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第二章 魔法の家 (アンネリーゼ視点)

二人の行方   夕実視点

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おかしい。何で私だけ?

同じ光に導かれ、こちらに召喚されたのに、王宮にいたのは私一人だった。

目の前には見知らぬ男達。その中に、よく知った顔がある。私だけが一方的に知っている王子様。

アンネちゃんに会っていなければ、私は大喜びでこの召喚を受け入れただろうが、今はそんなことより二人の行方の方が心配だ。

王子様は私を見ると、息を呑んだが目が合うと、明らかな落胆の色を滲ませた。アンネちゃんはここに来ていない。それだけが救いだった。けれど、それならどこに二人はいるのだろう。そもそも二人一緒なのだろうか。

三人とも別々に投げ出された場合、蒼は男だからいいとして、アンネちゃんは顔が知られている分、動きにくいだろう。

大丈夫かな。

自分のことよりも、友人が心配だ。


私はこの国では真の聖女と呼ばれた。真の、ってことは偽がいるのか。アンネちゃんが言ってた人かな。彼女が無茶苦茶な人だったせいか、私は当たり前のことしかしていないのに、過剰に褒められてしまう。恥ずかしい。

王子はいるだけで、周りが緊張するしあんまり一緒にはいたくないのだけれど、カルガモみたいについてくる。遠慮がちに、一定の距離を保ったまま。

情報を仕入れたくて、図書館に行きたいと言えば、すぐにでもお願いを聞いてくれるので案外便利だ。

とはいえ、私は彼に心を許す気はない。早く元いた世界に帰って、三人で楽しく暮らすのだ。まずは二人の行き先を探らなくては。

自分の想いに反して、中々二人の行方はわからなかった。あんなに光に包まれたのだから、私だけが巻き込まれたわけではないとおもうのだけど。

召喚魔法を調べてみても、私に理解できることは少ない。私が真の聖女と言うのなら、魔法が使えるのかと思えば、魔力はあるらしいものの、使い方がわからず、教師をつけてもらうことになった。

教師と聞いて、嫌な記憶が甦る。不登校になった原因の女教師。幸いにも、教師は男性だった。若いけれど、魔法以外に興味のなさそうな一風変わった教師に、私のささくれ立った心が少し落ち着く。

本を一通り読んだこともあり、魔法のイメージは掴みやすく、本当に基礎中の基礎はあっさりと習得することができた。聖女特有の光魔法を基とした治癒魔法。先生の教えが良いだけなのに、やはり凄く褒めて貰える。恥ずかしいやら、申し訳ないやら。

こんな小さな事で。

アンネちゃんと蒼が見つかるまですることがないし、乗り掛かった船だし、他に選択肢も無いため、仕方なく私は聖女の仕事をこなすことにする。

聖女の動向を探るためか、何か他に思うことがあるのか、王子は毎日様子を見にくる。何がそんなに楽しいのか、ジッと見てきたり、微笑んだりしている。

イケメンの笑顔は、体に悪い。あまり長居して欲しく無いので、塩対応に徹していると言うのに、伝わってないみたいだ。

王子の背中に黒い靄が見える。帰る際に、背中越しに中和魔法を授業の復習がてら掛けてみると、靄は無くなり、その日は寝つきが良くなったらしい。

靄について調べようとしたが、それは教師に一旦止められてしまった。どうやら、禁忌に触れるとのこと。呪いとかそう言う類だろうか。

王子ぐらいになれば、色々な想いを受け取る気がなくても、送られることはあるだろう。靄が見えるのは聖女特有のものらしい。なるべくそう言ったものが、見えたら、教えてくださいと言われる。

中和魔法の練習になるから、王子の靄限定で手を出して良いらしい。

ただ深追いはしないこと。これだけは、約束させられた。この世界の教師に私は信頼を持っている。この世界に来て良かったことは、良い教師に出会えたことだけだ。

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