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初恋を探しに来た王子
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年末のクソ忙しい時期に奴は呑気な顔で現れた。生徒会の仕事をしないくせに偉ぶっている何人かの役員のせいで、また発案したものを投げるだけで何とかなるだろうなんて勘違いしている奴がいるせいで、仕事が終わらない最中、元凶の兄である第一王子ミハイルが、書類が舞う生徒会に奇襲をかけたのである。
「おや、間違ったか。」
弟である第二王子がいないから、ここは生徒会室ではないのか、と一瞬帰りかけた彼だが、「合ってます。」と隣の人が言ったことで、一度帰りかけた彼はまた戻って来た。
「君たちに栄えある仕事を持って来た。心して取り組むように!」
あの第二王子の兄だからとあまり期待はしていなかったが、やはり。
「新しい申請でしたら此方の箱に入れてください。後で精査してするかしないか決めますので。」
「今やりかけている仕事を全て後回しにしてもいいから、これに取り組んでくれ。では。」
此方の話を全く聞かずに、去っていく姿はあの年になっても立太子できない原因を見たようで、納得がいった。
とはいえ、とうに学園を卒業した第一王子が生徒会に何かを頼める位置にいるのか疑問は残る。
「面倒だから、学園長には一応話を通しておいた方がいいね。」
仕事の手を一旦止めて、どんなことを頼んできたのかと思えば。
「自分に草を食わせた貴族令嬢を探して欲しい。」
「何これ。」
「不敬だってことで、捕まえたいとかそういう……?」
王子の従兄弟で公爵家のリカルドは、もしかして……と、思い当たる昔の話をしてくれた。
「第一王子が毒を盛られて苦しんでいた時に、庭にあった草を口に入れられたことがあったんだ。何か、解毒用の草だったらしく、それで命が助かったことがある、と聞いた。王宮内で起きたことだから、多分通いの庭師の娘か、貴族令嬢だと予想したんだろうが……庭師に娘はいない。第一王子に比べて身体が小さかったから年齢的には今学園に通っていてもおかしくはない。」
リカルドは、尚も衝撃の言葉を続けた。
「あと、これは多分ミハイルの勘違いだと思うが、その時ミハイルはその女の子とキスをしたらしい。草のせいで、ファーストキスが草の味になったから、見つけて、ファーストキスのやり直しをしたいと……」
「え。気持ち悪……ファーストキスって毒で苦しんでいる人にキスなんてしませんよね。死にたいんですか?」
「いや、でも王子の呪いを解くのはヒロインからのキスが王道だろう、と得意気に言われてみろ。面倒で反論する気も起きんだろ。」
ああ、言いそう。
「陛下も王妃殿下もまともな方なのにどうして王子殿下方はあのような感じに育ったのでしょうね。」
「乳母と教育係に何らかの理由があるんだろうな。王女殿下には何の問題もないから、確実だろう。」
第一王子、第二王子の妹である王女殿下は王妃様によく似た聡明な方で、リカルドの兄と婚約中である。
第一王子と第二王子が立太子しないのは、ベアトリス王女殿下を立太子させようとする陛下の意思があるのではないか、との噂があるほどに、彼女に対する人々の期待は大きい。
「さっきのリカルド様の話を聞いても、生徒会を私用で使おうとするところが既に負けているのだと、納得しますわね。」
このような批判は本来なら不敬と受け取られ罪になる発言だが、ここにはリカルド以外の高位貴族はいないばかりか、リカルドもこの意見に賛成してしまっている為、罪になどならない。最高で十人以上はいる生徒会が毎日固定で五人しか集まらないのも、いらない仕事を増やされて大変な思いをしているのも、全て第二王子アスランの放蕩のせいなのだから、仕方がない。
身分だけしか誇れるところがないからと言って、何でも許してもらえると思ったら大間違いだ。
「学園長には俺が言ってこよう。」
