上 下
1 / 3

女神は驚いた

しおりを挟む
女神は大層驚いた。生を全うし、再会した聖女に会うなり怒鳴られたのは初めての体験だった。

「どうしたの?そんなに怒って。」
「どうしたもこうしたもないわよ。何で私達死んでるのよ。」
「だって、それを望んでたのでしょう?貴女、毎日の祈りすらなかったから大変だったのよ。貴女の意思を読み取るには貴女の行動から読み取らないといけなくて。でも頑張って読み取ったからあっている筈。」
「は?私は勇者と一緒に魔王を倒して、最後は勇者と結婚して幸せに暮らしたかったの。なのに魔王を倒す間もなく死ぬって何よ、おかしいじゃない。」
「ええ?そうだったの?わからなかったわ。だって貴女、いつも何が楽しいのかキラキラしたドレスを着たり、お菓子を食べたり、宝石を選んだり、そんなことばかりして、魔法の訓練や、治癒魔法での施術や、聖女に与えられた仕事を全て別の子に与えていたじゃない?だから、てっきり貴女の力を彼女に譲りたいのだと思って。」

女神は心外だった。彼女は何もせずに魔王を倒して聖女の仕事をせずに、聖女と崇め立てられたかったらしい。

それはいくら何でも我儘じゃないかしら。そうは思ったけれど、それが彼女の望みならばそうする他はない。

「今度はちゃんとしてよね!」
女神は、もう一度、聖女の望み通りの人生を与えた……つもりだった。






時は少し遡り、テランス侯爵家のアメリアは、女神の神託を受けた。テランス侯爵家は敬虔な女神様の信者で、聖女とされる前から女神様への祈りを欠かしたことがなかった。前の人生で聖女が仕事を押し付けていた女性である。

彼女は聖女の力を受け継いで、魔王を倒す役目を与えられた。彼女が祈りを捧げれば捧げるほど、聖女に神聖力が溜まり、それを彼女が使用できる。

それならば、聖女が望む通り、何もしなくても崇められるのは聖女ということになる。

女神なりに、聖女の望みを叶えようと頑張った結果である。

だが、こうなると聖女は人間でなくとも良くなる。なので、聖女は生きる御神体として美しい少女のまま、聖女像として留め置かれることになった。

信者の中に、聖女像を飾る者も現れて、綺麗なドレスを着せられた聖女はとても美しく、女神は満足を覚えていた。

その後、アメリアは、魔王を倒し、彼女と共に旅に出た騎士と結婚した。

因みに前の人生で勇者だった王子は、聖女の恩恵を受けられなかったことから勇者ではなくなった。前の人生でも、聖女のおこぼれを貰っていただけの勇者は、女神にとって何の価値もなかった。

聖女は人間ではなくなったし、像が壊れるまでは生き続けるために、女神に文句を言うことすらできなくなった。

女神は最初からこうすれば良かったと、アメリアを見ながら幸せな笑みを浮かべた。



「あ、いけない。忘れていたわ。」

前に聖女が言っていた言葉には、勇者と結婚して幸せに暮らす、というものがあった。

今更勇者なんて作れない、と悩んだ末に、アメリアと国王陛下に勇者像を聖女像の隣に、建設することでなんとか帳尻を合わせたのだった。

これでめでたしめでたし、だわ。

勇者の顔が、アメリアの騎士に似ているのは仕方がない。それぐらいは誤差の範囲内と言うことにした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

錬金術師として召喚されたけど、錬成対象が食べ物限定だったので王宮を追い出されました。

茜カナコ
ファンタジー
キッチンカーでクレープ屋を営んでいた川崎あおいは、ある日異世界に召喚された。 錬金術師として扱われたが、錬成対象が食べ物だけだったため、王宮を追い出されたあおい。 あおいは、町外れの一軒家で、クレープ屋を始めることにした。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動

志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。 むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。 よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!! ‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。 ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...