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第六章 邪魔者(アラン視点 後半)
多忙
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「また手が止まっておりますよ。」
クリストフから容赦ない指摘が飛んでくるが、正直それどころではない。聖女の歴史を学びたい、と二人の聖女が、初めての聖女召喚に立ち会ったクリストフの祖父に話を聞きに行って、帰ってきたと思ったら、何か重要なことが起きていた。
アリサの従者をしていたあの男が行方を眩まし、ユミにまで動揺が広がっている。
アリサは、以前のような快活さはなくなり、ずっと浮かない顔をしているし、ユミは、何かに取り憑かれたように、ある伯爵家について調べ始めた。
聖女の動向を見つめるこの国の貴族の中には、聖女そのものに対し、懐疑的な者もいる。寧ろ、アリサが現れてからその傾向が強い。
ユミは、以前ならこちらにも、渋々ではあるが、時間を割いてくれていたのに、今は考えることが多いみたいで、余裕がないらしい。
私を頼ってくれたら、力になれることもあると思うのだが。
アリサは従者の行方について、探すことはしていない。あんなに心を乱すのなら、すぐにでも探せば良いのに。
「今はまだ時期ではないので。」
などと、口にしてはため息をついている。
クリストフの祖父に会いに行ってから、アリサとユミの間に遠慮がなくなったように思う。
アリサからユミに対して、壁が取り払われた感じで、ユミからアリサに関しては、疑念みたいなものが消えたような。お互いに対して鎧が一枚薄くなって、無防備になったようだ。
従者の男の他に、メイドも何人か城から去っていったようだが、すぐに代わりのメイドがアリサにつけられていた。
メイド達は、アンネリーゼの公爵家から送られてきたようで、不思議に思う。
執務室に来客があり、出迎えた先には、珍しい相手が立っていた。
聖女につけていた家庭教師の一人で、夫を早くに亡くし、未亡人となったフリュー伯爵夫人である。
彼女は主にユミに対して、教育を施してくれている。彼女は以前のアリサとは相性がよくなかったが、ユミとは仲良くできているようだ。
「殿下にこのようなことを申し上げるのは、心苦しいのですが、ユミ様の最近の様子を見る限り、この辺りで聖女教育を終わらせるべきだと判断しました。」
「それは教えるべき箇所が全て終わったということか。」
「いえ、そうではございません。聖女教育としましては、まだまだ教えるべき項目がございます。ですが、ユミ様が今お調べになられている内容につきましては、私の身では、お教えすることが敵いません。どうぞ、私を解雇していただきたいのです。」
やる気のなかったアリサを教えることを苦痛に思い、ユミのやる気のある態度を感心していた伯爵夫人の態度に違和感を覚える。
「どうして、急にそんなことを言い出したんだ。」
「これ以上は、私共、伯爵家の事情になります。」
「……それは、以前の聖女消失の謎に関係することか。」
「ええ。きっとこれ以上はユミ様のお命に関わってくるものになります。私でなければ、内容は知らないことになるので、真実を知ることにはなりませんが、私ですと誤って話してしまうこともあるかもしれません。」
伯爵夫人の話をようやく理解する。
彼女は聖女の教育係に選ばれた際に、魔法で契約を施されている。その魔法の契約をうまく使い、聖女に真実を話してしまえば、一族の暗殺者に狙われてしまう、ということだ。
伯爵夫人だけでなく、ユミも、アリサも、もしくは私まで危ない目に遭うかもしれない。
「だがいつか、彼女が自力で、真実にたどり着くかもしれない。」
「そうなれば、ユミ様を守ってください。私はこれ以上お側にいることは敵いませんので。」
「伯爵家以外の者で、そのことを口にするのを許されている者はいるのか。」
「西の塔の魔法使いぐらいでしょうか。彼には呪いは二度と効きませんから。」
クリストフから容赦ない指摘が飛んでくるが、正直それどころではない。聖女の歴史を学びたい、と二人の聖女が、初めての聖女召喚に立ち会ったクリストフの祖父に話を聞きに行って、帰ってきたと思ったら、何か重要なことが起きていた。
アリサの従者をしていたあの男が行方を眩まし、ユミにまで動揺が広がっている。
アリサは、以前のような快活さはなくなり、ずっと浮かない顔をしているし、ユミは、何かに取り憑かれたように、ある伯爵家について調べ始めた。
聖女の動向を見つめるこの国の貴族の中には、聖女そのものに対し、懐疑的な者もいる。寧ろ、アリサが現れてからその傾向が強い。
ユミは、以前ならこちらにも、渋々ではあるが、時間を割いてくれていたのに、今は考えることが多いみたいで、余裕がないらしい。
私を頼ってくれたら、力になれることもあると思うのだが。
アリサは従者の行方について、探すことはしていない。あんなに心を乱すのなら、すぐにでも探せば良いのに。
「今はまだ時期ではないので。」
などと、口にしてはため息をついている。
クリストフの祖父に会いに行ってから、アリサとユミの間に遠慮がなくなったように思う。
アリサからユミに対して、壁が取り払われた感じで、ユミからアリサに関しては、疑念みたいなものが消えたような。お互いに対して鎧が一枚薄くなって、無防備になったようだ。
従者の男の他に、メイドも何人か城から去っていったようだが、すぐに代わりのメイドがアリサにつけられていた。
メイド達は、アンネリーゼの公爵家から送られてきたようで、不思議に思う。
執務室に来客があり、出迎えた先には、珍しい相手が立っていた。
聖女につけていた家庭教師の一人で、夫を早くに亡くし、未亡人となったフリュー伯爵夫人である。
彼女は主にユミに対して、教育を施してくれている。彼女は以前のアリサとは相性がよくなかったが、ユミとは仲良くできているようだ。
「殿下にこのようなことを申し上げるのは、心苦しいのですが、ユミ様の最近の様子を見る限り、この辺りで聖女教育を終わらせるべきだと判断しました。」
「それは教えるべき箇所が全て終わったということか。」
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やる気のなかったアリサを教えることを苦痛に思い、ユミのやる気のある態度を感心していた伯爵夫人の態度に違和感を覚える。
「どうして、急にそんなことを言い出したんだ。」
「これ以上は、私共、伯爵家の事情になります。」
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「ええ。きっとこれ以上はユミ様のお命に関わってくるものになります。私でなければ、内容は知らないことになるので、真実を知ることにはなりませんが、私ですと誤って話してしまうこともあるかもしれません。」
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