お久しぶりです、元旦那様

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家令 アストン

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お久しぶりで御座います。元旦那様。どうしてこんなところに?先程、エルナが対応していたと記憶しておりますが。

私に会いに来た……はて、何かお約束していましたでしょうか?

ああ、どうして家令が私に代わっているのか、とのご質問でしたか。いえね、前に勤めていた家令は解雇になりまして。こんな不祥事、当家に関係ない方にお知らせするのもどうなのかと思われますが、まあ、貴方でしたら今更貴族家には何の関係も影響もなくなりましたから、よろしいでしょう。

彼は、古くから仕えていた者で、先々代の伯爵様がご存命の頃からずっとこの家を仕切っておりました。

私に仕事を教えてくれた恩は確かにありますが、彼は愚かにも欲に目が眩んだ前当主様を庇いましてね。大きな声では言えませんが、奥様の宝石を盗んだのです。どうやら愛人に強請られたものの、お金がなくて、伯爵家のお金を奪おうと画策していたらしいです。挙句には奥様が盗んだと自分のことを棚にあげて奥様を糾弾したのです。

前当主様とやらは、何を勘違いしたのか奥様が妊娠した頃から女遊びを始めまして、最高で九、十名ほどでしたか。どこの馬の骨かわからない女を次々と愛人にしまして。

中には下位貴族のご令嬢などもおりましたから、如何に伯爵家といえども、貢ぐ金に困って、奥様の装飾品に手を出したようです。

それを諌める立場にいた家令が考えなしに庇った結果、あっさりと解雇されまして。

何年も働いて実績を作っても、変化に対応出来ないようだと、切り捨てられるのはどんな立場であっても同じです。

前当主は伯爵家の嫡男でしたが、それだけでした。優秀な奥様と婚姻された後は、子を成すことだけが割り振られた仕事で、それ以上のことは最初から割り振られていません。そうでしたよね?

愛人を作ることも、当主の仕事をしないことも、何一つ奥様からのお怒りはありませんでしたでしょう?

え、何です?お金を貸してくれなかった、ですか?

当たり前でしょう。お金の貸し借りは信用のある者にしかできません。帰ってこないとわかっている金を貸すことは、恩を売った先に何か見返りがある場合だけですよ。

愛、ですか。愛しているなら当然ねぇ。

いえね、笑った訳じゃないんですよ。ただ面白いことを仰るな、と。

奥様が伯爵家に嫁がれたのは、政略によるものですよ?

当主教育とやらはちゃんと受けられていないのでしたら話しても、理解は無理だと思います。

馬鹿にするな?していませんよ。本当のことしか話していませんし。

疑問なのですが、貴方の仰る愛というのは夫の不貞を見逃して愛人に貢ぐお金を用立て、役に立たない夫を敬い、愛人に礼を尽くす、それが伯爵夫人の仕事であると本当にお思いですか?

当主の仕事を全て放棄して、お金を使うだけで働きもしないゴミを甘やかすことが伯爵夫人の務めだとでも?

正気を疑いますね。

不敬、ですか?そう仰られましても。今は平民の貴方と、男爵家の三男である私。どちらが不敬とされるかお分かりですか?

ああ、そこからですか。伯爵家に勤めている者は、下位貴族の出身者が多いです。ご存知なかったのですね。本当に伯爵家に興味がないのですね。

いえ、何を言っても今更ですからね。黙っていようかと思っていたのですが折角なので言いますよ。

貴方の愛人に便宜を図っていた家令ですがね、彼には娘がいたことはご存知ですか?いえ、離婚した元妻の子ではなく、別の女性との子らしいですがね。

彼女、実はもう亡くなっておりまして。元々身体の弱い子だったらしいですが、真冬に湖に落ちて、亡くなったそうです。生きていたら、丁度奥様ぐらいの年齢なのだそうです。

彼が何か思い詰めた顔をしていたのは私も覚えています。あの頃、貴方様も冬に凍えて帰って来て、皆を心配させたことがありましたよね?あの時は、貴方の我儘が原因だと言うのに何人かの使用人が処分されましたね。可哀想に。

それに、ここだけの話、もう前の家令は亡くなったそうですよ。あんなに元気でいたのにねぇ。いや、正直仕事以外ではあまり交流はありませんでしたから、原因までは知りませんがね。





それで、いつまで此方にいらっしゃるつもりです?
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