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第二章 結婚は始まりに過ぎない
ストーカー
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「またあの子来てるよ。」
皆の予想では良いところのお嬢様である少女にジェスはこの間からずっと後をつけられている。皆モテる男は辛いね、なんて好き勝手言うが、ジェスにはとてもそう見えない。
最初はたしかに自惚れていた。恋愛でついこの間手痛いしっぺ返しを食らったというのに。けれど、彼女の様子を観察してみると、そこに恋愛というものは存在しない。彼女のジェスを見る目にある種の熱を感じない。
自分が王太子から転落するきっかけとなった、ティナへの恋は、短く紛い物であったにしろ、激しく彼女を欲する気持ちがあった。彼女の瞳に映りたくて、自分と同じ熱量で彼女にもこちらを見て欲しいと言う思いがあった。
だが、あの少女からはその辺りが何も感じられない。なのに、ここまでジェスに付き纏うと言うことは、何か言いたいことがあるか、もしくは、監視しているか。
監視ならば明らかに素人だ。監視でないとするなら、何の用があると言うのだろう。
考えてもわからないことに、自分の時間を費やすことが馬鹿らしく思えて、今度見かけたら臆せず話しかけてみようと思い立つ。
何も考えてない時は、知らず現れていた少女だが、いざ待ち構えると中々現れないのは、知らず、振り回されているようで笑えた。
実際少女が現れるまで、時間が長く感じたのは、気のせいではないだろう。何かが違うと少女が感じたのか、いつもより現れるのが遅かった。それまでにジェスはある程度少女に関する情報を集めておいた。
少女は裕福な家のお嬢様やら、平民でなく貴族ではないか、と言った憶測が飛び交っていたが、どうやら子爵家あたりのお屋敷で働く使用人だとのこと。何故わかったのかと言うと、彼女は子爵家のご令嬢だかご令息だかはわからないが、彼らの護衛として冒険者に依頼をしに来たことがあるそうで、素性を知っていたようだ。
子爵家の使用人が一体何の用か。彼女が誰かわかれば良いと思っていたが、わかったところで何故ジェスの後を尾けるのか更にわかりにくくなった。
彼女は、近くまで寄ると思っていたより更に華奢だった。今まで会った女性、シシーやティナよりも遥かに儚げで触れると壊れそうな存在。
彼女はジェスに向かって無礼を詫びた。長く後を尾けていたことを詫びるのかと思えば、そうではなく、これまで勇気がなくて、私に自分から話しかけなかったことを詫びたのだった。
ジェスは何だか変な人に話しかけてしまったと後悔していた。話を聞いているのも苦痛なほど、少女は何か盛大な思い違いをしている。
「何か勘違いをしているようだ。私は貴女が思っているような大層な人物ではないし、貴女が杞憂しているようなことは起こらないよ。」
「いえ、起こるんです。だって占い師に占って貰ったのです。あの100%当たると言う、占い師、いえ、もう予言ですね。あの方達は私にジェスと言う冒険者を探し出し、魔王を討つように言いました。私は自分ではまだ実感が湧かないのですが、聖女の力を持っていまして、貴方と共に今すぐ旅立たなければ、世界は滅びるのですよ!」
「その占い師は、何故私の名を?」
「それは貴方が勇者様だからですよ。彼女は、こうも言いました。貴方は身分を不当に剥奪されている王子様なのだそうです。魔王を倒せば呪いが解けて、貴方は元の地位に返り咲くことができるのです。」
ジェスは頭を抱えた。何を言われているかの理解が追いつかない。唯一わかっていることは、少女のいう、占い師はジェスの事情について何かを知っていると言うことだ。
皆の予想では良いところのお嬢様である少女にジェスはこの間からずっと後をつけられている。皆モテる男は辛いね、なんて好き勝手言うが、ジェスにはとてもそう見えない。
最初はたしかに自惚れていた。恋愛でついこの間手痛いしっぺ返しを食らったというのに。けれど、彼女の様子を観察してみると、そこに恋愛というものは存在しない。彼女のジェスを見る目にある種の熱を感じない。
自分が王太子から転落するきっかけとなった、ティナへの恋は、短く紛い物であったにしろ、激しく彼女を欲する気持ちがあった。彼女の瞳に映りたくて、自分と同じ熱量で彼女にもこちらを見て欲しいと言う思いがあった。
だが、あの少女からはその辺りが何も感じられない。なのに、ここまでジェスに付き纏うと言うことは、何か言いたいことがあるか、もしくは、監視しているか。
監視ならば明らかに素人だ。監視でないとするなら、何の用があると言うのだろう。
考えてもわからないことに、自分の時間を費やすことが馬鹿らしく思えて、今度見かけたら臆せず話しかけてみようと思い立つ。
何も考えてない時は、知らず現れていた少女だが、いざ待ち構えると中々現れないのは、知らず、振り回されているようで笑えた。
実際少女が現れるまで、時間が長く感じたのは、気のせいではないだろう。何かが違うと少女が感じたのか、いつもより現れるのが遅かった。それまでにジェスはある程度少女に関する情報を集めておいた。
少女は裕福な家のお嬢様やら、平民でなく貴族ではないか、と言った憶測が飛び交っていたが、どうやら子爵家あたりのお屋敷で働く使用人だとのこと。何故わかったのかと言うと、彼女は子爵家のご令嬢だかご令息だかはわからないが、彼らの護衛として冒険者に依頼をしに来たことがあるそうで、素性を知っていたようだ。
子爵家の使用人が一体何の用か。彼女が誰かわかれば良いと思っていたが、わかったところで何故ジェスの後を尾けるのか更にわかりにくくなった。
彼女は、近くまで寄ると思っていたより更に華奢だった。今まで会った女性、シシーやティナよりも遥かに儚げで触れると壊れそうな存在。
彼女はジェスに向かって無礼を詫びた。長く後を尾けていたことを詫びるのかと思えば、そうではなく、これまで勇気がなくて、私に自分から話しかけなかったことを詫びたのだった。
ジェスは何だか変な人に話しかけてしまったと後悔していた。話を聞いているのも苦痛なほど、少女は何か盛大な思い違いをしている。
「何か勘違いをしているようだ。私は貴女が思っているような大層な人物ではないし、貴女が杞憂しているようなことは起こらないよ。」
「いえ、起こるんです。だって占い師に占って貰ったのです。あの100%当たると言う、占い師、いえ、もう予言ですね。あの方達は私にジェスと言う冒険者を探し出し、魔王を討つように言いました。私は自分ではまだ実感が湧かないのですが、聖女の力を持っていまして、貴方と共に今すぐ旅立たなければ、世界は滅びるのですよ!」
「その占い師は、何故私の名を?」
「それは貴方が勇者様だからですよ。彼女は、こうも言いました。貴方は身分を不当に剥奪されている王子様なのだそうです。魔王を倒せば呪いが解けて、貴方は元の地位に返り咲くことができるのです。」
ジェスは頭を抱えた。何を言われているかの理解が追いつかない。唯一わかっていることは、少女のいう、占い師はジェスの事情について何かを知っていると言うことだ。
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