。願いを叶える石鹸と言って、実は王宮魔術士達が作った試作品なのよ。私の名前で贈らせて貰ったけれど、あの石鹸を選んだのは他でもないルデルヒト様よ?
実は今隣の国で人の心を操る粗悪な香水が出回っているの。それは悪意を利用して、人心を虜にするもので、呪いのように人の身体を蝕んでいくの。その香水を使った人も周りの匂いを嗅いだ人も皆廃人になる危険なものなの。その解毒剤として考え出されたのが、この石鹸なの。
夜会で貴女の体がキラキラ輝いて見えたのは、石鹸の効果で、ある種の防御魔法が付与された証ね。悪意を持って近づいてくる人を寄せ付けない効果があるわ。
どうして、私が貴女にこれを贈ったのかと言うと、危険が迫っていたからよ。貴女の婚約者が連れているベル嬢は、粗悪な香水を使っているの。多分、貴女の婚約者の彼も放っておくと廃人一直線ね。
幸いなことに、あの女が貴女に近づくのは夜会の一度きりだったので、あのぐらいの大きさで充分効果があるわ。
一応、侯爵家にも手遅れにならないうちに石鹸の使用を薦めるようにするけれど、正直知ったことではないわ。自業自得としか言いようがないもの。」
「解毒剤の効果があるのはわかったわ。けれど、願いを叶えると言うのは?汚染された心を、取り戻す以外にも何かあるの?」
ラナは願いを叶える、と言う誘い文句に胡散臭さを感じる。
「まさか王宮魔術士が関与しているなんて、わからない誘い文句を考えたらこうなったの。香水を流行らせているものを捕まえる為に、類似品として売れば、相手も良いように誤解してくれるでしょう?
香水と、石鹸を両方買ってくれたら、効果は発揮されなくて終わるのだから。」
「敵に気付かれないように潰そう、ってことね。」
「そう!それで香水の購入記録を追ってみると、ベル・ルーモア子爵令嬢が浮かんだわけ。それで彼女に接触した人達皆に試作品を送ってみたの。私も勿論使ってるわ。私はラナ経由だから、大して被害はなかったけれど、それでも楽になったから。間に合ってよかったわ。最近心が疲弊してなかった?心は周りから見えないからね。
私達はほら、辛いこととかは特に隠そうとするじゃない?」
シンリーの言う通り、貴族令嬢は自分の本音をなるべく隠そうとしてしまう。
シンリーに言われて、自分が思った以上に限界のところにいたのだと、実感する。全てが香水のせいなら、彼の行動を許さなくてはならないのだろうか。それはとても嫌だ。
「全てが香水のせいならば、彼との婚約はなしにはならないわよね?」
期待を込めて質問してみると、とても言いにくそうにシンリーは答えた。
「それがね、購入したのは貴女の婚約者なのよ。大方、いつもみたいに彼女に強請られたのだろうけれど。彼はこの件に関しては加害者寄りだから、貴女との婚約はなくなるでしょうね。」
ラナはアーサーと別れた後、いつものように壁の花になっていたというのに。
兄から見ると、夜会の間中、ラナの婚約者はいつもと違い、とても不機嫌だったらしい。
「あら、喧嘩?」
喧嘩するほど仲が良いってことなのか、と思えば、兄は、彼はベル嬢と喧嘩した訳ではないと言う。
「そんなことより、アーサーとはどうなんだ?二人が話しているところなど初めて見たぞ。」
「学園時代に色々お世話になったのよ。主に愚痴を聞いてもらったり、悩みを聞いてもらったり、そんなところ。」
兄とアーサーは同じ歳で交流もあったのかと思えば、そんなに深いものではないらしい。
「話しかければ返ってくるけど、続かないな。話すことが得意なんじゃないのかと思っていたけれど、違うんだな。」
変人と言う噂通りの振る舞いに何故か安心する。ラナはアーサーに自分の恋心が伝わってしまったことに困惑していたが、後悔はしていなかった。
「お前のドレスの色といい、まるで二人の方が婚約者みたいだったな。」
兄は笑って冗談みたいに呑気に口にするが、ラナは笑えなかった。
兄は身内だから、不貞ではない、と言ってくれるが、普通ならそうは思われない。
特に悪意を持つベル嬢のような人が見れば、まるでそれが真実のように噂されてしまう。
ラナはアーサーの言いつけ通りに毎日石鹸を使うが、この夜会以降の集まりに出かけることは控えた。
茶会や夜会を欠席しても、ラナは寂しくはなかった。シンリーが見舞いと称して遊びに来てくれるからだ。
ラナは彼女から石鹸の謎と、婚約者とベル嬢のことを聞くことができた。何故、アーサーが石鹸のことを知っていたのかも。
ラナにはシンリー以外にも友人はいるが、家の事情関係なく、友人でいられるのは彼女以外いない。
「あの石鹸は実はね、普通の石鹸ではないの。願いを叶える石鹸と言って、実は王宮魔術士達が作った試作品なのよ。私の名前で贈らせて貰ったけれど、あの石鹸を選んだのは他でもないルデルヒト様よ?
