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王太子妃の首飾り

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チェルティ公爵家には、学園を卒業したばかりの高位貴族令嬢達が集まって、話に花を咲かせていた。

これには学園の卒業パーティーが王太子殿下の余興によって潰されたことへのお詫びの意味が込められている。決まっていた流れとはいえ、あの瞬間までは王太子殿下の婚約者はこのチェルティ公爵令嬢であるアイリスだったのだ。

王太子殿下の余興は、近年の流行りだそうで、近いところでは隣国でも婚約者のすげ替えは行われていた。

勿論、今回と同様、そちらもあらかじめ対策済みであり、誰も傷付かず綺麗な婚約解消と、新たな王子妃の誕生に、皆好意的な目を向けている。

こういったことは、昔から少なからずあった。その度に、高位貴族の令嬢達は苛々を募らせ、好きでもない相手に尽くした時間を返せ、と叫びたくなる思いを持ち続けていた。

彼女達の力になってくれたのは、王太后様。陛下の母であり、王妃様を憂なく陛下と結婚させたその人であった。

王家の男達は、女性の趣味が悪く、恋をすると頭の中が一面の花畑になる癖をお持ちで、学園在学中には、皆一様に同じような方に虜になった。

我が国には側妃制度がない為に、泣く泣くその方とはお別れになったが、すっかり溝の深まった政略結婚の相手が殿方を見る目は冷めていた。

王家の所有する魔道具の中には、「王太子のピアス」なるものが、存在する。一度つけたら、目的が達成されるまで外すことは不可能だ。つけることができるのは勿論王太子のみ。これは所謂矯正ギプスで、つけている間はどんな愚かな者でも立派に、王太子としていられるという、優れ物である。

つけたことはないのでわからないが、本人の意識やら思考に関係なく、操られるらしい。こんなものがあると言うことは、昔から王家には甘えた男ばかりがいたということだ。

王太后様の鶴の一声によって、これの王太子妃バージョンが作られたのは、まだアイリスが五歳の頃。

丁度、殿下との婚約が決まった頃のこと。「王太子妃の首飾り」は、誰がつけても立派な王太子妃になれる優れ物であり、これがこの国できちんと教育を受けてきた高位貴族なら、付けなくて良い代物である。

「王太子妃の首飾り」は、高位貴族のご令嬢達には救いの神に見えた。この品を作った魔道具師は隠匿されているが、チェルティ公爵家のお抱え魔道具師である。彼は婚約解消されたアイリスとは恋人であり、彼女を自由にする為に、魔道具を作ったのだった。

「今頃、王妃様からお渡しされている頃でしょうか。」

王妃教育は明日からだと、聞いている。魔道具があるからには男爵令嬢の王太子妃教育はすぐに終わるだろう。

アイリスは、あのお子様な殿下を引き取ってくれた男爵令嬢に思いを馳せる。もし、この魔道具が普及したなら、いつか王家などいらなくなるんじゃないかしら。誰でもなれるのなら、血の尊さなど無意味でしょうし。

そもそも今の陛下は王家の血を受け継いでおられない。先先代の王の血筋を引く王太后様が今の陛下を産んだわけではないからだ。今の王太子殿下は、王妃様の血によって、一応は王家の血筋とは言えなくもないけれど。王家の血はどんどん薄まっていって、最後には限りなくゼロに等しくなっていく。

王家に限らず、それが自然なことではある。

「あの首飾りの、高位貴族用を作る話はどうなりました?」

声をかけてきた令嬢はマリジュ公爵家の、ヴァイオレット様。兄君が最近下位貴族のご令嬢に夢中になっている、とかで魔道具の購入を希望されている。

他にも、チラホラと要望があり、貴族用の魔道具を売ることが決まっている。

夜会では同じ魔道具を身につけさせられている人が何人いるのかしら。その様子を想像するだけで今から楽しみである。一見、王太子妃に憧れたように見えるそれは、本来なら付けなくて良い代物なのだから。

これこそ、高位貴族にだけ許された余興になることだろう。
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