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はじまり
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真っ暗闇の森の中を一人彷徨い歩くものがいた。どこから来たのか、どこへ行こうとしているのか、わからないまま道を進む。
どこかで、ケモノの鳴き声が聞こえ、小さな子供は、震えて身を潜めた。
それでも、今までいたところよりは、まだマシだと思った。
頼れるものはない。せっかくにげだせたのだから。行けるところまで行こう。
捕まったら、と思うと足が竦む。まっすぐ進んでるようで、前と同じところへ帰ってきてしまったら?
見つかればただでは済まない。
今度こそ、鎖で繋がれて、足や、腕を切り落とされて、もう二度と逃げられない。
自分の想像した光景に、動揺し、呼吸が荒くなる。
必死で自分を落ち着かせ、さっきケモノが鳴いていた方角へ足を進める。
奥へ、奥へ。
ずっと奥の、ケモノたちが住うところまで。
追ってくる者達は、子供が臆病だと思っている。奥まで来ることは出来ないと思ってる。だから、裏をかいて、森のずっと奥へ行って隠れよう。
木の実とか、食べられそうな物はいくらでもある。
子供は、小さい体を利用して草の陰に身を隠し、夜通し歩いた。
朝になる頃には、森のずいぶん奥まで来ることが出来た。
草木に朝露がついて、幻想的な光景を見て、ほうっと息をつくと、自分1人ぐらいは隠れられそうな茂みに身を隠し、少しウトウトした。
森の奥には獣人が、住んでいた。
ちょうど、子供が微睡んでいる茂みは、獣人の所有する庭だった。
普段とは違う匂いにすぐに気づき、匂いを辿って、子供をみつけた。小さな体にはたくさんの傷があって、傷を見るに、古い傷、新しい傷、とが混在していた。
そこは獣人の家で、一家族が住んでいる。子供を見つけたのは息子だった。
寝かせたまま、家に運び、別の匂いが無いかを確認する。
どうやら匂いは、この子供のだけで、
他にはなかった。
「母さん。」息子は母親に子供を見せた。母親は、驚いたものの、ベッドを整えて、
「ここで寝かせておやり」と言った。
「あの子はどこにいたんだ。」
「あっちの茂みにいたよ。」
「まだ小さいね。親は心配してるだろうに。」
小さな体にたくさんの傷。
心配するような親が、いるだろうか。
「町からここまで結構かかるよ。ずっと1人だったのか、誰かと一緒だったのか。」
「事件か事故に巻き込まれたのかもしれないね。」
子供が起きたら事情を聞くとして、まずは寝かせることにした。
子供が目を覚ましたのは、それから3時間ほど経ってから。
見知らぬ天井と部屋に狼狽る。
ゆっくり窓の近くへ行きそこから見える景色がいつもの景色と異なることに安堵する。
助けてもらったのなら、御礼を言わなきゃならない。もし追手が、もう来るのなら、逃げなきゃいけない。
焦るとまた呼吸が乱れた。
落ち着かせようと、深呼吸をしていると、部屋の扉が開いた。
「ああ、起きたね。お腹空いてるだろ。朝ごはん食べるかい?」
子供は獣人を見るのが初めてだったが、優しい目をした獣人の母親に怖さは全く感じなかった。
「さっき、あんた庭で倒れてたんだよ。
事情はあとできくから、ご飯食べな。」
子供は何も言えず、手を引かれて、ダイニングへ向かった。
「あんたを見つけたのは、息子でね。もう学校行っちゃったんだけど。すーごく心配してたから、今日はすぐかえってくると思うよ。」
「遠慮せず、食べな。」
出て来た料理はどれも美味しくて、子供は生まれてはじめて、お腹いっぱいになるまで食べた。
「もう、いいのかい?」
頷いて、美味しかった、と言うと、
「なら、良かった。」
と、優しく笑った。
「名前はあるかい?」
子供は「743」と言った。
あの施設では、いつも数字で呼ばれていた。
母親は困った顔をして「いい名前をつけてあげなくちゃねー。」と笑った。
どこかで、ケモノの鳴き声が聞こえ、小さな子供は、震えて身を潜めた。
それでも、今までいたところよりは、まだマシだと思った。
頼れるものはない。せっかくにげだせたのだから。行けるところまで行こう。
捕まったら、と思うと足が竦む。まっすぐ進んでるようで、前と同じところへ帰ってきてしまったら?
