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アーレン公爵家②
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国内にいると、つい忘れがちになるが、ここリスル国は、近隣諸国に比べ、圧倒的に国土が狭い。文化も文明も、産業も、何だって、帝国より数段遅れている。それは、ただ王家の怠慢でもあるが、平和ボケというのが一番の理由だ。
私はこの国では伯爵位を与えられた、ただの文官でしかないが、様々な国で色々な王族を見てきた。当たり前ではあるが、国によって王族の立場はマチマチだ。
王族が偉そうでいられるのは、それだけ、大きな責任と義務を果たしているからだが、そう言った想いは、残念ながらこの国では見られない。
例えばこの国の十倍以上の国土を持つ、帝国の皇太子は、十五人いる皇子の中で一番優秀で、立太子する前から様々な功績を得ている。それは、他の皇子も同じだが、国を発展させることが、国民の幸せに繋がると信念を持ち、国の為に動くのを厭わない。
それが、帝国より遥かに弱い一小国になると、国税を使い、一人の女性を虐げ、自分達の悦楽にばかり、興味を持つ。
地図上ではあまりの小ささ、脆弱さに、見逃されているだけの国なのに。
このリスルが、注目されることがあるとすれば、それはアーレン公爵家がついに、王族を排除するか、もしくは独立する、などが挙げられる。そうなれば近隣諸国も諸手を上げて、挨拶に来るに違いない。
第一王子のクレイグは、これまで大したことはしていないにもかかわらず、自分が王太子のつもりだった。それは、アーレン公爵家の娘を婚約者にできたからだ。
アーレン公爵家はこの国の貴族全ての中で、唯一無二の力を持った名門であり、同じ公爵家でも、第二王子アレクセイの婚約者の家、ヘイワーズ家とは一線を画す。
それはあくまでも、婚姻後の話でしかないのだが、クレイグは愚かにも、自分の力だと勘違いをした。
あろうことか、命綱であったリリアを虐げるようになり、王宮で働く若い兵士に、その現場を目撃されている。
帝国の話ばかりしたが、隣国ですら、この国の、三倍以上あるのだ。そして、隣国にはリリアの兄エリオットが、王配として入ることが決まっている。
エリオットはリリアを溺愛しているため、王子と婚約破棄した暁には王子がどうなるかわからない。
愚かな第一王子に比べ、第二王子はまだマシかと言うと、そうはならない。
同じ親から生まれたのだから、仕方がないのだが、選民意識が高く、公爵家ならびに侯爵家以外の貴族を認めないほどの、傲慢な子どもだ。第二王子の婚約者であるヘイワーズのご令嬢は、権力争いに興味がなく、これは歴代のヘイワーズ家においてのことになるが、彼らは完璧な技術畑の住人で、そもそも王族にすら興味がなかった。
だが、兄が公爵令嬢と婚約するのだから、と他の候補を押しのけて、ヘイワーズのご令嬢を本人に会いに行くことも、了承を得ることもなく、勝手に決めてしまった。
ヘイワーズのご令嬢は、キャロルと言い、彼女も今までのヘイワーズ同様、権力だの、地位だのに見向きもしなかった。
それでも、まだ第二王子の方が幾分かマシだと思えるのは、彼が婚約者を大切にしていることを隠さないことだ。
フリでしかなかったとしても、第二王子のアレクセイは、キャロル嬢以外には見向きもしなかった。どこかの盛りのついた猿とは大違いだ。第二王子は浮気をしようにも、下位貴族とは話すのすら嫌がるほどだったので、手を出すなど以ての外だったのだろう。
選民意識の強さが、自身の身を助けるとは。
リリアもそうすればよかったのかもしれない。しかし、相手はそれを望まなかった。お互いに自立して気楽に過ごすより、リリアにだけは自分を気遣うことを当然の義務とした。自分達にはできないと、わかっていたのか、あくまでリリアだけだ。
リリアには構ってほしいけれど、自分は自由に過ごしたい。その身勝手さを嗜めるどころか、王妃さえ、その理不尽を望んだ。
