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第一章

27 おもいでちゅ

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「おうまたん、ぱっかぱっかちてくだちゃい!」

「ブルルッ」

「こらっサミアン、ノアクスを急かすな」

馬の三人乗りにも慣れてきた。
ガインの愛馬「ノアクス」はゴツイ見た目に反して子供に優しい ……飼い主に似たのだろうか?
忙しいガインは、時間を見付けては俺とサミアンを館から連れ出してくれる。本人は何も言わないけど、ルーシアの誘拐を心配して、馬車での外出をしなくて済む様に、自ら連れ出してくれるのだろう……


「おかあたま? おべんとうに、からあげいれまちたか?」
「ふふっ、沢山入れたよ。今日はガインもいるからね!」

なんせ、今日のピクニックの目的は『唐揚げ』なのだ。
サミアンが「おかあたまのからあげは、てかいいちおいちいでちゅ~」っと餅みたいな頬っぺを押さえながら尻尾を振るものだから、まだ食べた事のないガインが拗ねたのだ……

子供かっ!!
お陰で早起きして3キロも鳥肉揚げたわっ!!

いつもの丘に着くと、ガインとサミアンは獣型になって遊び出した。
子供は、こうやって親と戯れながら、自在に獣化をコントロールする術を覚えるらしい。
(流石に俺には教えられないからな……)
仲間外れでちょっと寂しいけど、ガインがいいお父さんになっていくのを見るのは幸せだ。
俺もヒロシを引き取ったばかりの時は、どう接していいか分からなかったけど、いつの間にか『父』になっていた。
(客観的に見るとこんな感じなんだなー)
二人を微笑ましく眺めながら、二人の脱け殻の服を畳む俺も『母』っぽくなって来たのかもしれない……
―――でも、脱いでから獣化して欲しかった…… 日常生活で裂けない様に、背中の特殊な合わせは、細かくて固い。元に戻すのは大変なのだ……

広い丘を縦横無尽に走り回っていた二匹の狼だが、白くてちっちゃい方の動きが悪くなってきた。
(疲れちゃったな、こんなに動いたのは初めてだから……)
サミアンは俺の方を向くと、尻尾を振りながら駆け寄って来た。
久しぶりの獣型で躍動するサミアンが可愛くて両手を広げると、ドスッっと鈍い音がして、胸に衝撃を受けた。

「ぐふぅっ!」

(勢いも凄いけど、ちょっと大きくなってる?)
サミアンは興奮して俺の顔をぺろぺろ舐めると、千切れんばかりに尻尾を振って、ワフワフ吠えた。
何か喋っているようだけど、獣型だとまだ「おかあたま」しか発声できないのだ。

ガインも悠然と歩いて戻って来た。
黒い被毛が陽光を浴びて、キラキラと艶めく…… 見惚れる程美しく立派な狼だ。

人化したら裸だよね!っと期待して見ていたら、服を咥えて茂みの方に行ってしまった……
――俺の目はそんなにエロかったのだろうか?

それを見ていたサミアンも、自分の服を引き摺りながら、茂みに消えた……
いやいや、サミアンまだ一人で服着れないじゃん!?

ガインに服を着せて貰い人型で戻ってきたサミアンは「おなかちゅきまちた」と言った。さっきワフワフ言っていたのは空腹を訴えていたようだ。

三人で、サンドイッチや唐揚げをたくさん食べた。ガインも「街で食ったものより旨い」と言って、たくさん食べてくれた。
二人とも体の後で尻尾が揺れている。
たまには3キロの鳥肉と格闘するのもいいかもしれない……
お腹いっぱい食べて少し休憩すると、二人は「食後の運動」と言いながら獣化して、また遊び出した……
お願いだから、脱いでから獣化してくれ!!

満腹で服の細かい継ぎ目を直していたら、眠くなってきた。
うとうと船を漕いでいたら、いつの間にかガインが傍にやって来て、俺の後ろに寝そべった。

「そのまま寝たら風邪をひく……俺に凭れて寝るといい」

俺は甘えさせて貰うことにして、フカフカのお腹に凭れた。
(お腹は、背中よりフカフカなんだな……)
温かくてフワフワで、あまりの気持ち良さに一瞬で落ちた………





「サミアン!何だそれは!?どこから持ってきた!!」

どのくらい眠ったのだろう?
僅な振動とガインの声で、うっすら目を開けると、目の前で裸のサミアンが、バスケットボール大の大きな卵のような物を抱えていた。

俺が起き上がると、ガインも人型になった。彫刻の様に美しい体を、ここぞとばかりにチラ見する……
腹筋すげぇ!バッキバキだ!

「お、おもいでちゅ……」

(そうだ、今はこっちだ!)
俺は慌てて卵の様な物に手を添えた。
「ガイン……これなあに?」
この世界の食用卵はでかい。目玉焼きを作ると迫力がありすぎて不味そうになるので、俺はいつもスクランブルで頂いている。
だけど、これはそんな大きさじゃない!!

「俺もこんなにデカイ卵は見たことが無い……」

卵は、キレイなシャンパンゴールドだった。心なし、発光しているようにも見える……

卵を真ん中に置き、三人で考え込んでいると、上空に赤と緑のドラゴンが旋回を始めた……
「ドラゴン!! これあの子達の卵じゃない?」

「それにしては、あのドラゴン、威嚇しているようには見えんな。それに、昔見たドラゴンの卵はここまで大きくなかったし、色も上の奴らと同じような原色だったぞ?」

あのドラゴンより大きくて、淡い色の生き物……
三人とも同じ生き物を思い出しているのだろう……
数か月前この丘に滞在していた……


「……これもしかして、レパーダの卵?」


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