そんなに悲劇のヒロインぶりたいなら手伝ってさしあげます

第二部 幸せに潜む奉仕活動

うまく甘えられません

ダフィット様に抱きしめられていると、ちょいちょい、と肩をつつかれました。
「ユリウスお兄様！」
抱きついているのを、身内に見られるのは恥ずかしいものです。

お兄様は見たこともないようなスッキリした笑顔で、ダフィット様を連れ出してしまいます。

「ダフィットと話があるから、少しだけ借りるよ。ああ、あの王女はもうこの場にいないから大丈夫だよ。」
「はい。お待ちしております。」
ユリウス様に無理やり連れて行かれて、ダフィット様は不安そうです。

しばらくして、ダフィット様がお腹をさすりながら、戻ってこられました。ユリウスお兄様は、仕事に戻られたようです。

「お腹が痛いのですか？」
何か、悪いものでも食べたのかしら。
「うー、シスコンめが…いや、大丈夫。ありがとう、マリィ。」
シスコン、って何でしょう。たまに、お兄様関連で聞くのですが、どう言う意味なのかしら。お兄様に聞いたら教えてくださらなかったので、諦めていたのですが、ダフィット様なら教えてくださるかしら。

それにしても、最近お忙しく会えるのも限られていたので、こんなに長い時間、ダフィット様と一緒に居られるのは、幸せですわ。ダフィット様に、甘えるなんて恥ずかしくて無理なのですが、せっかく一緒にいるのですから、少しだけ甘えてみることにします。ダフィット様に少しだけ擦り寄ると、ダフィット様が固まりましたわ。あれ？ダフィット様？
あら、どうしたのかしら。

すり寄り方が不自然でしたか。不快だったのかしら。ふと、心配そうなダフィット様の瞳とぶつかります。おでこに手を当てられて、熱を疑われてしまいました。

「マリィ、体調が悪いの？大丈夫？」
私はきょとんとして、首を横に振ります。
「ダフィット様、私、うまく甘えられませんでしたか。」
恥ずかしくも聞くと、またダフィット様が固まられて、どういたしましょう。

「マリィ、お願いだから、私をこれ以上、おかしくさせないで。」
まるで、ダフィット様がおかしいのは私のせいみたいな言い分に少し抵抗を覚えます。ダフィット様がおかしいのは、前からですわ。私のせいではありません。

「甘えない方が宜しいですか。」
「そんなことはない。」
「じゃあ、また甘えても？」
「急にされると、私の心臓が止まるかもしれないから事前に言って貰えると嬉しい。」
「わかりました。」
事前に、今から甘えます、と宣言するのですね。それはそれで、恥ずかしいのですが。

ダフィット様の心臓が止まるのは大変なので、仰るとおりに致します。