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第二章 結婚は始まりに過ぎない
隠されていなかったもの
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禁忌魔法の使い手と言う呼称は、ある意味禁忌魔法に耐えうる魔力の持ち主という意味では敬称とも言えるが、概ね違った意味で使われる。それは、簡単なルールすら守れない人という蔑称である。
クーガー家の、元は嫡男であった男はそのことすらも気づいていないおめでたい男だった。労せずに持って生まれた膨大な魔力で、好き勝手に魔法を使い、禁忌魔法に目をつけた。副作用など物ともせず、何故こんな便利なものを使わないんだという始末。
クーガー侯爵家は、二代前までは、サリュー家と並ぶ王家の忠実なる臣下として有名な名家だった。
彼らは長きにわたり、禁忌魔法を不当に扱い過ぎていた。そのことにより、危険視され、王家及び敵対している貴族家からの要望で力の一部を奪われた。
彼らは自業自得の身の上でも、自分達に非があるとは考えなかった。自分のせいだと考えるより、誰かのせいにした方が楽だから。
クーガー家の元嫡男であるエイデン・クーガーは今では後継者争いから脱落したものの、魔力や魔術では一族の誰よりも優れた位置にいる、いわば目の上のこぶ、のような存在だ。
彼は自分こそ、侯爵家の地位を利用して大きな顔をしていた癖に、同じように家の権力を使って好き放題する奴が大嫌いだった。
彼が、学園時代、最も敵視していたのは、リカルドだ。この時はまだジェスがリカルドだったが。
彼はジェスよりも、自分が優れていると思い込んでおり、相手は王太子だというのに、傍若無人に振る舞った。
それには、ジェスはよく怒らなかったと、リカルドは弟を初めて尊敬した。
「彼は成長しないですね。」とはシシーの談。
彼女の呆れたような表情から察するに嫌味でしかないのだが、彼は鈍感なのか、現実から目を背けているのか、シシーにニヤニヤした気持ち悪い笑みを向けて、お礼を口にした。
リカルドは、占い師と接触した、禁忌魔法の使い手として、彼を尋問するつもりで城に招いたのだが、本人としてはリカルドの側近にでも誘われると勘違いしたのか、会話が噛み合わなかった。それでも、根気よく質問すると、ようやく会話になるようになった。
「君はクーガー家の遺跡に関わっているのか。」
「あの遺跡は我がクーガー家の中にありましたから、そりゃ、関わりもありますよ。」
「あの遺跡はたまたま見つけたというが、どういう状況で見つけたのか教えてほしい。」
サリュー家の時のように誰かが誘導して見つけたのか。
「いいえ、他の家はどうかわかりませんが、うちは、本人の識別を持って生まれた魔力で判断しますので、誰かが入り込んだということはないでしょう。」
「では、貴方の実験体は、内部からの力であの場に運ばれたという認識で宜しいですか?」
サリュー家を馬鹿にしたつもりが、自分の首を絞めている。
「どうして、そのような思考になるのか理解に苦しむ。やはり君は結婚して、愚かな人間に成り下がったようだ。」
リカルドはさっきから気にはなっていたのだが、シシーが何か話すたびに、動くたびに、キョロキョロと忙しなく、男は動く。
気持ち悪い。
「王太子妃に暴言を吐くとは偉くなったものだな。」
リカルドが口を挟むと心底馬鹿にしてくるその顔に、リカルドは強烈な殺意を覚える。
「君こそ、禁忌魔法でも使わなきゃ、その魔力にはならないだろう。何だ、人でも殺したか?」
「話にならないな。そうやって話をすり替えようとしているのなら、無駄な抵抗だ。君には色々と容疑がかかっている。いくら君が優れた魔術士であろうと、禁忌魔法を使って、何もお咎めがないと思うなよ?
