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第二章 魔法の家 (アンネリーゼ視点)

私の居場所

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夕実はいつも私とたくさん話をしてくれます。それだけで、自分が感じたドロドログチャグチャな気持ちを自分の中に閉じ込めてしまったりせず、吐き出せて、気持ちが楽になりました。やはり兄妹は似ています。

私もあちらの世界にいた時は、あの気難しい兄と似ていたのかと思うと笑えてきます。あんなに気が合わなかったのに。仲良くなりたかったなんて。自分に歩み寄りもしない兄に好かれて貰おうと必死だった自分が哀れです。私と兄はすでに壊れてしまっていました。私はそれを認めたくなくて、まだ大丈夫と思おうとしましたが、無理でした。離れてみるとわかります。必死になっていた自分の姿も客観的に見ることができます。だから、もう兄との仲をどうにかしたいとは思わないのです。既にこちらにいる身としては、どうにもできない、と言うべきかもしれません。でも、例えあちらの世界に帰ったとしても、兄を兄として慕うことはできない、と思います。自分が一人で耐え忍び頑張るお姿は素敵だと思うのです。ただそれを人に強要するのはいかがなものでしょうか。

今思えば、私はあちらの世界の誰よりも逃げ出したかったのかもしれません。

だから、この優しい兄妹を利用してこちらの世界に来てしまった。

もう、最近特に戻りたいとは思わなくなって来ました。何もかも捨て、こちらにずっといられたら、最高です。

私はあちらの世界では王子の婚約者で、その話も私が居なくなってから、白紙になるには充分すぎる日数が経っていますし、ご令嬢だってたくさんいるのですから、私の代わりなんてすぐにでも見つかるでしょう。

公爵家には、気の毒ですが、どちらにしても娘の心配よりも、家が大切な人達なので、何とかするはずです。私の代わりに誰かが我慢して、その犠牲を当然のようにして、これからも彼らは続いていくのです。

夕実は、同じような環境にいたことがあるそうです。だからこそ、話しやすかったり、早くに仲良くなることができたのだと思います。

私は貴族令嬢の中にちゃんとした友人はいません。公爵令嬢としての私に関わりたいと寄ってくる人はいます。けれど、夕実や蒼のように、私そのものに寄り添ってくれる人はいません。

私はそれを仕方ないと諦めていました。けれどこの世界に来て、私の知らないことがたくさんあるこの世界を知って、確信しました。

夕実が言った言葉が頭に浮かびます。

「誰かが我慢し続けなければ存続できないものなら、そもそもそれは間違いなんだ。」

私はちゃんと我慢できていた筈です。でも、もう嫌です。また帰らされたら私は今度こそ何もかもを恨みます。今後は家の言いなりにはなりません。自分の将来は自分で手に入れる、我慢なんてしない人生にしたいのです。

本来ならこの場所に私の居場所なんてない筈でした。でも、蒼と夕実の側にいて、ここが居心地がよいと、わかった今になってみると、ここ以外に私の居場所はないとさえ、思えます。

万が一にでも、帰れる方法が見つかれば、私は見て見ぬフリをしてしまうかもしれません。

それが無理ならば二人を連れて帰りたい。私の大切な家族として、紹介したいです。祖母にも紹介したいです。血は繋がっていませんが、私の味方になってくれる素晴らしい祖母に蒼と夕実を紹介したいです。

私はそう考えていたことが、結局は、あの出来事を呼び寄せてしまったのなら、仕方がないと諦めるしかありません。私はこう思ったことを後悔しません。今でも正しいことと信じています。

ただもう少し時間は欲しかったです。それはあまりにも唐突で、準備などできませんでしたから。
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