19 / 65
第二章 魔法の家 (アンネリーゼ視点)
温かい食事
しおりを挟む
こちらの世界にあって、元の世界にないものの、代表と言えば、蒼が作るご飯です。公爵家には料理人がいて、それは豪華な食事を作ってくれます。それについて、文句はありません。文句など言うと、バチが当たります。
それなのに、美味しいものと聞いて思い出すのは蒼が作ってくれたご飯ばかりなのです。
公爵家では食事中に話などしなかったのですが、こちらではたくさんしますし、一人で食べることもありません。
必ず夕実か、蒼が一緒に食べてくれます。一人で食べるのが苦手だと、お二人とも同じことを言っていました。
「アンネちゃんがいてくれて、良かった。」
二人は兄妹らしく、同じことを言いますが、それは私の台詞です。
「私と一緒にいてくれてありがとう。」
私の負担にならないように、私を守ろうとしてくれる気持ちが嬉しいのです。
それにしても、蒼の作ってくれるご飯には人を癒したり眠くなる魔法でもかけられているのではないでしょうか。こちらの世界には魔法はないと聞いていますが、精神的にも肉体的にも感じていた疲れが、なくなっていって、反対にじんわりと温かいものが体に入ってくるように思うのです。
これは私の体から、こちらの世界に適応してきた証拠でしょうか。
私は生まれてこの方、誰かと一緒に眠ると言うことをしてこなかったのですが、初めてこちらに泊まった時に夕実の寝息が聞こえてきた時、不思議に思ったのです。人の気配があるのは、何と心地よいのだろう、と。勿論、敵意や、殺意がないのが第一ですが、今まで一人になりたいと思うのが普通でした。誰かが側にいると、リラックスなんてできません。けれど、こちらの世界では、誰かがいる、と言うのがリラックスできる条件になりました。生まれて初めての世界に来たのだから当たり前かもしれません。
こちらの世界は進んでいます。馬車などなくても遠くへ行けるのです。電車と言うものに乗ってお金を払って、買い物に行きました。
洋服も様々な種類があって、見ているだけで楽しいのです。夕実が選んでくれた最近の服はどれも自力で着ることが出来、組み合わせで印象が変わります。ファッションは奥が深いです。と同時に公爵家では侍女にしてもらうばかりで、自分からこうしたい、と意見を言わなかったことに、勿体なさを感じました。ファッションを楽しめていたなら、もう少し彼女達との関係も変わっていたかもしれません。
買い物を終えたら、蒼から夕実とお揃いの髪留めを貰いました。私はこれが、今まで貰ったどんな贈り物より嬉しかったのです。薄情ですよね。婚約者からの贈り物をたくさん貰っておいて、蒼からの贈り物が一番なんて。
夕実は、お揃いでつけてくれました。
「これは、まんまアンネちゃんのイメージだね。」
そう言って苦笑いを浮かべます。夕実はお気に召さなかったのでしょうか。こんなに可愛いのに。
蒼に髪に着けているのを見せると、恥ずかしそうに笑って「よく似合うよ。可愛い。」と言います。思うに蒼は女性に軽々しく可愛いと言いすぎです。私でなければ、勘違いするところです。
蒼の持つ柔らかい雰囲気は、才能だと思います。きっと悪いことを考えて、近づいてきた人がいたとしても、蒼と一緒にいるだけで、毒が抜かれてしまうように、ほんわかしています。その雰囲気は私には無いものですので、羨ましいです。
蒼の通う大学と言うところに興味があって、蒼に我儘を言ってついて行った時、こちらの学園とはまた違う雰囲気に心を奪われました。貴族と平民以上に、こちらの世界では女性が勉強することが当たり前で、女性が働いたりすることが普通なのです。婚約者も早いうちから作らなくていいですし。一番驚いたのは、一生結婚しなくても良いと言うところです。仕事の種類もたくさんあり、生き方が私達の世界のように狭く無いのも、気になりました。
蒼の友人である香澄さんにお会いしました。彼女は魅力的で、女性にしては逞しくカッコいい方でした。私は何故か、蒼と香澄さんに嫉妬していたようです。気やすい話し方や態度に蒼自身が私には見せない顔を彼女には見せると言うことに酷く嫉妬しました。
よく考えたら当然です。昔からの友人の香澄さんと、最近現れた私なら、香澄さんを選ぶに決まっています。
蒼は誰にでも優しいです。だからこそ、私は救われたのですが、いつからか私は心の狭い人間になってしまったみたいです。
王子が同じように人に優しくしていた時は大変だけど、素晴らしいことだと思っていたのに、蒼が皆に優しくするのは嫌なんておかしなことです。私は自分が特別な人間だと思うような最低な人間になってしまったようです。
蒼を独り占めしたいなんて、蒼にも失礼な願いを持ってしまったのですから。
それなのに、美味しいものと聞いて思い出すのは蒼が作ってくれたご飯ばかりなのです。
公爵家では食事中に話などしなかったのですが、こちらではたくさんしますし、一人で食べることもありません。
必ず夕実か、蒼が一緒に食べてくれます。一人で食べるのが苦手だと、お二人とも同じことを言っていました。
