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用済み
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リガン侯爵家に届けられた子は、侯爵によって、アーノルドと名付けられた。我が子によく似た不貞の子だが、初孫である。可愛くない筈はない。ましてや、我が子の愛する人との間に出来た子である。侯爵家との婚約がなくなったことよりも、王家との繋がりが出来たことに侯爵は少しばかり浮き足立っていた。
侯爵とは違い、事の重大さを理解した夫人は、口の堅い乳母を雇い、赤子に付けることにした。今度は子育てを失敗してはならない。赤子の将来を憂い、謝ることしかできない自分に涙が溢れる。
この子が後継になる時には、我が家はもうないかもしれない。だから、一人でも生きていけるように、貴族でなくとも生きられるように教育しなくては。
夫人は王家との繋がりどころか破滅に手をかけられている状態に震えが止まらなくなる。
バセット侯爵家は許された。王命の婚約破棄はつまりそういうことである。
夫人は最悪、この子を連れて修道院に駆け込むことまで考えた。
親の罪は子に引き継がせてはならない。ノエルは我が子ながら、愚かな人間になってしまった。だが、それは親である自分の責任。ならば我が子の行く末を見届けなければならない。
夫人と侯爵は恋愛結婚を薦めているが、二人は政略結婚である。夫人が偶々侯爵を好きになり、結婚する頃には相思相愛と言っても差し支えないほどだった為に、恋愛結婚みたいだと言われていたが、それも夫人の、折角なら結婚相手とは仲良くしたいと歩み寄った努力の結果である。
こんなことになるならば、バセット侯爵令嬢に優しくするんだった。後悔は押し寄せてくるが、もう今更どうにもならない。優秀だと噂の侯爵令嬢に、コンプレックスが刺激され、会う度に嫌味を言っていた自分。何の言い訳にもならないけれど、出来の悪い自分の息子が、彼女に馬鹿にされているように感じて、彼女の頭を押さえつけるように嫌味を言いたくなった。まるで、敵わない相手の上に立とうとするように。
リガン侯爵家にはもう何もない。王家との繋がりも、貴族家との繋がりもなくなってしまった。
実家には帰れない。少し前に、学園で起きた婚約破棄事件の折に、寄子貴族の中に当事者が何人かいたそうで、とっくの昔に彼らからは絶縁されていた。彼らはリガン侯爵家を離れて、シューダー公爵家の傘下に入ったという。
シューダー公爵家というと、第一王子の元婚約者の実家である。兄は王太子、妹は公爵夫人、一番下の末っ子はまだ学園にも通っていないそうだが、何もなければ彼が後継者になるのだろう。
第一王子の陣営は軒並み、解体されている。公爵家に生かされていた存在の第一王子は、反逆者として切り捨てられた。新しい王太子は、きっとリガン侯爵家に大して何もしないだろう。
彼らはただ眺めるだけだ。我が家の崩壊を愉悦の籠った瞳で眺めるだけ。じわじわと苦しみの中にいるのに、トドメだけ刺されないままに、リガン侯爵家は崩壊する。それは用済みになった貴族家にはお似合いの末路だった。
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