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罪の自覚
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「こちらでございます。」
あの日、ノエル・リガンは愛する女性に呼ばれてノコノコと現れた。侍女に通された間は、後宮の奥にある。夫となった第一王子の独占欲によりこんな場所に押し込められている、と愛する彼女は言った。だが、ノエルは他に理由があることをちゃんと理解していた。
自分が婚約者よりも、愛する彼女。不貞だとは言われても気持ちを抑えられない。それは彼女が第一王子の妻になってからもずっと続いていた。だけど、ノエルだって婚前交渉などいくら彼女が良いと言ってもいけないことだとわかっている。ましてや、結婚相手は王族なのだから、何より純潔であることが求められる。
とはいえ彼女に王子妃という大役が務まるような能力がない事ぐらいわかっていた。第一王子が王太子の地位を降ろされ、同時に陣営の解体が行われては、最初から何の権限もなかったノエルが動いたところでどうにもならない。
何かと理由づけては勉強を遠ざけていた彼女が妃教育をこなせるなんて思ってはいなかった。だから、殿下は彼女を側妃もしくは愛妾にするものだとばかり思っていた。まさか、公爵家を敵に回してまで、婚約破棄を画策していたとは、誰が思っただろう。
そうは言ってももう既に過ぎたことだ。彼女は王太子妃にならないし、この後どうなるのかわからない。ノエルは未だに婚約者であるエリカを思い出し、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「私が一緒なのに、誰のことを考えているの?」
彼女は妃教育どころか淑女教育すらまともに受けていない。淑女であるならばまず夫以外の男と二人きりになったりしないし、密着して話をしたりしない。ましてや裸に近い格好で男を呼び入れたりはしない。
ノエルは当時の自分がどこかおかしくなっていたのだと今ではわかっている。彼女についていた侍女達はいつのまにかいなくなり、部屋には二人きり。部屋には嗅いだことのない良い香りが立ち込めていた。あれはもしかしたら、媚薬の類だったのかもしれない。そうして、ほいほいと周りに乗せられて、たどり着いた未来は決してノエルに優しくはなかった。
リガン侯爵家に連れてこられた赤子はノエルによく似た容姿をしていた。もし、彼女が望んでいるのなら、離縁した後に彼女を迎え入れて、夫婦になろうと思っていたが、そうはならなかった。彼女は自分以外の男との子をまた妊娠したのだという。
ノエルは自分のやったことを棚に上げて彼女に裏切られた気分になる。
あれから家族は皆赤子に掛かり切りで、ノエルのことなど気にしていない。
現王太子であるデリックからの召喚状を受けて理解したことは、自分達は、あの時の婚約破棄騒動の責任を取らされるのだということ。
あの事件を機に嫡男を下ろされる者はいたけれど、それは家の中のことであって、罰という程のことではない。
「わかってはいると思うが、托卵は重罪だ。貴殿は王家を乗っ取ろうとした罪に問われている。赤子を引き取り育てることで、家の責任を追及することはしないが、貴殿は別だ。」
そう言われて、気がついた。例え仕組まれていたとしても、王子の妃と関係を持ち、子を作ることは、重罪だ。王家を乗っ取り、我が子を王位につけようと画策した、と思われても仕方はない。
そんなつもりはなかった、と口にすることはできなかった。結果が全て。実際に王子妃はノエルの子を産んでいる。後宮内で逢引をして、侍女らを退がらせている。
「私は誰に嵌められたのですか。」
「強いて言えば、君が愛した女性、だろうな。彼女は、王子妃に相応しいとは思えない。元はと言えば貴殿らが勘違いさせたのが原因だと思うぞ。客観的にあの時のことを思い出してみれば、きっとわかる筈だ。」
王太子の答えはわかるようなわからないような、ある疑問だけが漂っている。一つわかることはノエルがまた選択を誤ったことくらいだ。
