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「ねえ、こっちへ来て。」

可愛らしい声が聞こえて来たのは偶然だった。

「こっちで一緒に遊ぼ?」

最近の自分はわかりやすく調子に乗っている自覚があった。殿下の近くで精霊の姿を確認したり、上質の精霊達に守られていると実感したり、要は浮足立っていた。

彼らの力を信じているからと言って問答無用にただ甘えるだけでは意思の疎通もうまくできないというのに。

後から聞いた話では、彼らはその者達の危険を私に警告してくれていたというのに、当の本人はその言葉を右から左に聞き流し、ただ調子に乗っていた。

だから、気がつくのが遅れたのは完全に私の落ち度だ。

リゼは妖精達の無邪気な誘いに釣られ、彼らの集まる方向に一歩一歩足を進めていた。王宮の庭は広く、それを実感しているが故に判断は遅れた。

初めて来る庭園に足を踏み入れた時、先程まであった出入り口はなくなり、どこから来たのか、方向がわからなくなった。

ここまでリゼを連れてきた妖精の姿も見えなくなっている。代わりに新たに先程の子達より小さな妖精達がリゼの周りをフワフワと囲う。

「どこからきたの?」
「どうしたの?」

わらわらと集まって、リゼにバラバラと声をかけてくる。

彼らを統制できる存在は今はいないらしく、次から次へと湧いては、リゼの頭に乗ったり、髪をくるくる巻いて遊んだり、ほっぺをつついたりしてくる。

彼らはリゼに興味を向けるものの、特に悪さをする気はないらしい。

「あの、そろそろ帰りたいのだけれど、出口を知らない?」

周りで寛いでいる子達に話しかけるも、皆一様に首を傾げるばかり。

「あのね、あのね、リゼを連れてきた妖精があなたを姫様に会わせたいんだって。だから、もう少しいてくれない?」

「姫様って誰?友達?」

「うん。姫様は、僕らの友達で、王様の力を持っているの。」

「王様って、精霊王のこと?」

「ううん、違うよ。精霊の王には僕たちみたいな弱い妖精達は、近づけないの。個体によっては消えてなくなることもあるんだよ。だから、妖精達は精霊にはあまり近づかない。僕たちの王様は、妖精の王のこと。元は精霊だったけど、悪いことをして、力を少し奪われたり、あと元々弱い力しか貰えなかった精霊が妖精の王になるの。姫様に会ったあと、王様にも会わせてあげるね。

王様も姫様も今は寝てるから、起きるまで待ってもらわなきゃいけないんだけど。」

待つ、と言う言葉に、妖精と人間の言葉の感覚に、共通認識というものがあるのか、些か疑問を覚える。

リゼは、背筋がうすら寒くなる。

多分間違いなく、確実にリゼはユラン殿下からお叱りを受けるだろう。それがいつになるかはわからないが、ユラン殿下の顔が早く見たいと思ったのは、これまで婚約者として過ごした中で初めてのことだった。

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