お花畑聖女は願う

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女神の力

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女神は愛し子と認定した者には厳しい条件を課すと共に、一度認めてしまうと聖女を害する者には容赦はない。それは今までの歴史からもよく知られていることだと、クリスは思っていた。以前にも「聖女」を軽んじて、害をなそうとした者が女神の怒りを買ったことがあった。あの時は愚かな者達は滅び、幾つかの家が断絶しただけで済んだのだが。

いっそ国ごとなくなってもいいのかもしれない。などと思うのはこの国がどこまでも腐り切っている、と日々目にしているからか。とてもではないが、オーロラに対して大それた願いを持つ者が多すぎるのだ。

権力や悪意から最も遠い赤子のような存在の妻オーロラ。

彼女はとても優しいから誰に対しても恨んだりをしないけれど、自分を含め彼女の周りには彼女を大切に思う人間で溢れている。女神の力など使わなくとも彼女を守るつもりではあった。いわば女神と自分はオーロラを巡るライバルのようなものだ。

彼女が貴族令嬢の中で浮いた存在であるのには幼い頃から気がついていた。近くにロジーナという模範的な貴族令嬢がいたから、オーロラの特異性はよくわかった。

クリスにオーロラを守るように言ったのは母だった。今思えば母は早くから聖女に選ばれるのはロジーナではなく彼女だとわかっていた。その頃には既に彼女に夢中だったクリスはオーロラを守るために勉強も運動も頑張った。

マユがいなくなり、エレナが聖女を辞めた今、またもやオーロラに聖女の役目が回ってきた。

出産を控えている大切な時期に、煩わせるなんて、と言い出してもキリはない。




グレイズ・アドナーと、アレン・ハーデスが全てを理解したのは女神による裁きが完了してからのことだった。オーロラを陥れるために暗躍したアメリアは既に事切れている。思わぬ事態に気分が悪くなって倒れ込む騎士達の中にも何人かはアメリアと同じように原因もわからず亡くなっている者もいた。オーロラを断罪しようと集めた証拠はどれもアメリアの誘導によるもので、捏造に他ならないが、騙された側としてグレイズ、アレン両名は命までは取られなかった。

「害はなくとも使えない者が残ったな。」

二人は自分のことを言われたことも気付かずに、ただ呆然とクリスを見つめる。

「ど、どうやって……いや、これはどういう……どうなっているんだ。私達はマユが殺されたのではないかと、あの女がそう言って……」
「女神の愛し子を害そうとしたなら、女神の怒りを買うことぐらい想像できただろう。貴様らは勉強が出来たはずだな?歴史について何も学んでいないのか。」

グレイズが理解する側でアレンは胸を押さえてうずくまっている。苦しげにもがく様は現在進行形で女神の裁きを受けているかのよう。

「役立たずが残っても仕方ない。私の治世には貴様らは不要だ。」

「私達は女神に……裁かれたというのか。」

「それ以外にこの事態を説明できるなら信じなくても良いぞ。」

グレイズにはうまい説明が思いつかなかった。既に、本当にこれは女神のしたことではないかと思い始めていたからだ。

「そんなに、マユが気になるなら、彼女の元に送ってやる、と女神が仰っている。マユのいた異世界に行きたいか?そこで貴様が生き残れるかは知らないが。」

グレイズは首を横に振った。マユが自分の意思で帰ったのなら、追ってきたグレイズを邪魔に思うだろう。

それより、アレンもアメリアも倒れた今事情を話せるのは自分だけ。今から女神に全身全霊で謝れば処刑だけは免れるだろうか。グレイズは絶望感に支配されそうになりながら、必死に生き残る道を探した。
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