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王太子の慈悲

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第一王子の失態の裏で急に王太子という地位に踊り出たシューダー公爵家の嫡男デリックは、衆人環視の中行われた大々的な婚約破棄を冷めた目で見ていた。

肝心のバセット侯爵令嬢と、リガン侯爵令息はあの場では婚約破棄とならなかったからである。

第一王子が実際にどうなるかを確認してから動くことはわかってはいたが、バセット侯爵家の動きが見えなくて苛立つ日々を過ごしていた。

妹は、念願の初恋を実らせ幸せ一杯でいるが、その夫は色々と大変そうだ。

王弟殿下とは年齢が同じで、学園時からもずっと仲良くして貰った。兄としては友人と妹が幸せになるなら、こんなに嬉しいことはない。

義弟になる筈だった第一王子には心底呆れてはいたが、好きな女性をどうしても側に置きたいと求める気持ちは理解できたので、そこまで不幸を願っていた訳ではない。

とはいえ、愛する妹や我が公爵家を蔑ろにした罪は償ってもらわなくては、と、王太子という立場を奪うことになった。正直、そこから自分が王太子になるなんて、全く考えていないわけではなかったが、妹と結婚した王弟殿下が立太子すると思っていたので、自分に決まった時には驚いた。

第一王子に対しての罰は、三つ。王太子位の剥奪と、結婚した相手との離婚ができないこと。そして、王子としての幽閉である。

本人に告げた子種の処理は、施さなかった。子が産まれた場合、彼らとは引き離し、別で育てることが決まっていた。

まさか最初の子が二人の間の子ではないなど、誰も思わなかったけれど。

誰の差し金か、王太子妃に不貞をさせる使用人が紛れ込んでいるようだ。可哀想な不義の子達は父親の生家へ送り、後継者として教育を施してもらう。

既に荷物に成り下がった我が子だが、できない息子ほど可愛いようで、腹の内はどうあれ、皆赤子を受け取っている。

「お兄様、彼の方達はどうなさるおつもりで?」

不貞を繰り返し夫以外の相手との子を産み続けている王子妃と、公務を取り上げられて、選んだ人間に裏切られ、生きる意欲を失っている王子。

今の立場はあくまで王族の為、彼らを生きながらえさせる為に少なくはない税金が使われている。

「できればあと三年は、待ってくれ。あと最低でも三人は産んでもらわなくてはならないからな。」

身に合わない夢を見た王子妃の末路は考えていた。彼女はこれから子を産む為だけに生かされる。貴族令嬢でありながら、学園にいた頃からずっと男を誑かすことしかしてこなかった彼女なら、手引きされ中に入ってきた男を誑し込むくらいは簡単に出来るだろう。

「三人……お兄様は、慈悲を与えようとなさっているの?争いの元にはならないかしら。」

「そうなれば流石に処分すれば良い。既に反省を見せている者達もいる。彼らに任せておけば同じような事にはならないさ。」

妹は不満そうにしていたが、私だって悪魔ではないのだから、慈悲ぐらい与えるさ。それが慈悲だと思って貰えるかどうかはわからなくても。

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