そう言うと思ってた

mios

文字の大きさ
上 下
13 / 30

公爵令息は頷く

しおりを挟む
アナスタシアが自分から離れて第三王子を選んだ時にすぐに引き下がったのは、アランがヴィクトールに目をつけられたくなかったから、と言うのが正しい。

アランは一応親戚でもある彼が酷く苦手だった。第一王子や第二王子はまだアランに対して少しは優しい顔を見せてくれるのだが、第三王子だけは真の姿を隠しきれない様子で、アランの弱い部分を抉ろうとしてくるからだ。

最近では自分に絡んでくることはなくても、カリナの周りをウロチョロしたり、今ではアナスタシアを自分から取り上げたりした。

アナスタシアに興味を持ったのだって元はといえばこうして二人一緒に企みに巻き込む気だったからに違いない。

アランは今更ながらに、バカなことをしたと反省した。きっと自分を捨てた女になど情けをかけずに予定通りに公爵家に帰っていればこんな場に巻き込まれることなく済んだのに。

「私に何か用ですか。」
「いや、君には用はないよ。」

恐ろしい笑みを浮かべながらアランの名を呼んだのに、ヴィクトールはアランに用はないと言う。

ならば何故アランはこの場に呼ばれているのか。

「誰かを誘き寄せたい、と?」
「そうだね。なら誰を誘き寄せたいかもわかるかな?ヒントは我が国の者ではない、とだけ言っておこうかな。」

アランの返事などは気にせずにヴィクトールは独り言を垂れ流す。こちらが理解していようがいまいが、彼の思考は止められない。だが、その独り言とやらは、どうでも良い話などではなく、死に物狂いで何が何でも理解しなければ自らの首を絞めかねない内容だったりするからタチが悪い。

「君は自分の母親が誰の婚約者であったか知っている?今の公爵の前に婚約していた男さ。ああ、叔父だとはきいているんだね?じゃあ、その男が今どこでどんな風に生きているかは知っている?公爵家を除籍になってからは知らないか。

君のご両親は君に話さなかったのかな。まあ、君とは直接関係はないものね。

実は君の叔父というのは、今は男爵位を継いでいるんだ。その昔、彼がある大変なことをしでかしたんだけど、その後始末を君の母君が手配して丸く収めてくれたんだよ。

彼女は今のご主人を尊敬していたから、公爵家に迷惑がかからないように手配してくれたんだ。

皆彼女を褒め称えて感謝したんだけど、一人?いや二人かな?問題を起こした君の叔父さんと、もう一人の共犯者は自分達が何も悪いことをしていないのに、母君のせいで酷い目に遭った、と恨んだ。

詳しくは省くけれど、君の叔父さんは公爵家に肖像画は残っているかい?」

アランは自分の顔によく似た男の肖像画を見つけた時のことが頭に過ぎった。

「君の叔父さんは見た目は君と同じでまあいい方ではあるけれど、頭の方も君と同じで少し弱かった。だからね、男爵位でも貴族だから、他国に我が国の情報を売れば、国家反逆罪に問われることすら気がつかない。君にはね、最初は囮になって貰って一緒に死んでもらおうかと思っていたんだ。だけど、嫌がられたからね、普通に。それで、一度だけなら許してあげようと思ったんだよ。」

アランは突然の彼の告白に、冗談ぽく話しているものの、少しだけ周りに悪寒を感じる。やはり最初の段階ではアランごと、処分する手筈だったようだ。

「その男爵とやらを捕まえれば私は許してもらえる、と?」

「ああ。そう言うことだ。だが、君の元恋人はダメだ。彼女には役割があって、残念だけど父親共々、責任をとってもらわなくてはならないんだ。」

多分これを了承しなければ、アランは躊躇なくこの男に殺される。そうなれば我が公爵家も一緒に責任を取らなくてはならない。これは流石にカリナは許してくれないだろう、とアランはアナスタシアを切り捨てる決断を受け入れた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~

Rohdea
恋愛
───私は名前も居場所も全てを奪われ失い、そして、死んだはず……なのに!? 公爵令嬢のドロレスは、両親から愛され幸せな生活を送っていた。 そんなドロレスのたった一つの不満は婚約者の王子様。 王家と家の約束で生まれた時から婚約が決定していたその王子、アレクサンドルは、 人前にも現れない、ドロレスと会わない、何もしてくれない名ばかり婚約者となっていた。 そんなある日、両親が事故で帰らぬ人となり、 父の弟、叔父一家が公爵家にやって来た事でドロレスの生活は一変し、最期は殺されてしまう。 ───しかし、死んだはずのドロレスが目を覚ますと、何故か殺される前の過去に戻っていた。 (残された時間は少ないけれど、今度は殺されたりなんかしない!) 過去に戻ったドロレスは、 両親が親しみを込めて呼んでくれていた愛称“ローラ”を名乗り、 未来を変えて今度は殺されたりしないよう生きていく事を決意する。 そして、そんなドロレス改め“ローラ”を助けてくれたのは、名ばかり婚約者だった王子アレクサンドル……!?

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。

ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」  そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。  真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。 「…………ぷっ」  姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。  当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。  だが、真実は違っていて──。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

処理中です...