彼女が望むなら

mios

文字の大きさ
上 下
14 / 16

企みはひっそりと

しおりを挟む
企みはひっそりと行われた。イーサンは自分がただ王太后を母に持ったばかりに王宮内に閉じ込められたとは思っていない。自らに付けられた古い魔道具を解析しているうちにその事実に気がついた。

イーサンが閉じ込められていた一番の理由は、魔力量が多すぎるばかりに起きる暴走と、無意識に発動される持って生まれた魅了魔法にあった。

この世に生を受けてから、すぐに取り付けられた魔道具は成長に伴って形を変え、魔力を抑え、魅了魔法を自覚なしに使えなくするものだった。

イーサンはこの魔道具の作り手に心当たりがある。魔道具を作ろうと思い立ったのはアイリスの為だが、魔道具について学べば学ぶほど、自分に付けられたそれがどんな意味を持つのかわかるようになっていった。

イーサンの持つ魅了魔法は放っておくと、使いどころを間違え、混乱の元になりかねない。イーサンは生きていく上で過酷な状況下にいた為に、全く使えなくなるする魔道具の使用を諦めたのだろう。

きちんと自覚して、ここぞと言う時には使われるその能力を、イーサンは一度だけ、使った。

使ったことを、アイリスには気づかれている。凄いね、と目を大きく瞠って悪戯が成功した子供みたいな笑顔を見せてくれた。

はじめて公爵家を訪れ、公爵に挨拶したその時に、少しばかり魅了させてもらったのは、自分が彼に気に入ってもらえなければ、計画は全て水の泡になるからだ。

その力のおかげか少しばかりの好感を得られたイーサンは、公爵家で自由に動くことができた。アイリスの兄達には、気に入られようと動いたが、特に魅了魔法を使うほどではなかった。アイリスを大切にすればするほど、彼らは妹を大切にしてくれる同志として、イーサンを認めてくれた。

ジェイドに至っては、自らが動くことはない。少しずつ味方を増やした先に、彼を籠絡できる者が現れた。彼女が引き受けてくれたので任せることにした。

王宮の隅で隠れるように生きてきた少年が、こんな幸せを掴むなんて誰が想像できたことだろう。アイリスの髪に触れていると、とても落ち着く。彼女の足枷となる婚約がなくなってからイーサンの心は歯止めが効かなくなってしまった、

アイリスを一瞬たりとも離したくなくて、彼女の迷惑も考えずに散々に構ってしまう。アイリスはそれに今は笑って応えてくれるが、そのうち嫌われたりしたら自分は多分生きていけない自覚がある。

だからといって、いちばん大切な人に魅了魔法は使えない。その力で手に入れた愛など、虚しくなるに違いない。

アイリスは、笑いながら、「そんな心配をするよりも、私を一生愛してくれればいいの」と言う。

互いに愛に飢えた二人。愛し方なんて、わからない。だからこそ、ただ愛せばいい。

イーサンはアイリスに口付けながら、それならいくらでもできる、と思う。
「俺の愛は多分重いよ?覚悟はできてる?」
抱きしめられながらアイリスは、とびきりの笑顔で、頷いた。
「私の愛も相当よ?舐めないでよね。」

あとはひとしきり笑って、口付けの続きを楽しむ。いつのまにか部屋から人が消えていた。

恥ずかしさを感じることは今の二人にはない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。

華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。 王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。 王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~

小倉みち
恋愛
 元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。  激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。  貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。  しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。  ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。  ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。  ――そこで見たものは。  ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。 「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」 「ティアナに悪いから」 「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」  そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。  ショックだった。  ずっと信じてきた夫と親友の不貞。  しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。  私さえいなければ。  私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。  ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。  だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。

処理中です...