入れられた牢の中で、ノエルはあの日の婚約破棄について思い返していた。
あの日、ノエル・リガンは愛する女性に呼ばれてノコノコと現れた。侍女に通された間は、後宮の奥にある。夫となった第一王子の独占欲によりこんな場所に押し込められている、と愛する彼女は言った。だが、ノエルは他に理由があることをちゃんと理解していた。
自分が婚約者よりも、愛する彼女。不貞だとは言われても気持ちを抑えられない。それは彼女が第一王子の妻になってからもずっと続いていた。だけど、ノエルだって婚前交渉などいくら彼女が良いと言ってもいけないことだとわかっている。ましてや、結婚相手は王族なのだから、何より純潔であることが求められる。
とはいえ彼女に王子妃という大役が務まるような能力がない事ぐらいわかっていた。第一王子が王太子の地位を降ろされ、同時に陣営の解体が行われては、最初から何の権限もなかったノエルが動いたところでどうにもならない。
何かと理由づけては勉強を遠ざけていた彼女が妃教育をこなせるなんて思ってはいなかった。だから、殿下は彼女を側妃もしくは愛妾にするものだとばかり思っていた。まさか、公爵家を敵に回してまで、婚約破棄を画策していたとは、誰が思っただろう。
そうは言ってももう既に過ぎたことだ。彼女は王太子妃にならないし、この後どうなるのかわからない。ノエルは未だに婚約者であるエリカを思い出し、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「私が一緒なのに、誰のことを考えているの?」
彼女は妃教育どころか淑女教育すらまともに受けていない。淑女であるならばまず夫以外の男と二人きりになったりしないし、密着して話をしたりしない。ましてや裸に近い格好で男を呼び入れたりはしない。
ノエルは当時の自分がどこかおかしくなっていたのだと今ではわかっている。彼女についていた侍女達はいつのまにかいなくなり、部屋には二人きり。部屋には嗅いだことのない良い香りが立ち込めていた。あれはもしかしたら、媚薬の類だったのかもしれない。そうして、ほいほいと周りに乗せられて、たどり着いた未来は決してノエルに優しくはなかった。
リガン侯爵家に連れてこられた赤子はノエルによく似た容姿をしていた。もし、彼女が望んでいるのなら、離縁した後に彼女を迎え入れて、夫婦になろうと思っていたが、そうはならなかった。彼女は自分以外の男との子をまた妊娠したのだという。
ノエルは自分のやったことを棚に上げて彼女に裏切られた気分になる。
あれから家族は皆赤子に掛かり切りで、ノエルのことなど気にしていない。
現王太子であるデリックからの召喚状を受けて理解したことは、自分達は、あの時の婚約破棄騒動の責任を取らされるのだということ。
あの事件を機に嫡男を下ろされる者はいたけれど、それは家の中のことであって、罰という程のことではない。
「わかってはいると思うが、托卵は重罪だ。貴殿は王家を乗っ取ろうとした罪に問われている。赤子を引き取り育てることで、家の責任を追及することはしないが、貴殿は別だ。」
そう言われて、気がついた。例え仕組まれていたとしても、王子の妃と関係を持ち、子を作ることは、重罪だ。王家を乗っ取り、我が子を王位につけようと画策した、と思われても仕方はない。
そんなつもりはなかった、と口にすることはできなかった。結果が全て。実際に王子妃はノエルの子を産んでいる。後宮内で逢引をして、侍女らを退がらせている。
「私は誰に嵌められたのですか。」
「強いて言えば、君が愛した女性、だろうな。彼女は、王子妃に相応しいとは思えない。元はと言えば貴殿らが勘違いさせたのが原因だと思うぞ。客観的にあの時のことを思い出してみれば、きっとわかる筈だ。」
王太子の答えはわかるようなわからないような、ある疑問だけが漂っている。一つわかることはノエルがまた選択を誤ったことくらいだ。
入れられた牢の中で、ノエルはあの日の婚約破棄について思い返していた。
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