どうぞ、(誰にも真似できない)その愛を貫いてくださいませ(笑)

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脅威

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「それで、貴女の願いは叶えられたのでしょうか?」

王太子に呼ばれた女性は、歪な笑みを浮かべたが、肯定も否定もしないままだった。

「彼らは、自らを省みることなどありません。貴方に指摘されたところで何も思い出せることはないでしょう。」

王太子との問答で自分が嵌められたと思い込んでいる彼は、確かに答えにたどり着けないかもしれない。

「産まれた子が不幸にならないように配慮して下さりありがとうございます。姉も浮かばれますわ。」

彼女はその姉によく似た儚げな雰囲気でありながら、感情の篭らない瞳を向けている。

「私、第一王子の演説を今も覚えておりますの。どんな理由があったとしても虐めをするなんて、上に立つ者として、ふさわしくない、でしたかしら。言葉だけ捉えるならそれは確かに同意しますわ。それで?彼の方達は未だに同じ場所にいますわよね?私、姉の為だけではなく、怒っておりますの。いつまで待っても何一つ理解しない彼らに。

やられた方は覚えていることを立場が変わると全く覚えていないなんて、理不尽ではありません?」



妹が婚約破棄をしたきっかけになった日のことは、「事件」と呼ぶ者と「騒動」と呼ぶ者に二分される。前者はあの時の本当の被害者に気づいている者で、後者はあくまで他人事である者。

ノエル・リガンの認識はどうだっただろうか。デリックは考えてみたがわからなかった。

「虐めの加害者を被害者と見誤る方ですもの。下位貴族の名前も知らぬ令嬢が命を落としたとして、関係ないと切り捨てる者が正しさを騙るなんて、笑えますわ。」

「生ぬるい、と仰るのですか。」
「当然ですわ。あの女の身柄を、と言いたいところですが、そちらはそちらの都合があるでしょうから、関係者の方で結構です。彼らはもうこの国では用済みなのでしょう?私が貰いうけます。」

デリックは有無を言わさない雰囲気を醸し出す彼女を恐ろしく感じる。儚げな見た目には似合わない強い殺気に、気を引き締めなければ震えが止まらなくなる。

「因みに、妹さんはご結婚されたのですね。残念だわ。姉の憧れの方でしたから、我が国へと思っていたのですが。……そうね。何かあれば頼ってください、とお伝えくださる?縁を大事にしたいので。」

「そう言っていただけて妹も喜びます。」

「ええ、夫に飽きたら、ご連絡ください、とお伝えくださいませ。」


デリックは部屋を出る彼女の後ろ姿をため息と共に送り出す。婚約破棄事件の裏で一人の子爵令嬢が命を落としていたことを彼女は覚えていて、此方に圧を掛けてくるのは、全ての関係者が処分されなければ終わることはない。


関係者はノエル・リガンをはじめとする、あの男爵令嬢に熱をあげていた者達。彼らは愛する彼女の機嫌を取る為だけに子爵令嬢を死に追いやった。

彼女は妹を気に入っていると言いつつも、彼女にとっては、妹すら罰の対象なのではないかと穿った見方をしてしまう。

流石に人妻となった妹を狙うことはないだろうと思いたかったが、震えが止まることはなかった。


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