彼女が望むなら

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傀儡の王子

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イーサンがこの世界に生を得て、王太后の一人息子として生まれた時、すでに今の陛下は即位していた。王家の血を引かない王として、王太后の慈悲によってこれ以上ない後ろ盾を手に入れたというのに、蛙の子は蛙にしかならない。王太后の姪である王妃を蔑ろにし、学園時代の恋人を寵愛する愚を犯した。

イーサンの父親はいわずもがな、先王陛下ではない。その辺りはこの国では重視されない。血を重んじる貴族の中には、イーサンと、アイリスの婚約を願う者がいた。だが、そうなると、今の陛下の周辺にいた者達が反発した。王妃付きの侍女はその筆頭である。

王太后の夫を始め、王になる男は、妻に不誠実を繰り返した。己の立場を理解してこその不貞を行った。だが、当然ながら事情は闇に葬られる。

これなら最初から王ではなく、女王とした方がややこしくはなかったと思うが、女性が王位を継ぐことはできない、という法の下、歪な王家が出来上がった。

先王陛下は王位を簒奪したとして、早めに退位し、北の塔で幽閉されている。王と言ってもお飾りでしかないので、何の不自由もない。

王妃は、王太后の姪であるが、幼い頃から婚約者を愛していた。王妃は深い愛情を夫に与えたが、同じだけの愛を返してくれる夫ではなかったし、その出自や能力について、コンプレックスの塊だった陛下が王妃に優しくできるはずもない。自分の父親と同じ裏切りを王妃にした上に、侍女に手を出して、ジェイミーを王妃との息子と入れ替えた。

王妃の息子は死産と言ったが、実際には生まれてすぐ侍女の手によって殺されていた。

「先王が、幽閉で済んだからと言って、お前も同じにはならないよ。なんて言ったってお前は使用人の身なんだから、王家の簒奪って、とても重い罪なんだよ?」

侍女はイーサンを睨みつけたままであるから、一生何が悪いかわからないまま何だろう。とはいえ、あとどれだけの間彼女の人生が残っているかはわからない。

「死産の子を、入れ替えたのは、私の咎でもあるわ。私も誰の子かちゃんと確認することを怠って、保身に回ってしまったもの。」

陛下と侍女がいつ、入れ替えを思いついたかはわからないが、王妃は中々子ができずに、焦っていた。折角生まれた子も死産で、そうなるといくら王家の血筋とはいえ、肩身が狭くなると魔が差したのだろう。代わりにと差し出された赤子を見て、その可愛さに絆されてしまった。

そして、二代に渡る王位簒奪が行われてしまった。


「なら尚更、ジェイミーを王太子のままにすることはできないわ。貴方が戻って王位を継いでもらわなければ。」

「いいえ。それは都合が良すぎると思いませんか?自分達が掻き乱すだけ掻き乱した状態で、後始末もせずに、血筋だからと理由をつけて、こちらに丸投げするおつもりで?きちんと後始末はしていただきますよ。生憎、こちらは王位など面倒なものは欲していないのです。アイリスもようやく解放されて清々しい気持ちでいるのに、何の罰なんですか。」

イーサンの言葉が、思っていたのと違ったのか、一瞬侍女の睨みがおさまった。

「ジェイミーには、王位を継いでいただきます。傀儡の王として、これほど扱いやすい者はいませんからね。」


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