それと、君のいう私については、認識の齟齬があるみたいだ。私が王太子になった一番の理由は、誰よりも魔力が膨大で、魔法に優れていたからだ。それは昔も今も変わらない。
自分以外が優れていないと思うのは小さな世界で安心できる臆病者の思考だな。」
エイデンは怒りに顔を歪めながらも、シシーを盗み見て、やはり顔を赤くした。
何だ、その反応は。
こいつがジェスやリカルドに反応するのって、もしかして……?
クーガー家の、元は嫡男であった男はそのことすらも気づいていないおめでたい男だった。労せずに持って生まれた膨大な魔力で、好き勝手に魔法を使い、禁忌魔法に目をつけた。副作用など物ともせず、何故こんな便利なものを使わないんだという始末。
クーガー侯爵家は、二代前までは、サリュー家と並ぶ王家の忠実なる臣下として有名な名家だった。
彼らは長きにわたり、禁忌魔法を不当に扱い過ぎていた。そのことにより、危険視され、王家及び敵対している貴族家からの要望で力の一部を奪われた。
彼らは自業自得の身の上でも、自分達に非があるとは考えなかった。自分のせいだと考えるより、誰かのせいにした方が楽だから。
クーガー家の元嫡男であるエイデン・クーガーは今では後継者争いから脱落したものの、魔力や魔術では一族の誰よりも優れた位置にいる、いわば目の上のこぶ、のような存在だ。
彼は自分こそ、侯爵家の地位を利用して大きな顔をしていた癖に、同じように家の権力を使って好き放題する奴が大嫌いだった。
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彼はジェスよりも、自分が優れていると思い込んでおり、相手は王太子だというのに、傍若無人に振る舞った。
それには、ジェスはよく怒らなかったと、リカルドは弟を初めて尊敬した。
「彼は成長しないですね。」とはシシーの談。
彼女の呆れたような表情から察するに嫌味でしかないのだが、彼は鈍感なのか、現実から目を背けているのか、シシーにニヤニヤした気持ち悪い笑みを向けて、お礼を口にした。
リカルドは、占い師と接触した、禁忌魔法の使い手として、彼を尋問するつもりで城に招いたのだが、本人としてはリカルドの側近にでも誘われると勘違いしたのか、会話が噛み合わなかった。それでも、根気よく質問すると、ようやく会話になるようになった。
「君はクーガー家の遺跡に関わっているのか。」
「あの遺跡は我がクーガー家の中にありましたから、そりゃ、関わりもありますよ。」
「あの遺跡はたまたま見つけたというが、どういう状況で見つけたのか教えてほしい。」
サリュー家の時のように誰かが誘導して見つけたのか。
「いいえ、他の家はどうかわかりませんが、うちは、本人の識別を持って生まれた魔力で判断しますので、誰かが入り込んだということはないでしょう。」
「では、貴方の実験体は、内部からの力であの場に運ばれたという認識で宜しいですか?」
サリュー家を馬鹿にしたつもりが、自分の首を絞めている。
「どうして、そのような思考になるのか理解に苦しむ。やはり君は結婚して、愚かな人間に成り下がったようだ。」
リカルドはさっきから気にはなっていたのだが、シシーが何か話すたびに、動くたびに、キョロキョロと忙しなく、男は動く。
気持ち悪い。
「王太子妃に暴言を吐くとは偉くなったものだな。」
リカルドが口を挟むと心底馬鹿にしてくるその顔に、リカルドは強烈な殺意を覚える。
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「話にならないな。そうやって話をすり替えようとしているのなら、無駄な抵抗だ。君には色々と容疑がかかっている。いくら君が優れた魔術士であろうと、禁忌魔法を使って、何もお咎めがないと思うなよ?
それと、君のいう私については、認識の齟齬があるみたいだ。私が王太子になった一番の理由は、誰よりも魔力が膨大で、魔法に優れていたからだ。それは昔も今も変わらない。
自分以外が優れていないと思うのは小さな世界で安心できる臆病者の思考だな。」
エイデンは怒りに顔を歪めながらも、シシーを盗み見て、やはり顔を赤くした。
何だ、その反応は。
こいつがジェスやリカルドに反応するのって、もしかして……?
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