そう言うと思ってた

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第三王子は接触する

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同盟締結時に交わした書簡を眺めて、ヴィクトールは、頭を振った。

「契約は破るもの、らしいな。何一つ守っているものはない。」

同盟国は元々とても小さな国だった。大国に挟まれた不自由を強いられる生活に飽き飽きした彼らが大国に対抗しうる我が国に助けを求めたのが同盟の始まり。

小さくても産業が発達していた彼方の国は、その技術を差し出して、我が国は武力を差し出した。互いに足りないものを補い合う関係は、当分は上手くいった。だが、互いに潤えば潤うほどに綻びは生まれ、大きくなっていく。

あの国は昔から他国へ人間を送っては弱みを握って脅迫という名の交渉を得意としてきた。裏の世界を知る第三王子としては、ある種見習うところの多い彼の国を実は個人的には好きだったりする。

かと言って我が国で好き勝手したがる奴らを野放しにしたりはしない。したこと全て後悔するぐらいには叩きのめしたい。

彼の国の人間は体にある特徴を持つものが多いという。表にでていないたくさんの王族の庶子達がその役目を追うことから、その特徴があれば彼方の国では大層身分が高いことが察せられる。

第三王子がそのことを知ったのは、同盟国から来た刺客に襲われた時だった。彼自身はすぐに近衛騎士によって捕らえられたものの、自殺を図り、話は全く聞けなかった。だが、彼らの特徴を紐解けば、逆にこちらが利用することもできる。

第三王子は特殊な痣を、死体の見本通りにわざわざ自分に施し、機会を待った。

潜入してくる人間が他人に巧妙になりすますことは聞いていたし、それを倣って見た結果、同盟国から彼らの仲間がやってきて、第三王子を刺客仲間だと認識したようだ。

彼らはとても有益な情報をヴィクトールに齎してくれた。彼らの口からとある男爵が彼の国に協力を要請していると聞いて、調べてみると、成る程。かの男爵はあまり頭が良くないらしい。自分の子を間違えるほどのうつけ加減は、笑っていいのか迷ったほど。

「男爵は丁寧に接してやれ。邪魔になったら処理すればいい。」

「娘は、どうしますか?」

同盟国の奴等の中には、男爵の戯言を信じる者もいたようで、アナスタシアという平民を本気で王女の忘れ形見と信じているようだった。

ヴィクトールからすれば正直彼女がどうなっても構わない。だが、ここでは、ヴィクトールが保護する、と言うのが正解だろう。

死んだ刺客の性格は彼が死ぬまでの問答で何となく、理解した。

ヴィクトールが保護を口にした瞬間、彼らの顔に安堵の表情が浮かんだから、この対処は正しかったことが確認できた。

勘違いであれど、自分達が姫と慕う王女の娘と、一緒に裁かれるならば、死んでも嬉しいだろう。

ついでに、アナスタシア嬢には国民の憎しみを全身に集めて貰えれば万々歳だ。




ヴィクトールは彼らがいなくなった後、男が一人残っていることに気がついた。

はて、どこかで見たような顔、と思いだして、認識を改める。

また面倒な。ヴィクトールはこの男がどういう役割でここに来たのか想像できてしまい、顔を顰めた。

「貴方は、ヴィクトールで間違いないか?シタンではなく、本物と言うことで宜しいか。」

「あの者はシタンというのか。」

「ああ、上手くできているが、その痣、左側の色が濃すぎる。本物はもう少し薄いんだ。」

「私が偽物であれば、どうする?」

「取引をしたい。私の自由をかけて、貴方と手を組みたいんだ。」
彼は用意していた書類を差し出し、ヴィクトールの目前に跪いた。
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