「アンネちゃんがいてくれて、良かった。」
二人は兄妹らしく、同じことを言いますが、それは私の台詞です。
「私と一緒にいてくれてありがとう。」
私の負担にならないように、私を守ろうとしてくれる気持ちが嬉しいのです。
それにしても、蒼の作ってくれるご飯には人を癒したり眠くなる魔法でもかけられているのではないでしょうか。こちらの世界には魔法はないと聞いていますが、精神的にも肉体的にも感じていた疲れが、なくなっていって、反対にじんわりと温かいものが体に入ってくるように思うのです。
これは私の体から、こちらの世界に適応してきた証拠でしょうか。
私は生まれてこの方、誰かと一緒に眠ると言うことをしてこなかったのですが、初めてこちらに泊まった時に夕実の寝息が聞こえてきた時、不思議に思ったのです。人の気配があるのは、何と心地よいのだろう、と。勿論、敵意や、殺意がないのが第一ですが、今まで一人になりたいと思うのが普通でした。誰かが側にいると、リラックスなんてできません。けれど、こちらの世界では、誰かがいる、と言うのがリラックスできる条件になりました。生まれて初めての世界に来たのだから当たり前かもしれません。
こちらの世界は進んでいます。馬車などなくても遠くへ行けるのです。電車と言うものに乗ってお金を払って、買い物に行きました。
洋服も様々な種類があって、見ているだけで楽しいのです。夕実が選んでくれた最近の服はどれも自力で着ることが出来、組み合わせで印象が変わります。ファッションは奥が深いです。と同時に公爵家では侍女にしてもらうばかりで、自分からこうしたい、と意見を言わなかったことに、勿体なさを感じました。ファッションを楽しめていたなら、もう少し彼女達との関係も変わっていたかもしれません。
買い物を終えたら、蒼から夕実とお揃いの髪留めを貰いました。私はこれが、今まで貰ったどんな贈り物より嬉しかったのです。薄情ですよね。婚約者からの贈り物をたくさん貰っておいて、蒼からの贈り物が一番なんて。
夕実は、お揃いでつけてくれました。
「これは、まんまアンネちゃんのイメージだね。」
そう言って苦笑いを浮かべます。夕実はお気に召さなかったのでしょうか。こんなに可愛いのに。
蒼に髪に着けているのを見せると、恥ずかしそうに笑って「よく似合うよ。可愛い。」と言います。思うに蒼は女性に軽々しく可愛いと言いすぎです。私でなければ、勘違いするところです。
蒼の持つ柔らかい雰囲気は、才能だと思います。きっと悪いことを考えて、近づいてきた人がいたとしても、蒼と一緒にいるだけで、毒が抜かれてしまうように、ほんわかしています。その雰囲気は私には無いものですので、羨ましいです。
蒼の通う大学と言うところに興味があって、蒼に我儘を言ってついて行った時、こちらの学園とはまた違う雰囲気に心を奪われました。貴族と平民以上に、こちらの世界では女性が勉強することが当たり前で、女性が働いたりすることが普通なのです。婚約者も早いうちから作らなくていいですし。一番驚いたのは、一生結婚しなくても良いと言うところです。仕事の種類もたくさんあり、生き方が私達の世界のように狭く無いのも、気になりました。
蒼の友人である香澄さんにお会いしました。彼女は魅力的で、女性にしては逞しくカッコいい方でした。私は何故か、蒼と香澄さんに嫉妬していたようです。気やすい話し方や態度に蒼自身が私には見せない顔を彼女には見せると言うことに酷く嫉妬しました。
よく考えたら当然です。昔からの友人の香澄さんと、最近現れた私なら、香澄さんを選ぶに決まっています。
蒼は誰にでも優しいです。だからこそ、私は救われたのですが、いつからか私は心の狭い人間になってしまったみたいです。
王子が同じように人に優しくしていた時は大変だけど、素晴らしいことだと思っていたのに、蒼が皆に優しくするのは嫌なんておかしなことです。私は自分が特別な人間だと思うような最低な人間になってしまったようです。
蒼を独り占めしたいなんて、蒼にも失礼な願いを持ってしまったのですから。
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。
木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。
前世は日本という国に住む高校生だったのです。
現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。
いっそ、悪役として散ってみましょうか?
悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。
以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。
サクッと読んでいただける内容です。
マリア→マリアーナに変更しました。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる