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元騎士 ダニエル
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伯爵家の庭には宝が眠っている。その昔名を馳せた恐喝屋の爺さんが、その家の後継者に託した曰く付きのある物。
それが何かもわからないのに、その後継者には昔からたくさんの悪人が押し寄せた。宝の中身は現金かはたまた脅しのネタか、それ以上の物か。ジョセフ爺さんがどんな意図で彼にそれを渡したかはわからないが、女好きだと聞けば好きそうな女を送り込み、弱味を見せればそれをネタに脅し、少しずつ懐柔して来た。
だが、男は口を割らなかった。ジョセフから何も渡されてはいないと言いきり、シラを切った。
実際、何人かは騙された者もいて、彼に価値を見出さず、自分で確かめに来た者もいた。
伯爵家には遊び人の坊ちゃんが門を通らず入って来られるようにいくつかの抜け道がある。それを少しばかり細工して、入っては来れるものの、出るに出られない一方通行の入り口を作ることができた。
行きは門を通らなくとも帰りは門以外からは抜けられない。こうして、伯爵家の当主が貴族院に行くその日に、罠を仕掛けておいた。後は彼らが飛び込むのを待つばかり。
ダニエルは騎士の後輩を門に立てて、ダニエルを誤認させた。勿論使用人に門番はダニエルだと言って貰い、本物のダニエルは当主と共に出かける。
帰って来た頃には、悪党は皆庭に集結するので効率よく一網打尽に出来る算段だ。
伯爵家の嫡子ウィリアムが当主になるまで、代理として母ミシェルが当主業を担っている。実は早い内にミシェルの手によって隠された宝は回収しているのだが、あの男に化けた偽物はそのことに気づかない。
アレが本人でないのは最初からわかっていた。出会う使用人が散りばめたヒントに本物なら真っ先に気がついただろう。
伯爵家に着いた馬車の中にはダニエルの他には女性が二人。悪党がたくさんいるこの場に普通ならミシェルを投入することなどあり得ないのだが。果たして、奴等は騙されてくれるだろうか。
馬車の扉を開けて、降りるとダニエルは手を差し出し、エスコートの態勢に入る。女性の一人はおずおずと手を差し出し……そこで一人が動いた。ダニエルよりも早く、後輩シェリルが奴を捕える。
他にも逃げようとする者がチラホラと、ダニエルは当初の予定通り奴らを捕縛し、一件落着を試みる。
「お久しぶりです、元隊長様。」
ダニエルは目の前の男に笑いかけた。
「酷いな、私をお忘れですか?」
ユーゴという名の薄汚れた男は、汚職に塗れた元騎士だ。女と金に目がなく、侯爵家に生まれたのにも関わらず身持ちを悪くした馬鹿な男。
「折角泳がせてあげてたのですから、もっと綺麗に泳いでくださいよ。」
ユーゴは一緒に捕縛された面々に思いがけない人物がいることに驚いていた。
「ああ、そういうことか。」
よりにもよって最初から、企みはバレていた。
「話を信じすぎたな。お前としたことが、素直すぎて、笑ったぞ。相手がお前と同じ悪人だから、普段は騙されないだろうに。相手が善人だと、アンテナも働かなくなるのか?善人だからって全く嘘をつかない訳じゃない。それぐらいわかるだろ。」
「なら、その女も、奥方ではないんだな。」
「ああ、彼女は奥方の侍女だ。昔から伯爵家で護衛も兼任するほどの、エリート侍女様だよ。名前はアンだ。どこかの元旦那様が勇敢にもセクハラをしたと言う噂の侍女だ。」
「そこからか。」
ユーゴの敗因は自分が成り変わる男について知らなすぎたことだ。彼の為人は少し観察するだけで、しっかりとわかるのに。
それが何かもわからないのに、その後継者には昔からたくさんの悪人が押し寄せた。宝の中身は現金かはたまた脅しのネタか、それ以上の物か。ジョセフ爺さんがどんな意図で彼にそれを渡したかはわからないが、女好きだと聞けば好きそうな女を送り込み、弱味を見せればそれをネタに脅し、少しずつ懐柔して来た。
だが、男は口を割らなかった。ジョセフから何も渡されてはいないと言いきり、シラを切った。
実際、何人かは騙された者もいて、彼に価値を見出さず、自分で確かめに来た者もいた。
伯爵家には遊び人の坊ちゃんが門を通らず入って来られるようにいくつかの抜け道がある。それを少しばかり細工して、入っては来れるものの、出るに出られない一方通行の入り口を作ることができた。
行きは門を通らなくとも帰りは門以外からは抜けられない。こうして、伯爵家の当主が貴族院に行くその日に、罠を仕掛けておいた。後は彼らが飛び込むのを待つばかり。
ダニエルは騎士の後輩を門に立てて、ダニエルを誤認させた。勿論使用人に門番はダニエルだと言って貰い、本物のダニエルは当主と共に出かける。
帰って来た頃には、悪党は皆庭に集結するので効率よく一網打尽に出来る算段だ。
伯爵家の嫡子ウィリアムが当主になるまで、代理として母ミシェルが当主業を担っている。実は早い内にミシェルの手によって隠された宝は回収しているのだが、あの男に化けた偽物はそのことに気づかない。
アレが本人でないのは最初からわかっていた。出会う使用人が散りばめたヒントに本物なら真っ先に気がついただろう。
伯爵家に着いた馬車の中にはダニエルの他には女性が二人。悪党がたくさんいるこの場に普通ならミシェルを投入することなどあり得ないのだが。果たして、奴等は騙されてくれるだろうか。
馬車の扉を開けて、降りるとダニエルは手を差し出し、エスコートの態勢に入る。女性の一人はおずおずと手を差し出し……そこで一人が動いた。ダニエルよりも早く、後輩シェリルが奴を捕える。
他にも逃げようとする者がチラホラと、ダニエルは当初の予定通り奴らを捕縛し、一件落着を試みる。
「お久しぶりです、元隊長様。」
ダニエルは目の前の男に笑いかけた。
「酷いな、私をお忘れですか?」
ユーゴという名の薄汚れた男は、汚職に塗れた元騎士だ。女と金に目がなく、侯爵家に生まれたのにも関わらず身持ちを悪くした馬鹿な男。
「折角泳がせてあげてたのですから、もっと綺麗に泳いでくださいよ。」
ユーゴは一緒に捕縛された面々に思いがけない人物がいることに驚いていた。
「ああ、そういうことか。」
よりにもよって最初から、企みはバレていた。
「話を信じすぎたな。お前としたことが、素直すぎて、笑ったぞ。相手がお前と同じ悪人だから、普段は騙されないだろうに。相手が善人だと、アンテナも働かなくなるのか?善人だからって全く嘘をつかない訳じゃない。それぐらいわかるだろ。」
「なら、その女も、奥方ではないんだな。」
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「そこからか。」
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