そう言うと思ってた

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男は多くを望まない

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カリナが公爵夫人の正体を見破ったのは、ヴィクトールのおかげだ。ヴィクトールはカリナを本気で陣営に加えるためにあの手この手で囲い込もうとしていたので、世間話をするみたいに有益な情報を小出しに与えていた。

男が目の前に現れて、その顔を見た時にカリナはずっと慕っていた公爵夫人がエリーヌではなくて、別人だということがヴィクトールの戯言ではない、と理解した。そして、公爵夫人がトラヴィスを選んだ理由と、ひいては何故カリナを選んだかにも行き当たり、絶望した。

「貴方の言いたいことはわかった。ごめんなさい。信じるのに時間がかかって。」

「いえ、こんな突拍子もないこと。信じてもらえなくても仕方ありません。あの人は自分の考えが一番正しいのです。そこに此方の事情など、感情など関係ない。それが周りの思惑と合致していればとんでもなく彼女は有能に見えるでしょうね。」

「でも、貴方は彼女の思惑には嵌まらなかった。」

「ええ。今まで自分の都合で好き勝手やって来て、今更私のためとか、おかしいでしょう。何もかもが惜しくなって、丁度良いところに自分というコマを思い出した、というところでしょう。何もかも最初から考えていたわけではないと思うんです。

もし、私のことを本当に思うなら公爵家で普通に嫡男として育てるべきだったし、公爵に何もかも打ち明けるべきだった。矛盾してますよね?だから、私は、彼女の考えは私には要らないと言いに来たのです。

今後祖国が今までのツケを払わなければならなくなって、崩壊しても、この国にしか居場所がなくなったとしても、私は母と一緒に生きたいとは思わない。私を一度は捨て、再度利用しようとする女に、軽々しく母を騙られたくない。

私の祖国での居場所は、母ではないある夫婦が作ってくれた。母は祖国ではそこそこ慕われていたので母を害そうとした侍女の身内は大変な目に遭っていました。本来なら恨んでも仕方ない私を、放っておけない、と面倒を見てくれた彼らの方が、私を捨てそのまま放置した母よりもずっと、私の家族なんです。」

トラヴィスによく似た、というよりカリナですらトラヴィス本人かと一瞬見間違えるほど、彼に似た男はそう言って力無く笑う。

第三王子は人の嘘がわかるから、彼が嘘をついていないことがわかるみたい。カリナは彼の話を聞いて、母を慕う気持ちが一切ないことに安堵した。

「貴方の願いは、何?母に恨み言の一つでも言う?それかもう関わらないでほしい?わざわざここに来た理由を教えてほしいの。」

「私は多くは望まない。大概のことは自分でできるので必要ないのですが、国を潰すこと、それによって母みたいな身勝手な考えを持つ出身者がいると思うのでそれらを潰したい。それが終わらないと、幸せになれないと思うのです。」

第三王子は言う。

「彼方の国は放っておいてもそのうち潰れるが、腐った者達の排除は早めに取り掛かりたい。我が国の民が危険に晒されるのは避けたいからな。」

「トラヴィスと私は何をすれば?」

第三王子と、彼から伝えられた指示は想像の範囲内だった。

カリナ、ヴィクトールと男の間で、ある契約が誕生した瞬間だった。
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