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無邪気な会話

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妖精姫の毎日は、退屈だ。最初はただ怖かった。平民ながらチヤホヤされ、周りは貴族ばかり。平民だからと蔑む視線と妖精姫を怖がる視線とに囲まれて。

妖精姫は、妖精に愛される姫という意味で、誰かがつけた勝手な名前だ。私の名前を誰も呼んでくれない。私はただのジルでしかないというのに。

妖精姫と誰もが口にするようになったある日、隣国への留学が陛下から告げられる。隣国はこちらとは違い田舎で、自然が豊か。妖精どころかその上位種族である精霊に愛されている。私のように妖精に愛される者ならごろごろとその辺にいるような国で、そこなら私はあまり目立たずに生きていられると、そう思ったのに。

結果は違った。





「ねぇねぇ、聞こえる?姫さま、僕の声、聞こえてる?」

どこからか、小さな男の子の声が聞こえて来る。周りを見渡しても、その声の主を見つけることができないでいると、少ししたあと、また声が聞こえてきた。

「はあ、こんな力が弱いなんてさ、いつまで待てば良いんだよ。こんな弱い奴じゃなくて、別のを探せば良かったのに。」

「我儘を言うなって。あっちじゃ、これが一番マシだったんだよ。こっちじゃ、レベルが違うから、無理なら入れ替えれば良いだけの話だよ。楽しみだなぁ。漸くまた遊べるんだよ。何するー?楽しみだなぁ。」

また別の少年の声。無邪気な声に隠された何とも不穏な言葉に嫌な予感がする。

「でもさー、さっきの女の子、良かったよね。あの王子だっけ?あいつの周りは何か嫌な感じだったけどさ。あの女の子の周りは、居心地が良さそう。」

「うん。あれ、もし姫さまが今のまま、復活するまで時間がかかるんだったら、あの子を貰うのもアリかなあ。ずっと待ってたんだし、これ以上待ちきれないよ。」

「それなら今度の新月の時までに復活しなければ、これを捨てて、あの子を手に入れよう。あの子なら、姫さまに似ているし、待ってる間も退屈しなさそう。」

「あ、そういえばさあ……」


少年の声はまだ続いていたが、私は聞くのをやめてしまった。何故だか、これ以上聞くのは怖いと思ってしまった。

先ほどの女の子というのは、ユラン殿下の隣にいたご令嬢のことだろうか。確かに綺麗な可愛い貴族令嬢だった。

私の周りにいた香水臭い偉そうな人達とは違う、可愛くてふわふわとしていた生粋のご令嬢。

彼女の周りの空気は澄んでいて、ユラン殿下が気にいるのも理解できる。私だってただのジルである私なら、ユラン殿下には惹かれない。寧ろ距離を取りたいと思うのに、何故か、ユラン殿下に付き纏いたい気持ちになる時がある。

その時、私はただの平民なのにこう思う。

私の身分に見合うのは、この男だけだと。畏れ多い考えは誰のものだろう。度々訪れるこの考えに、ただのジルは心底怯えていた。
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