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第二章 魔法の家 (アンネリーゼ視点)

温かい食事

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こちらの世界にあって、元の世界にないものの、代表と言えば、蒼が作るご飯です。公爵家には料理人がいて、それは豪華な食事を作ってくれます。それについて、文句はありません。文句など言うと、バチが当たります。

それなのに、美味しいものと聞いて思い出すのは蒼が作ってくれたご飯ばかりなのです。

公爵家では食事中に話などしなかったのですが、こちらではたくさんしますし、一人で食べることもありません。

必ず夕実か、蒼が一緒に食べてくれます。一人で食べるのが苦手だと、お二人とも同じことを言っていました。
「アンネちゃんがいてくれて、良かった。」
二人は兄妹らしく、同じことを言いますが、それは私の台詞です。
「私と一緒にいてくれてありがとう。」
私の負担にならないように、私を守ろうとしてくれる気持ちが嬉しいのです。

それにしても、蒼の作ってくれるご飯には人を癒したり眠くなる魔法でもかけられているのではないでしょうか。こちらの世界には魔法はないと聞いていますが、精神的にも肉体的にも感じていた疲れが、なくなっていって、反対にじんわりと温かいものが体に入ってくるように思うのです。

これは私の体から、こちらの世界に適応してきた証拠でしょうか。

私は生まれてこの方、誰かと一緒に眠ると言うことをしてこなかったのですが、初めてこちらに泊まった時に夕実の寝息が聞こえてきた時、不思議に思ったのです。人の気配があるのは、何と心地よいのだろう、と。勿論、敵意や、殺意がないのが第一ですが、今まで一人になりたいと思うのが普通でした。誰かが側にいると、リラックスなんてできません。けれど、こちらの世界では、誰かがいる、と言うのがリラックスできる条件になりました。生まれて初めての世界に来たのだから当たり前かもしれません。

こちらの世界は進んでいます。馬車などなくても遠くへ行けるのです。電車と言うものに乗ってお金を払って、買い物に行きました。

洋服も様々な種類があって、見ているだけで楽しいのです。夕実が選んでくれた最近の服はどれも自力で着ることが出来、組み合わせで印象が変わります。ファッションは奥が深いです。と同時に公爵家では侍女にしてもらうばかりで、自分からこうしたい、と意見を言わなかったことに、勿体なさを感じました。ファッションを楽しめていたなら、もう少し彼女達との関係も変わっていたかもしれません。

買い物を終えたら、蒼から夕実とお揃いの髪留めを貰いました。私はこれが、今まで貰ったどんな贈り物より嬉しかったのです。薄情ですよね。婚約者からの贈り物をたくさん貰っておいて、蒼からの贈り物が一番なんて。

夕実は、お揃いでつけてくれました。
「これは、まんまアンネちゃんのイメージだね。」

そう言って苦笑いを浮かべます。夕実はお気に召さなかったのでしょうか。こんなに可愛いのに。

蒼に髪に着けているのを見せると、恥ずかしそうに笑って「よく似合うよ。可愛い。」と言います。思うに蒼は女性に軽々しく可愛いと言いすぎです。私でなければ、勘違いするところです。

蒼の持つ柔らかい雰囲気は、才能だと思います。きっと悪いことを考えて、近づいてきた人がいたとしても、蒼と一緒にいるだけで、毒が抜かれてしまうように、ほんわかしています。その雰囲気は私には無いものですので、羨ましいです。

蒼の通う大学と言うところに興味があって、蒼に我儘を言ってついて行った時、こちらの学園とはまた違う雰囲気に心を奪われました。貴族と平民以上に、こちらの世界では女性が勉強することが当たり前で、女性が働いたりすることが普通なのです。婚約者も早いうちから作らなくていいですし。一番驚いたのは、一生結婚しなくても良いと言うところです。仕事の種類もたくさんあり、生き方が私達の世界のように狭く無いのも、気になりました。

蒼の友人である香澄さんにお会いしました。彼女は魅力的で、女性にしては逞しくカッコいい方でした。私は何故か、蒼と香澄さんに嫉妬していたようです。気やすい話し方や態度に蒼自身が私には見せない顔を彼女には見せると言うことに酷く嫉妬しました。

よく考えたら当然です。昔からの友人の香澄さんと、最近現れた私なら、香澄さんを選ぶに決まっています。

蒼は誰にでも優しいです。だからこそ、私は救われたのですが、いつからか私は心の狭い人間になってしまったみたいです。

王子が同じように人に優しくしていた時は大変だけど、素晴らしいことだと思っていたのに、蒼が皆に優しくするのは嫌なんておかしなことです。私は自分が特別な人間だと思うような最低な人間になってしまったようです。

蒼を独り占めしたいなんて、蒼にも失礼な願いを持ってしまったのですから。
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