婚約者は一途なので

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婚約者は綺麗好きなので

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アリスの熱が下がったのは二日後。公爵家からの登校はさほど珍しくはないが、まさか馬車の中から、お姫様抱っこされるとは想定していなかった。

こんなこと……また熱が出たらどうしよう。どうにかこうにか婚約者の腕の中から這い出ようとするも、ワンコがシュンとなるのを見ていられない。

彼は大人しく抱っこをされたままだと、機嫌良くしてくれる。

「私は重くないかしら?」
「羽のように軽いよ。」

歯の浮くような台詞は、食い気味に確固たる離さないぞ、と言う覚悟が見える。ここで必要なのは、此方が恥ずかしさを捨てること。

……無理。無理無理無理無理。

無理!


馬車を降りる時は流石に抱っこはやめてくれた婚約者はにっこりと笑って此方にエスコートの手を差し出す。

あの子爵令嬢はもういないのに、またアリスの近くで人が転ぶ音がする。

アトラスは気がついていないのか無視を決め込み、私も関わった後が怖いから、そのままにしていると、転んだ女生徒の大きな独り言が聞こえてきた。

「いっけなーい、私って、ドジだからー。」

うわー、こいつもまたおかしい奴では。

令嬢らしくない言葉を胸の中で反芻して、さっさと馬車を降りる。何故か降車中の、此方側に無理矢理入ってこようとする女性。ぶつかりそうになったところを彼に抱き上げられ、「ほら、危ないから、抱っこしようね。」と言われてしまうと、あれだけ必死に馬車で説得した努力は水の泡。

恥ずかしさに、涙目になる私に彼の笑顔は逆に清々しい。ここまでフル無視されていた転んだ女は、何故かまだそこにいて、あろうことか抱き上げた彼の制服の裾を掴み、待ったを掛けた。

ああ、そんなことしたら……心配する私の顔をチラと見て、少しだけ嘲るような笑いをした彼女。

ああ、そんな顔したら……アトラスは、婚約者との二人の時間を邪魔した女生徒に、離すように命じた。

「あの、私も怪我してしまったようでおぶって貰えませんか?」

「困るよ。私は綺麗好きだから、汚い物には触りたくないんだ。君を学園に入れた者は誰だ?誰の許可を得て、こんなところにいるんだい?」

「私は、ヨーク男爵令嬢です。」

「ああ、地方の……多分君にはこの学園は合わないと思うから別のところに行くといい。生憎、汚い物は構内に入れない。」

「ひどいです。私の何処が汚いって言うんですか。」

何故、此方を見て非難するのか全くわからない。彼女を汚物だとか汚いとか言ったのは私ではないのに。

「君の何が?そんなこと知るわけがないけれど、心は汚いし、君は自分が可愛いと思い込んでるみたいだけど、それは勘違いだ。アリスは私の婚約者で君より格上の伯爵令嬢だよ。君は学園に通う意味を理解していない。だから、別の学園が良いと勧めたんだ。学園は、無法地帯でも婚活会場でもない。男漁りがしたいなら学園外でやると良い。」

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