実は今隣の国で人の心を操る粗悪な香水が出回っているの。それは悪意を利用して、人心を虜にするもので、呪いのように人の身体を蝕んでいくの。その香水を使った人も周りの匂いを嗅いだ人も皆廃人になる危険なものなの。その解毒剤として考え出されたのが、この石鹸なの。
夜会で貴女の体がキラキラ輝いて見えたのは、石鹸の効果で、ある種の防御魔法が付与された証ね。悪意を持って近づいてくる人を寄せ付けない効果があるわ。
どうして、私が貴女にこれを贈ったのかと言うと、危険が迫っていたからよ。貴女の婚約者が連れているベル嬢は、粗悪な香水を使っているの。多分、貴女の婚約者の彼も放っておくと廃人一直線ね。
幸いなことに、あの女が貴女に近づくのは夜会の一度きりだったので、あのぐらいの大きさで充分効果があるわ。
一応、侯爵家にも手遅れにならないうちに石鹸の使用を薦めるようにするけれど、正直知ったことではないわ。自業自得としか言いようがないもの。」
「解毒剤の効果があるのはわかったわ。けれど、願いを叶えると言うのは?汚染された心を、取り戻す以外にも何かあるの?」
ラナは願いを叶える、と言う誘い文句に胡散臭さを感じる。
「まさか王宮魔術士が関与しているなんて、わからない誘い文句を考えたらこうなったの。香水を流行らせているものを捕まえる為に、類似品として売れば、相手も良いように誤解してくれるでしょう?
香水と、石鹸を両方買ってくれたら、効果は発揮されなくて終わるのだから。」
「敵に気付かれないように潰そう、ってことね。」
「そう!それで香水の購入記録を追ってみると、ベル・ルーモア子爵令嬢が浮かんだわけ。それで彼女に接触した人達皆に試作品を送ってみたの。私も勿論使ってるわ。私はラナ経由だから、大して被害はなかったけれど、それでも楽になったから。間に合ってよかったわ。最近心が疲弊してなかった?心は周りから見えないからね。
私達はほら、辛いこととかは特に隠そうとするじゃない?」
シンリーの言う通り、貴族令嬢は自分の本音をなるべく隠そうとしてしまう。
シンリーに言われて、自分が思った以上に限界のところにいたのだと、実感する。全てが香水のせいなら、彼の行動を許さなくてはならないのだろうか。それはとても嫌だ。
「全てが香水のせいならば、彼との婚約はなしにはならないわよね?」
期待を込めて質問してみると、とても言いにくそうにシンリーは答えた。
「それがね、購入したのは貴女の婚約者なのよ。大方、いつもみたいに彼女に強請られたのだろうけれど。彼はこの件に関しては加害者寄りだから、貴女との婚約はなくなるでしょうね。」
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