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侍女の仕事は
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子爵令嬢のカトリーヌが身分の低い妃の侍女になったのは、学園在学中に自身の婚約が破棄になったから。相手の男は同じ子爵家の令息で同じ学年に通う男爵令嬢に骨抜きにされ、自分を蔑ろにしたのだ。その男爵令嬢は今や王子妃として、カトリーヌが世話をする羽目になっている。
子爵家の寄親はリガン侯爵家だったが、カトリーヌの婚約破棄が原因で、彼らの元を離れることになった。
リガン侯爵家とは年に何回かは、挨拶することもあったのに、カトリーヌのことをノエル・リガンは覚えていなかった。元より彼は覚えられる方であり、もてなしを受ける方であるから、人の名前を覚える必要はない。
カトリーヌは妃には仕えるがそれは仕事を選り好みできないからに他ならない。
ましてや王家にバレたら首など一瞬で飛びそうな危ない行為をすることも、仕事だから、と言える。
妃付きの侍女であっても、カトリーヌの主人は王家ではなかった。だから、王家に例え行為を咎められても主人に命令されただけと言えば良い。
それでも相手が王家なら無事ではないかもしれないが。
カトリーヌは婚約が破棄になってからは何も希望を持てずにいた。幼い頃からずっと好きだった婚約者とは、学園を卒業したらすぐに結婚するつもりで、互いの子爵家を発展させる為の勉強をしてきた。
彼女の勤勉さは、公爵家が寄親となった際に優位に働いた。公爵家のご令嬢は、妃付きではなく、自分付きになるように薦めてくれた。
だが、危険の伴う妃付きをカトリーヌは望んだ。
皆の人生を壊して、自由に生きている彼らの破滅を特等席で見たかったのだ。
「カトリーヌ嬢、王子妃がお呼びだ。」
我儘な王子妃は何かあるたびに侍女を呼び出す。カトリーヌの主人は、王子妃を甘やかせることを望んだ。
「貴女がいないと何も出来ないぐらい依存させて頂戴。」
幸か不幸か、その目論見は見事に当たる。侍女を蔑みながらも頼ってくる姿は愚かしく、可笑しい。
彼女はカトリーヌの手引きで呼ばれた男の子を立て続けに三人産んだ。二人は王家の血を引いていないから、廃籍されたが、後一人はどうだろうか。
夫と瓜二つの赤子は赤子だけでも、残されるかもしれない。カトリーヌは三人目の人物については素性がわからない。
妃は、同級生のマークス・キュリーだと言っていたが、カトリーヌが見た男はキュリー家の特徴の赤い髪を引き継いでいなかった。
キュリー家の赤毛は、光が当たると見ようによっては薄い金髪に見えないこともない。カトリーヌは妃がマークスだと言うからには異は唱えないことにした。
マークス・キュリーは既に貴族ではない。婚約者がいなくなり、後ろ盾がなくなった彼らには身分以外の価値がなかった。
王子妃の部屋に入ると、彼女はカトリーヌを見るなり尋ねてきた。
「この子、誰の子だと思う?」
突然聞かれてもよくわからない。わかることといえば、この子も儚くなりそうだと言う事実だけ。
「マークス様のお子ではないのですか?」
「……そうよね。」
そう、マークス様のフリをして忍び込んだ誰かがいなければ。
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カトリーヌは婚約が破棄になってからは何も希望を持てずにいた。幼い頃からずっと好きだった婚約者とは、学園を卒業したらすぐに結婚するつもりで、互いの子爵家を発展させる為の勉強をしてきた。
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「……そうよね。」
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