彼女が望むなら

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彼女の微笑み

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チェルティ公爵家にはアイリスの他に三人の兄がいる。とうの昔に家を出て独立しているため、屋敷にはいないが、たまに帰ってきては、アイリスを甘やかしていく。

一番上の兄は隣国の公爵令嬢と結婚していて、彼方に婿入りしている。イーサンとは何度か面識があり、隣国で起きた婚約者の挿げ替えの際に、協力したこともあって、イーサンを妹の相手として好意的に見てくれている。

彼は長年の片思いを実らせた幸せな男として、自分と似たような状況にあるイーサンに手を差し伸べてくれる。

二番目の兄は、所謂変わり者だが、勉強が得意だった。イーサンに魔道具以外の知識を与えたのは彼だ。兄が教えられなかったものには、「常識」と言ったものがあるが、立場が違えば「常識」もまた変わるのだと、敢えて手付かずにしておいた。

彼も王家に縛られて動けなくなるのが嫌だと、花形の職を蹴って、田舎で妻子とのんびり暮らしている。

三番目の兄は、上二人と少し毛並みが違う。公爵はまだ若く、公爵という爵位を譲ろうとは考えていないのだが、彼は当然のように自分が後継になれると思い込んでいた。

彼のアイリスに対する態度には、愛しいから甘やかすというよりも、少しばかり蔑みを含んでいるように見受けられた。

イーサンの身分についても上二人はこちらから明かさずとも、何となく察していたのに、彼は平民だと思ったようだ。

彼には悪意はなく、ただこちらの為を思って発した言葉は、運悪く公爵の耳に入り彼は後継の候補から外された。

彼は最後まで何が問題なのか分からなかったに違いない。

「どちらにしろ、お兄様の情報収集力では、公爵家を纏める力はなかったわ。」

アイリスは辛辣な物言いだが、それはそうだ。イーサンは生まれてからずっと王宮でひっそりと存在していたが、調べようと思えば簡単に身分が知れるようになっている。

隠したりはしていないのに、答えに辿り着かなかったのだから、やる気が足りないか、能力が足りないか。果たして、他に理由が存在するのか。

公爵自身の思惑と言えば、婚約破棄の話をした時から、家はアイリスに継がせたいと口にするようになっていたから、自分が後継になる、という一言は現実ではなく、自分の願望でしかないということに思い至る筈なのだが。

イーサンは公爵家のことにあまり首を突っ込んではいけない、と戒めるも、アイリスに喜んで欲しくて暴走してしまう。

アイリスのことを元婚約者である王子は、蔑みを込めて「人形」と呼んだが、今まさに自分がその「人形」になっていることにどう思っているのか。

師が作った「王太子のピアス」を少し改良したのは、イーサンの秘密だ。イーサンの行動の裏にはいつもアイリスがいる。彼女は魅惑の微笑みで、イーサンを後押ししてくれる。

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