見つかればただでは済まない。
今度こそ、鎖で繋がれて、足や、腕を切り落とされて、もう二度と逃げられない。
自分の想像した光景に、動揺し、呼吸が荒くなる。
必死で自分を落ち着かせ、さっきケモノが鳴いていた方角へ足を進める。
奥へ、奥へ。
ずっと奥の、ケモノたちが住うところまで。
追ってくる者達は、子供が臆病だと思っている。奥まで来ることは出来ないと思ってる。だから、裏をかいて、森のずっと奥へ行って隠れよう。
木の実とか、食べられそうな物はいくらでもある。
子供は、小さい体を利用して草の陰に身を隠し、夜通し歩いた。
朝になる頃には、森のずいぶん奥まで来ることが出来た。
草木に朝露がついて、幻想的な光景を見て、ほうっと息をつくと、自分1人ぐらいは隠れられそうな茂みに身を隠し、少しウトウトした。
森の奥には獣人が、住んでいた。
ちょうど、子供が微睡んでいる茂みは、獣人の所有する庭だった。
普段とは違う匂いにすぐに気づき、匂いを辿って、子供をみつけた。小さな体にはたくさんの傷があって、傷を見るに、古い傷、新しい傷、とが混在していた。
そこは獣人の家で、一家族が住んでいる。子供を見つけたのは息子だった。
寝かせたまま、家に運び、別の匂いが無いかを確認する。
どうやら匂いは、この子供のだけで、
他にはなかった。
「母さん。」息子は母親に子供を見せた。母親は、驚いたものの、ベッドを整えて、
「ここで寝かせておやり」と言った。
「あの子はどこにいたんだ。」
「あっちの茂みにいたよ。」
「まだ小さいね。親は心配してるだろうに。」
小さな体にたくさんの傷。
心配するような親が、いるだろうか。
「町からここまで結構かかるよ。ずっと1人だったのか、誰かと一緒だったのか。」
「事件か事故に巻き込まれたのかもしれないね。」
子供が起きたら事情を聞くとして、まずは寝かせることにした。
子供が目を覚ましたのは、それから3時間ほど経ってから。
見知らぬ天井と部屋に狼狽る。
ゆっくり窓の近くへ行きそこから見える景色がいつもの景色と異なることに安堵する。
助けてもらったのなら、御礼を言わなきゃならない。もし追手が、もう来るのなら、逃げなきゃいけない。
焦るとまた呼吸が乱れた。
落ち着かせようと、深呼吸をしていると、部屋の扉が開いた。
「ああ、起きたね。お腹空いてるだろ。朝ごはん食べるかい?」
子供は獣人を見るのが初めてだったが、優しい目をした獣人の母親に怖さは全く感じなかった。
「さっき、あんた庭で倒れてたんだよ。
事情はあとできくから、ご飯食べな。」
子供は何も言えず、手を引かれて、ダイニングへ向かった。
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「遠慮せず、食べな。」
出て来た料理はどれも美味しくて、子供は生まれてはじめて、お腹いっぱいになるまで食べた。
「もう、いいのかい?」
頷いて、美味しかった、と言うと、
「なら、良かった。」
と、優しく笑った。
「名前はあるかい?」
子供は「743」と言った。
あの施設では、いつも数字で呼ばれていた。
母親は困った顔をして「いい名前をつけてあげなくちゃねー。」と笑った。
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