多分あの曲が全ての原因

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思い出したのは

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公爵家に戻った私が思い出したのは残念ながら、あの曲のタイトルでも、あの男性のことでもない。

前世であの平手打ちは、すでにある芸人によって、ネタとして披露されていることを思い出したのだった。

何だ、私が思いついたものではなかったのね……なーんだ。

父はあんな騒ぎを起こした娘を叱るどころか甘やかし、「よくやった。」と褒め倒した。

王家からは流石にお咎めがあるかと思ったら、平謝りされた上に、あの平手打ちで正気に戻った人の家族なんかも含めて大絶賛されているという。

いや、アレはただの暴力よ?結果オーライだっただけで。

偶然居合わせた大神官様からは、私の右手を模した金ピカの「神の巫女の右手」とかいう像が送られてきた。

うわ、夜中に見たくない系のヤツね。



「神の巫女」って何?

聞けば、元々大神官様は陛下の要請で、あの女から発せられている魅了魔法を解くためにあの場にいたそうだ。最初から少しずつ魅了魔法を薄くしている最中に、私が平手打ちで一気に解いてしまった。

どうやら、その流れは衝撃的だったようで、大神官様は私を「神の巫女」と名付けたそうな。

いやいやいや、何度も言うけれど、アレ、ただの暴力だから!!

あ、でも確かに最初の一発はあの女に与えたけれど、音が少しズレたんだった。それでも魅了魔法を弾いたのだとしたら、アレは大神官様のおかげだったのね。

大神官様からは、勝手に「神の巫女」なんて言ってごめんよ、と言う謝罪と、できればこれからも神殿とは仲良くしてね、と言う提案をされた。

まあ、神殿には毎年公爵家から少なくない額の寄付はしてるし、対立する理由もないし、私からはニコッと笑っておいた。困った時の父頼み。使えるものは頼りになる父。

王家とは違って、大神官様はここら辺の国での一番だから、媚を売っておいて間違いない筈。媚は売らないけど。売るのは神殿の方だろうし。今まであの女の魅了にかかって、便宜を図っていたのは、一部の貴族と神官達。勝手に聖女とか祭り上げていたの、知ってるのよ?


私が往復ビンタした騎士、ああ見えて騎士団長なのよね。三十代独身の騎士団長は結婚せずに聖女に骨抜きになっていた情けない男。彼は今回の件で責任を取り、団長の座を辞した。

彼は反省したらしく、私の騎士になりたいと、厚顔無恥にも言っていると言うが、まあお断りだろうな。父の笑顔が怖いもの。私としても、そんなに信条がコロコロ変わる人間は御免被る。

すぐに人を好きになってしまうのは、純粋とか言う以前に人間として成長できてない証だ。


そういえば、私の婚約者も最初は向こうから一目惚れされてからの婚約だったんだっけ。

うちは、私含め皆、嫌がっていたんだった。彼みたいな見るからにボンクラの男は信用ならないからって。

彼らの処遇に興味はない。私にはもう関係ないしね。大神官様が「神の巫女」なんて大層な名前を付けちゃったから、当分は神殿に盾になって貰えるだろうし。

顔色の悪い、神官達は自業自得。煮るのも焼くのも、自己完結でお願いしますよ。


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