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秘密の恋人 ケヴィン視点
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「アリス・ロゼット公爵令嬢と、ケヴィン・アクト公爵令息が秘密の恋人同士である」と言う噂は、実際のところ、事実ではない。その事情をはっきり知り得ているのは当の本人である、第一王子ジュリアスと、アリス・ロゼット、ケヴィン・アクトの三名だ。
皆それぞれに思うところがあって、噂を否定していないのだが、ケヴィン・アクト公爵令息はそろそろ否定して回りたい感情を抱えていた。
アリスを秘密の恋人とすることで、自身の婚約者であるグレイスに対する風当たりを弱くしようと思っていたのに、肝心のグレイスと全く会えない現状にケヴィンは不満を抱いていた。
アリスの言う通り、彼女の友人達がグレイスを気にして話しかけてくれているが、どこから見ても親しくなっているようには見えない。
アリスはアリスで、ジュリアスに全く相手にされていないから意識させたい、と言う話だったのに、ジュリアスはどこ吹く風で、アリスとの仲が改善されているようには見えない。
もしかして、ジュリアスにも秘密の恋人とやらがいて、こちらに関心すら持っていないのではないか、と考えたが、それだとアリスが可哀想だから、黙っていた。
ジュリアスは、ケヴィンとアリスの噂を聞いても、全く何の反応も見せなかった。婚約者として、アリスを蔑ろにすることはないが、幼馴染であっても昔から自分達の前ではあまり笑顔を見せることはなかった。
「ジュリアスは何を考えているのか分かりにくいのよ。」
アリスがよく言う愚痴だ。でもジュリアスは昔からそうだった。それでもよく見てみると、彼が好きなもの、嫌いなものぐらいは理解できた。彼は亡くなった兄上が大好きで読書を好む、物静かな子供だった。アリスとはまるで正反対な性格だが、アリスに誘われると必ず手を止めて付き合っていたし、わかりにくいながらも婚約者として尊重していると思っていた。
でも。
最近ちらほらとジュリアスに付き纏っている女がいる。彼女は確かどこかの子爵令嬢だったか。ジュリアスが彼女を見る目に特別な感情は見当たらなくても、表情が自分達といる時より数段柔らかいことに気づいていた。
アリスにそれとなく、子爵令嬢の件を伝えるも、特に興味を示すことはなく。アリスの興味はグレイスにあるらしい。
「だって、ケヴィンの愛してやまない婚約者なのでしょう。私だって愛でたいのよ。可愛らしい外見に、芯の強さがある彼女はとても興味深いもの。」
アリスの言葉に、別の意味が含まれているなんて思いもせず。アリスのことをいい奴だと思ってさえいた。
それが悪手だと、気づきもせず。
学年の異なるグレイスに会うには、偶然は装えない。昼休みを利用して、アリスと一緒にグレイスに会いに行くと、彼女は見たこともない男と笑いあっていた。
「あら、お友達ができたみたいね。いえ、秘密の恋人かしら。」
アリスの声は楽しそうで、何だかケヴィンは一方的に裏切られたかのように感じた。
「友人に決まってる。」
「そうね、貴方の婚約者である栄誉を失うような馬鹿な真似はしないわ。楽しそうだから、邪魔しちゃ失礼よ。……もし心配なら手配しましょうか。」
「いや、自分で何とかするよ。婚約者の友人ならば調べなくてはいけないだろう。」
「でも、もしグレイスが貴方が友人を調べていると気がついたら、辛くなるのではないかしら。調べたことはちゃんと貴方に教えてあげるから。安心なさい。」
アリスにそう言われると何だかそんな気もしてきた。グレイスにこれ以上嫌われるのは避けたい。
居ても立っても居られなくて、調べようとしたが、それによって本当に彼がグレイスの秘密の恋人なら、きっと立ち上がれないほどの衝撃を受けることも分かり切っていた。
「君が友人でよかった。」
アリスの微笑みはまるで女神のように見えた。
皆それぞれに思うところがあって、噂を否定していないのだが、ケヴィン・アクト公爵令息はそろそろ否定して回りたい感情を抱えていた。
アリスを秘密の恋人とすることで、自身の婚約者であるグレイスに対する風当たりを弱くしようと思っていたのに、肝心のグレイスと全く会えない現状にケヴィンは不満を抱いていた。
アリスの言う通り、彼女の友人達がグレイスを気にして話しかけてくれているが、どこから見ても親しくなっているようには見えない。
アリスはアリスで、ジュリアスに全く相手にされていないから意識させたい、と言う話だったのに、ジュリアスはどこ吹く風で、アリスとの仲が改善されているようには見えない。
もしかして、ジュリアスにも秘密の恋人とやらがいて、こちらに関心すら持っていないのではないか、と考えたが、それだとアリスが可哀想だから、黙っていた。
ジュリアスは、ケヴィンとアリスの噂を聞いても、全く何の反応も見せなかった。婚約者として、アリスを蔑ろにすることはないが、幼馴染であっても昔から自分達の前ではあまり笑顔を見せることはなかった。
「ジュリアスは何を考えているのか分かりにくいのよ。」
アリスがよく言う愚痴だ。でもジュリアスは昔からそうだった。それでもよく見てみると、彼が好きなもの、嫌いなものぐらいは理解できた。彼は亡くなった兄上が大好きで読書を好む、物静かな子供だった。アリスとはまるで正反対な性格だが、アリスに誘われると必ず手を止めて付き合っていたし、わかりにくいながらも婚約者として尊重していると思っていた。
でも。
最近ちらほらとジュリアスに付き纏っている女がいる。彼女は確かどこかの子爵令嬢だったか。ジュリアスが彼女を見る目に特別な感情は見当たらなくても、表情が自分達といる時より数段柔らかいことに気づいていた。
アリスにそれとなく、子爵令嬢の件を伝えるも、特に興味を示すことはなく。アリスの興味はグレイスにあるらしい。
「だって、ケヴィンの愛してやまない婚約者なのでしょう。私だって愛でたいのよ。可愛らしい外見に、芯の強さがある彼女はとても興味深いもの。」
アリスの言葉に、別の意味が含まれているなんて思いもせず。アリスのことをいい奴だと思ってさえいた。
それが悪手だと、気づきもせず。
学年の異なるグレイスに会うには、偶然は装えない。昼休みを利用して、アリスと一緒にグレイスに会いに行くと、彼女は見たこともない男と笑いあっていた。
「あら、お友達ができたみたいね。いえ、秘密の恋人かしら。」
アリスの声は楽しそうで、何だかケヴィンは一方的に裏切られたかのように感じた。
「友人に決まってる。」
「そうね、貴方の婚約者である栄誉を失うような馬鹿な真似はしないわ。楽しそうだから、邪魔しちゃ失礼よ。……もし心配なら手配しましょうか。」
「いや、自分で何とかするよ。婚約者の友人ならば調べなくてはいけないだろう。」
「でも、もしグレイスが貴方が友人を調べていると気がついたら、辛くなるのではないかしら。調べたことはちゃんと貴方に教えてあげるから。安心なさい。」
アリスにそう言われると何だかそんな気もしてきた。グレイスにこれ以上嫌われるのは避けたい。
居ても立っても居られなくて、調べようとしたが、それによって本当に彼がグレイスの秘密の恋人なら、きっと立ち上がれないほどの衝撃を受けることも分かり切っていた。
「君が友人でよかった。」
アリスの微笑みはまるで女神のように見えた。
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