ここでは、リリアの優秀さが仇となった。
彼女が優秀であることは、他国の要人達の目に、リスルの王族は軒並みクソだという真実と共に受け入れられた。
「考えるのも、面倒だからあんな小国一つ、数に任せて攻め入ったら良いのではないかと思ったが。」
「兄上、それなら一旦は、アーレン公爵家は敵になりますよ。」
王家の所有する五つの騎士団を纏めても、まだ強いとされるアーレン公爵家には、王国最強との呼び声高いアーサー・ダグラス卿がいる。
リリアが王妃教育で登城する際に、ダグラス卿も一緒に行き、第一・第二騎士団を鍛え直していることは、周知の事実だ。この時を逃さないように、普段なら訓練に来ないメンツもやってきては教えを請うらしい。
第二騎士団のライズ副団長が、いつもこうであったなら、と嘆いていた。
第一騎士団と第二騎士団はその性質上、仲が悪い。だから、合同訓練とは言っても、参加するのは実力派揃いの第二騎士団のみで、高位貴族の嫡男でありながら、実力の伴わない自称騎士が多い第一騎士団は出てこない。
アーサー・ダグラス卿の凄いところは、元々侯爵家の嫡男でありながら、アーレン公爵家に腕をかわれて、公爵家保有の軍を率いているところだ。
第二騎士団も、ダグラスを勧誘していたのだが、叶わなかったため、リリアが王妃教育を受けている間だけ、訓練をすることで、諦めてくれた。
では、リリアの王妃教育中に護衛はいないのかと言うと、そうではない。伯爵位を持ちながら騎士として身を立てているジャンという青年が、リリアの側に控えている。伯爵位と言うことで、第二王子のアレクセイからは人間として認識されていないが、ダグラス卿のお墨付きの実力の持ち主なため、彼に逆らうことはない。
それにしても、第一王子をずっと牢に閉じ込めておくには、少し罪が足りない。婚約者への暴力は罪が軽いわけでは決してないが、日常的に行われていたり、それ以外に罪がないと、近いうちに王妃辺りが、反省したから、と言って、牢から出してしまうのは、目に見えている。
第一王子の未だ知られていない罪なら、たくさんあるのだから、そろそろストックを出していかないと、つまらないな。ついでに、王妃の厚顔無恥な顔も潰しておいて損はないだろう。
私はこの国では伯爵位を与えられた、ただの文官でしかないが、様々な国で色々な王族を見てきた。当たり前ではあるが、国によって王族の立場はマチマチだ。
王族が偉そうでいられるのは、それだけ、大きな責任と義務を果たしているからだが、そう言った想いは、残念ながらこの国では見られない。
例えばこの国の十倍以上の国土を持つ、帝国の皇太子は、十五人いる皇子の中で一番優秀で、立太子する前から様々な功績を得ている。それは、他の皇子も同じだが、国を発展させることが、国民の幸せに繋がると信念を持ち、国の為に動くのを厭わない。
それが、帝国より遥かに弱い一小国になると、国税を使い、一人の女性を虐げ、自分達の悦楽にばかり、興味を持つ。
地図上ではあまりの小ささ、脆弱さに、見逃されているだけの国なのに。
このリスルが、注目されることがあるとすれば、それはアーレン公爵家がついに、王族を排除するか、もしくは独立する、などが挙げられる。そうなれば近隣諸国も諸手を上げて、挨拶に来るに違いない。
第一王子のクレイグは、これまで大したことはしていないにもかかわらず、自分が王太子のつもりだった。それは、アーレン公爵家の娘を婚約者にできたからだ。
アーレン公爵家はこの国の貴族全ての中で、唯一無二の力を持った名門であり、同じ公爵家でも、第二王子アレクセイの婚約者の家、ヘイワーズ家とは一線を画す。
それはあくまでも、婚姻後の話でしかないのだが、クレイグは愚かにも、自分の力だと勘違いをした。
あろうことか、命綱であったリリアを虐げるようになり、王宮で働く若い兵士に、その現場を目撃されている。
帝国の話ばかりしたが、隣国ですら、この国の、三倍以上あるのだ。そして、隣国にはリリアの兄エリオットが、王配として入ることが決まっている。
