彼女が望むなら

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壊れたらまた次を

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「それで、わざわざどうされたので?」
イーサンは出された紅茶の香りを楽しんで、一口飲んだ。普通の紅茶だ。何か頼み事があるらしいので、殺す為の毒ではなく、こちらが何でもいうことを聞く系の何かが入っているのでは?と魔道具を仕込んでいたのだが、反応はない。

「貴女、次の王太子になる気はない?」

イーサンの王位継承権は公爵家に向かった時に剥奪されている。王妃の話によると、今の今までなんと、王妃の裁量で留められていたらしい。



「今は、大人しく勉強をなさっているのでしょう?その努力を無になさるおつもりで?」

いつもは堂々とした態度なのに、イーサンの前だと儚げでオドオドした態度を取る王妃をイーサンは昔から好きになれなかった。アイリスに対しての態度と、まるで違う。


「あれが、使い物になるかどうかはわからないわ。」

魔道具を使われることのない王妃は、話には聞いていても、あれがどういう代物かわかっていないらしい。念には念を、と本来なら自分の夫より継承順位は上のイーサンを取り込もうとしている。

「壊れたら次を、ということですか。その際もし挿げ替えるならば、ジェイミー達ではなく、貴女達では?それに元はと言えば、ピアスの効果を過信して、彼をあんな風に育ててしまったのはそちら側の責任です。そのために、犠牲を強いてきた者に、今更虫の良い話です。」

「あの子を奪ったのだから、それほどの義務は生じるはずよ。あの子は私が完璧な教育を施した最高傑作なのよ。」

「アイリスは貴女のおもちゃではありません。お人形遊びはもう卒業したら如何です?それに論点がズレていますよ。アイリスは返してもらったんですよ。奪ったのはそちらです。」



それに、付け加えるならば、アイリスをどうしても欲しかったそもそもの原因は王妃にある。それが侍女に強く出られない理由でもあり、こちらに恥知らずな願いを口にする訳でもある。

「人払いを、とは思いますが、まあ良いですね。」

ここにはイーサンを睨みつける者しかいない。皆が敵対の立場を取るのなら、こちらが気遣う必要もない。

「ジェイミーは貴女の子ではありませんね。だから、王家の血は全く入っていない。」

驚いた顔を見せて、王妃は黙ってしまった。イーサンはまさかばれていないと思っていたとは心外だった。

「いいえ、ジェイミー王太子殿下は王妃様の御子です。」

話に勝手に割り込んできたのは、やはりあの侍女。あれが本当の母親か?いや、関係者か?

本来なら無作法な行為を咎めるのだが、彼女がうっかり何かを口走るのでは、と黙ってみることにした。

「よりにもよって、王妃様の不貞を疑うなんて」

ん?何でそうなる?

「いやいやいや、違うよ。不貞だろうが何だろうが、王妃様が産んでいたら問題はないんだ。王妃様の子ならね。今の問題は、王妃様が産んでいない子が王太子にはなれないよね、って話だよ。論点をずらして、煙に巻こうとしないで。もう全てわかっているんだよ。」

侍女に反論も反抗も出来なかった少年時代。こんな驚いた侍女の顔を拝めるなんて思わなかった。

「それで?本物は、君が殺したの?」

大方、王妃の産んだ子は死産で、たまたま生まれたばかりの子を身代わりに据えた、とかいう筋書きだろうが、甘いんだよ。そんな偶然があってたまるか。

「王妃の子を殺したなら重罪だよ?」

王妃は気がついていなかったのか、目を大きく開いて、侍女を見た。イーサンを憎みすぎて歪んだ顔で全てを物語っている。

「どうされたいですか?」

王妃に向き直り、意思の確認をする。おそらく、王妃は何も知らなかった。うまく誤魔化されていたのだろう。

だからといって、彼女の罪がなくなる訳ではないけれど。
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