いつもリカルドにその役を押し付けてしまうのは、彼が公爵家という生まれでいるから。
彼以外に王族でもある学園長を動かせる人はいない。残された者達は、また仕事に戻る。もう誰も第一王子の持ってきた仕事に見向きもしなかった。
「おや、間違ったか。」
弟である第二王子がいないから、ここは生徒会室ではないのか、と一瞬帰りかけた彼だが、「合ってます。」と隣の人が言ったことで、一度帰りかけた彼はまた戻って来た。
「君たちに栄えある仕事を持って来た。心して取り組むように!」
あの第二王子の兄だからとあまり期待はしていなかったが、やはり。
「新しい申請でしたら此方の箱に入れてください。後で精査してするかしないか決めますので。」
「今やりかけている仕事を全て後回しにしてもいいから、これに取り組んでくれ。では。」
此方の話を全く聞かずに、去っていく姿はあの年になっても立太子できない原因を見たようで、納得がいった。
とはいえ、とうに学園を卒業した第一王子が生徒会に何かを頼める位置にいるのか疑問は残る。
「面倒だから、学園長には一応話を通しておいた方がいいね。」
仕事の手を一旦止めて、どんなことを頼んできたのかと思えば。
「自分に草を食わせた貴族令嬢を探して欲しい。」
「何これ。」
「不敬だってことで、捕まえたいとかそういう……?」
王子の従兄弟で公爵家のリカルドは、もしかして……と、思い当たる昔の話をしてくれた。
「第一王子が毒を盛られて苦しんでいた時に、庭にあった草を口に入れられたことがあったんだ。何か、解毒用の草だったらしく、それで命が助かったことがある、と聞いた。王宮内で起きたことだから、多分通いの庭師の娘か、貴族令嬢だと予想したんだろうが……庭師に娘はいない。第一王子に比べて身体が小さかったから年齢的には今学園に通っていてもおかしくはない。」
リカルドは、尚も衝撃の言葉を続けた。
「あと、これは多分ミハイルの勘違いだと思うが、その時ミハイルはその女の子とキスをしたらしい。草のせいで、ファーストキスが草の味になったから、見つけて、ファーストキスのやり直しをしたいと……」
「え。気持ち悪……ファーストキスって毒で苦しんでいる人にキスなんてしませんよね。死にたいんですか?」
「いや、でも王子の呪いを解くのはヒロインからのキスが王道だろう、と得意気に言われてみろ。面倒で反論する気も起きんだろ。」
ああ、言いそう。
「陛下も王妃殿下もまともな方なのにどうして王子殿下方はあのような感じに育ったのでしょうね。」
「乳母と教育係に何らかの理由があるんだろうな。王女殿下には何の問題もないから、確実だろう。」
第一王子、第二王子の妹である王女殿下は王妃様によく似た聡明な方で、リカルドの兄と婚約中である。
第一王子と第二王子が立太子しないのは、ベアトリス王女殿下を立太子させようとする陛下の意思があるのではないか、との噂があるほどに、彼女に対する人々の期待は大きい。
「さっきのリカルド様の話を聞いても、生徒会を私用で使おうとするところが既に負けているのだと、納得しますわね。」
このような批判は本来なら不敬と受け取られ罪になる発言だが、ここにはリカルド以外の高位貴族はいないばかりか、リカルドもこの意見に賛成してしまっている為、罪になどならない。最高で十人以上はいる生徒会が毎日固定で五人しか集まらないのも、いらない仕事を増やされて大変な思いをしているのも、全て第二王子アスランの放蕩のせいなのだから、仕方がない。
身分だけしか誇れるところがないからと言って、何でも許してもらえると思ったら大間違いだ。
「学園長には俺が言ってこよう。」
いつもリカルドにその役を押し付けてしまうのは、彼が公爵家という生まれでいるから。
彼以外に王族でもある学園長を動かせる人はいない。残された者達は、また仕事に戻る。もう誰も第一王子の持ってきた仕事に見向きもしなかった。
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