エリオットはリリアを溺愛しているため、王子と婚約破棄した暁には王子がどうなるかわからない。
愚かな第一王子に比べ、第二王子はまだマシかと言うと、そうはならない。
同じ親から生まれたのだから、仕方がないのだが、選民意識が高く、公爵家ならびに侯爵家以外の貴族を認めないほどの、傲慢な子どもだ。第二王子の婚約者であるヘイワーズのご令嬢は、権力争いに興味がなく、これは歴代のヘイワーズ家においてのことになるが、彼らは完璧な技術畑の住人で、そもそも王族にすら興味がなかった。
だが、兄が公爵令嬢と婚約するのだから、と他の候補を押しのけて、ヘイワーズのご令嬢を本人に会いに行くことも、了承を得ることもなく、勝手に決めてしまった。
ヘイワーズのご令嬢は、キャロルと言い、彼女も今までのヘイワーズ同様、権力だの、地位だのに見向きもしなかった。
それでも、まだ第二王子の方が幾分かマシだと思えるのは、彼が婚約者を大切にしていることを隠さないことだ。
フリでしかなかったとしても、第二王子のアレクセイは、キャロル嬢以外には見向きもしなかった。どこかの盛りのついた猿とは大違いだ。第二王子は浮気をしようにも、下位貴族とは話すのすら嫌がるほどだったので、手を出すなど以ての外だったのだろう。
選民意識の強さが、自身の身を助けるとは。
リリアもそうすればよかったのかもしれない。しかし、相手はそれを望まなかった。お互いに自立して気楽に過ごすより、リリアにだけは自分を気遣うことを当然の義務とした。自分達にはできないと、わかっていたのか、あくまでリリアだけだ。
リリアには構ってほしいけれど、自分は自由に過ごしたい。その身勝手さを嗜めるどころか、王妃さえ、その理不尽を望んだ。
ここでは、リリアの優秀さが仇となった。
彼女が優秀であることは、他国の要人達の目に、リスルの王族は軒並みクソだという真実と共に受け入れられた。
「考えるのも、面倒だからあんな小国一つ、数に任せて攻め入ったら良いのではないかと思ったが。」
「兄上、それなら一旦は、アーレン公爵家は敵になりますよ。」
王家の所有する五つの騎士団を纏めても、まだ強いとされるアーレン公爵家には、王国最強との呼び声高いアーサー・ダグラス卿がいる。
リリアが王妃教育で登城する際に、ダグラス卿も一緒に行き、第一・第二騎士団を鍛え直していることは、周知の事実だ。この時を逃さないように、普段なら訓練に来ないメンツもやってきては教えを請うらしい。
第二騎士団のライズ副団長が、いつもこうであったなら、と嘆いていた。
第一騎士団と第二騎士団はその性質上、仲が悪い。だから、合同訓練とは言っても、参加するのは実力派揃いの第二騎士団のみで、高位貴族の嫡男でありながら、実力の伴わない自称騎士が多い第一騎士団は出てこない。
アーサー・ダグラス卿の凄いところは、元々侯爵家の嫡男でありながら、アーレン公爵家に腕をかわれて、公爵家保有の軍を率いているところだ。
第二騎士団も、ダグラスを勧誘していたのだが、叶わなかったため、リリアが王妃教育を受けている間だけ、訓練をすることで、諦めてくれた。
では、リリアの王妃教育中に護衛はいないのかと言うと、そうではない。伯爵位を持ちながら騎士として身を立てているジャンという青年が、リリアの側に控えている。伯爵位と言うことで、第二王子のアレクセイからは人間として認識されていないが、ダグラス卿のお墨付きの実力の持ち主なため、彼に逆らうことはない。
それにしても、第一王子をずっと牢に閉じ込めておくには、少し罪が足りない。婚約者への暴力は罪が軽いわけでは決してないが、日常的に行われていたり、それ以外に罪がないと、近いうちに王妃辺りが、反省したから、と言って、牢から出してしまうのは、目に見えている。
第一王子の未だ知られていない罪なら、たくさんあるのだから、そろそろストックを出していかないと、つまらないな。ついでに、王妃の厚顔無恥な顔も潰しておいて損はないだろう。
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