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善人ではないので
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「聖女」がいるから「女神」がいる。だというのに、「女神」を敬う人間は減る一方。それは人々の信仰心が薄れているのと同様に女神による恩恵があまりないからに他ならない。
王太子クリスは歴史書にある女神についてこう考えている。
「女神」と呼ばれる存在は多分「女神」ではない。聖女以外の者から見ると、厄災やらその他目には見えないけれど、よくないものの総称として語り継がれるような曖昧なものだ。
ならば「聖女」が聞く「女神」の声というのは何なのか。それは正直よくわかっていない。ただ今回はクリスにもはっきりと「女神」の声が聞こえたのだから、「女神」はやはりいるのだと、思わざるを得なかった。
クリスにはそれが誘導されたものだと確信している。女神がいることで誰が得をするのか。それはこの国がずっと隠していた、曖昧にしてきたこと。クリスにとっては「聖女」が何でもどうでも良い。自分にとってはオーロラだけが大切なのだ。不思議なのは厄災は聖女だけは傷つけない、ということだけだ。いつかはその疑問を持つ人間がいたとして、それは今ではない、と願う。
クリスは王太子から王になっても基本姿勢は変わらない。第一王子よりも第二王子よりも自分がマシだと選ばれたものの、性質は対して変わらない。自分の愛する人が一番で、それ以外が二番。国民の為に動く人間ではない。
グレイズ・アドナーは結局は生かされた。何の役目も与えずに飼い殺すことも考えたが、どうせならあの頭脳を有効活用しよう、という結論に達したのは、妻のおかげだ。
邪魔な奴等を一掃したら、物理的に人間が減ったので、少ない人数で国を回す為に必要なものを揃えなくてはならない。
召喚聖女マユは、一見荒唐無稽なアイデアをメモにたくさん残していた。それらを繋ぎ合わせて国に有益なものを作る、という漠然とした仕事を与えたのだった。それが途方もない労働であることはわかっている。でも、愛するマユの残したものに携われるなら、彼らだって幸せだろう。終わりの見えない闇の中にいたとしても、そうして誰からも忘れ去られたとしても、彼らは幸せだろう、と思われた。
オーロラは笑う。胸に二人の大切な子供を抱きながら、「皆が幸せになるといいわね。」と。
彼女の言う「皆」にずっと含まれていられるように、クリスは気を引き締めた。
終わり
最後まで読んでいただきありがとうございました。 mios
王太子クリスは歴史書にある女神についてこう考えている。
「女神」と呼ばれる存在は多分「女神」ではない。聖女以外の者から見ると、厄災やらその他目には見えないけれど、よくないものの総称として語り継がれるような曖昧なものだ。
ならば「聖女」が聞く「女神」の声というのは何なのか。それは正直よくわかっていない。ただ今回はクリスにもはっきりと「女神」の声が聞こえたのだから、「女神」はやはりいるのだと、思わざるを得なかった。
クリスにはそれが誘導されたものだと確信している。女神がいることで誰が得をするのか。それはこの国がずっと隠していた、曖昧にしてきたこと。クリスにとっては「聖女」が何でもどうでも良い。自分にとってはオーロラだけが大切なのだ。不思議なのは厄災は聖女だけは傷つけない、ということだけだ。いつかはその疑問を持つ人間がいたとして、それは今ではない、と願う。
クリスは王太子から王になっても基本姿勢は変わらない。第一王子よりも第二王子よりも自分がマシだと選ばれたものの、性質は対して変わらない。自分の愛する人が一番で、それ以外が二番。国民の為に動く人間ではない。
グレイズ・アドナーは結局は生かされた。何の役目も与えずに飼い殺すことも考えたが、どうせならあの頭脳を有効活用しよう、という結論に達したのは、妻のおかげだ。
邪魔な奴等を一掃したら、物理的に人間が減ったので、少ない人数で国を回す為に必要なものを揃えなくてはならない。
召喚聖女マユは、一見荒唐無稽なアイデアをメモにたくさん残していた。それらを繋ぎ合わせて国に有益なものを作る、という漠然とした仕事を与えたのだった。それが途方もない労働であることはわかっている。でも、愛するマユの残したものに携われるなら、彼らだって幸せだろう。終わりの見えない闇の中にいたとしても、そうして誰からも忘れ去られたとしても、彼らは幸せだろう、と思われた。
オーロラは笑う。胸に二人の大切な子供を抱きながら、「皆が幸せになるといいわね。」と。
彼女の言う「皆」にずっと含まれていられるように、クリスは気を引き締めた。
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