6 / 24
王太子の慈悲
しおりを挟む
第一王子の失態の裏で急に王太子という地位に踊り出たシューダー公爵家の嫡男デリックは、衆人環視の中行われた大々的な婚約破棄を冷めた目で見ていた。
肝心のバセット侯爵令嬢と、リガン侯爵令息はあの場では婚約破棄とならなかったからである。
第一王子が実際にどうなるかを確認してから動くことはわかってはいたが、バセット侯爵家の動きが見えなくて苛立つ日々を過ごしていた。
妹は、念願の初恋を実らせ幸せ一杯でいるが、その夫は色々と大変そうだ。
王弟殿下とは年齢が同じで、学園時からもずっと仲良くして貰った。兄としては友人と妹が幸せになるなら、こんなに嬉しいことはない。
義弟になる筈だった第一王子には心底呆れてはいたが、好きな女性をどうしても側に置きたいと求める気持ちは理解できたので、そこまで不幸を願っていた訳ではない。
とはいえ、愛する妹や我が公爵家を蔑ろにした罪は償ってもらわなくては、と、王太子という立場を奪うことになった。正直、そこから自分が王太子になるなんて、全く考えていないわけではなかったが、妹と結婚した王弟殿下が立太子すると思っていたので、自分に決まった時には驚いた。
第一王子に対しての罰は、三つ。王太子位の剥奪と、結婚した相手との離婚ができないこと。そして、王子としての幽閉である。
本人に告げた子種の処理は、施さなかった。子が産まれた場合、彼らとは引き離し、別で育てることが決まっていた。
まさか最初の子が二人の間の子ではないなど、誰も思わなかったけれど。
誰の差し金か、王太子妃に不貞をさせる使用人が紛れ込んでいるようだ。可哀想な不義の子達は父親の生家へ送り、後継者として教育を施してもらう。
既に荷物に成り下がった我が子だが、できない息子ほど可愛いようで、腹の内はどうあれ、皆赤子を受け取っている。
「お兄様、彼の方達はどうなさるおつもりで?」
不貞を繰り返し夫以外の相手との子を産み続けている王子妃と、公務を取り上げられて、選んだ人間に裏切られ、生きる意欲を失っている王子。
今の立場はあくまで王族の為、彼らを生きながらえさせる為に少なくはない税金が使われている。
「できればあと三年は、待ってくれ。あと最低でも三人は産んでもらわなくてはならないからな。」
身に合わない夢を見た王子妃の末路は考えていた。彼女はこれから子を産む為だけに生かされる。貴族令嬢でありながら、学園にいた頃からずっと男を誑かすことしかしてこなかった彼女なら、手引きされ中に入ってきた男を誑し込むくらいは簡単に出来るだろう。
「三人……お兄様は、慈悲を与えようとなさっているの?争いの元にはならないかしら。」
「そうなれば流石に処分すれば良い。既に反省を見せている者達もいる。彼らに任せておけば同じような事にはならないさ。」
妹は不満そうにしていたが、私だって悪魔ではないのだから、慈悲ぐらい与えるさ。それが慈悲だと思って貰えるかどうかはわからなくても。
肝心のバセット侯爵令嬢と、リガン侯爵令息はあの場では婚約破棄とならなかったからである。
第一王子が実際にどうなるかを確認してから動くことはわかってはいたが、バセット侯爵家の動きが見えなくて苛立つ日々を過ごしていた。
妹は、念願の初恋を実らせ幸せ一杯でいるが、その夫は色々と大変そうだ。
王弟殿下とは年齢が同じで、学園時からもずっと仲良くして貰った。兄としては友人と妹が幸せになるなら、こんなに嬉しいことはない。
義弟になる筈だった第一王子には心底呆れてはいたが、好きな女性をどうしても側に置きたいと求める気持ちは理解できたので、そこまで不幸を願っていた訳ではない。
とはいえ、愛する妹や我が公爵家を蔑ろにした罪は償ってもらわなくては、と、王太子という立場を奪うことになった。正直、そこから自分が王太子になるなんて、全く考えていないわけではなかったが、妹と結婚した王弟殿下が立太子すると思っていたので、自分に決まった時には驚いた。
第一王子に対しての罰は、三つ。王太子位の剥奪と、結婚した相手との離婚ができないこと。そして、王子としての幽閉である。
本人に告げた子種の処理は、施さなかった。子が産まれた場合、彼らとは引き離し、別で育てることが決まっていた。
まさか最初の子が二人の間の子ではないなど、誰も思わなかったけれど。
誰の差し金か、王太子妃に不貞をさせる使用人が紛れ込んでいるようだ。可哀想な不義の子達は父親の生家へ送り、後継者として教育を施してもらう。
既に荷物に成り下がった我が子だが、できない息子ほど可愛いようで、腹の内はどうあれ、皆赤子を受け取っている。
「お兄様、彼の方達はどうなさるおつもりで?」
不貞を繰り返し夫以外の相手との子を産み続けている王子妃と、公務を取り上げられて、選んだ人間に裏切られ、生きる意欲を失っている王子。
今の立場はあくまで王族の為、彼らを生きながらえさせる為に少なくはない税金が使われている。
「できればあと三年は、待ってくれ。あと最低でも三人は産んでもらわなくてはならないからな。」
身に合わない夢を見た王子妃の末路は考えていた。彼女はこれから子を産む為だけに生かされる。貴族令嬢でありながら、学園にいた頃からずっと男を誑かすことしかしてこなかった彼女なら、手引きされ中に入ってきた男を誑し込むくらいは簡単に出来るだろう。
「三人……お兄様は、慈悲を与えようとなさっているの?争いの元にはならないかしら。」
「そうなれば流石に処分すれば良い。既に反省を見せている者達もいる。彼らに任せておけば同じような事にはならないさ。」
妹は不満そうにしていたが、私だって悪魔ではないのだから、慈悲ぐらい与えるさ。それが慈悲だと思って貰えるかどうかはわからなくても。
897
お気に入りに追加
1,611
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
婚約破棄のお返しはお礼の手紙で
ルー
恋愛
十五歳の時から婚約していた婚約者の隣国の王子パトリクスに謂れのない罪で突然婚約破棄されてしまったレイナ(侯爵令嬢)は後日国に戻った後パトリクスにあててえ手紙を書く。
その手紙を読んだ王子は酷く後悔することになる。
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。
私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる