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伯爵令嬢の死
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伯爵令嬢アリス・シューデルトが倒れたのは、呼ばれた茶会の終盤のことだった。すぐに、公爵家の医師に使いを遣り、見せたところで意識は戻らず、そのまま絶命したなど、誰が想像するだろう。
主催の公爵家はよりにもよって、一人娘のシンシアと、第二王子殿下ミカエルとの婚約を解消したばかり。新しいミカエルの婚約者となったのは倒れた伯爵令嬢アリスであった。
婚約解消の理由は、ミカエルがアリスに浮気したことが原因で、それに伴い公爵家はミカエルの後見から降りたところだった。
シンシアはミカエルに恋愛感情は一度も持ったことがなかったが、考えが足りない婚約者を支える為に献身的な努力を続けていた。
ミカエルは自分よりも出来るシンシアに引け目を感じていて、学園に入る頃には疎ましく思い始めていた。ミカエルはアリスを愛し、アリスは最初は戸惑っていたものの、積極的なミカエルに絆され、愛を返していた。
婚約が解消になる前に、不貞をしていた二人は、シンシアに訴えられ、解消と同時に慰謝料を請求されている。
ミカエルの私財は殆ど無かったが、分割で払えるように取り決められ、小遣いも制限されていた。
それでも愛があれば、二人は構わなかった。シンシアと、縁が切れることにミカエルは嬉しくて堪らない。口うるさく罵られることも、行動を制限されることもない、自由を満喫できる、とミカエルは喜んでいた。
王太子である第一王子も、ミカエルの婚約を喜んでくれた。二人は似合いだと、太鼓判を押してくれた。
婚約解消したからには、シンシアに瑕疵がつくことはなかったが、今後の婚約には苦労することが予想された。何せ第二王子に振られた女だ。ミカエルはあの高慢ちきな元婚約者の鼻をあかせて喜んだ。
先は修道院に入るしかないと、睨んでいたシンシアだが、意外なところから、婚約の申し出があった。だが、それはミカエルに知らされない。後ろ盾のなくなった第二王子など、取るに足らない存在だったからだ。
伯爵令嬢アリスは、ミカエルを愛していたが、彼について重要なことを理解していなかった。彼は学園では優秀な成績をおさめていたが、それは婚約者のシンシアがいたからだった。また彼は王族特有の考えを持っており、つまりは自分の為に周りが動くのは当然、といった考えを持っていたのであった。
アリスがミカエルの為にする王妃教育、公務、社交は当然のこと。疲れたミカエルを癒し、愛し、甘やかすのは当然のこと。朝から晩までミカエルの為に生き、ミカエルが呼んだらすぐに会いにいくのは当然のことだ、と。
なら、アリスを甘やかし、愛し、慈しむのは誰の仕事か。ミカエルは気づかない。愛は一方的では続かないことに。
そして、アリスはその日、倒れた。毒を盛られた訳ではない。嫌がらせをされた訳でもない。
ただ日々の疲れが溜まり、極度の睡眠不足と栄養失調を引き起こしていた。彼女の死因は、過労死だった。
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