そう言うと思ってた

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第三王子は愛を口にする

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ルシアは没落した貴族の娘だ。だけどそれは我が国ではない。彼女の叔母は、昔王宮に侍女として雇われた。長く働いていくうちについつい傲慢な考えを持つようになり立場の弱い者達を虐めるようになる。たかが侍女。されど、王宮で働く侍女は、他の侍女とは一線を画し、しかも王女付き。彼女は幼く善良な王女を操って、まるで自分が主人の姉であるかのように振舞った。

彼女は王女付きとして我が国へ来た夜会で見目の良い貴族令息を誑かし、自分への依存と弱みを握る為だけに王女を襲わせ、傷物にした。

彼女は罪が公になった際、責任を取って王女の代わりに唆した男と結婚し、その後寝たきりになって死んだのだが、そのことを知る者は限られている。

ルシアの家が没落したのは、この叔母のせいだった。彼女は叔母が国外追放になったと思っている。それは対外向けの罪人の末路だった。

ヴィクトールは、当初、彼女を見せしめにしようと思っていた。身の程知らずに我が国に乗り込んできた愚かな娘は、真実を知る為に危険も顧みず、我が王家に乗り込んだのだ。

彼女を捕獲したのは第一王子の側妃だった。

「うちの侍女に異物が混じっているから処置して貰えない?」

普段ならそんなことは自分で何とかする彼女の言葉に興味を惹かれて会ってみるとどこぞの男爵令嬢が霞む程、欲に忠実な女がそこにいた。

彼女は祖国や叔母に仕返しがしたいと、単身で乗り込んで来た。その豪胆さと無鉄砲さに呆れながらも、ヴィクトールは彼女を連れ帰り、「処置」をした。

彼女は良い目印になりそうだった。

計画が狂ったのはある意味では必要なことだったのかもしれない。第三王子を見つめるルシアの姿を一目見て、下衆な勘ぐりをしたアナスタシアが彼女に張り合うようになった。彼女はまさに愚かな貴族そのもので、ヴィクトールはほくそ笑まずにはいられなかった。

貧しくなった同盟国から逃げてきた民の内、我が国と祖国を恨んでいる者はどれだけいるでしょうか?

答えは贅の限りを尽くしたアナスタシアを数回彼らの視界に入れることで、判明した。

同盟国がアナスタシアを利用して我が国に攻撃を仕掛けようとしたのと同じやり方で、こちらは移民を使い、計画に横槍を入れてみた。

アナスタシアは見事に彼らの第一の敵となった。

膨らんだ憎しみを彼女が吸い取り、彼女が倒れた後に叩く。そして、その詫びにルシアを使って立て直しを図る。

ルシアとアナスタシアの違いは欲に準じた力があるかどうか。ルシアには祖国に一泡吹かせるだけの計画と行動力があって、アナスタシアには醜い欲望の他には何もなかった。それだけだ。





アナスタシアは言われた言葉が理解できないのか放心して、その後、取り乱した。

ヴィクトールを嘘つき呼ばわりして、挙句ルシアに騙されているのだとこちらを貶めた。

「嘘はついていない。君を大切にしたつもりだ。愛してない、訳ないじゃないか。こんなに思った通りに動いてくれる駒は中々ないんだよ?君は最高の女性だよ。」

彼女が泣こうが喚こうが、贅沢をしたのも何もしなかったのも口車に乗せられたのも、第三王子を信じたのも全て自分がしたことだ。

ヴィクトールは自分に利益をもたらしてくれる相手を愛する。愛を伝えている相手に受け入れて貰えないことは良くあるが、今回はまだマシだった。

彼女が狂えば狂うほどヘイトは高まり、同情票が集まっていく。アナスタシアの悲鳴を聞きながら新しい駒であるルシアについて考えるのはとても楽しいことだった。
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