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第一章

21 粗相はしません!

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「お客さん?」

「はい!獅子族の総長グランドル様がいらっしゃるのですー!!」

久々にノイの「クルクル」を見た。
腕をクルクルさせても落ち着くとは思えないけど、どれだけの一大事なのか、判断するには役に立つ。

グランドル?……
ププッ!「ン」を抜いたら、グラビアアイドルみたいな名前だな!
獅子と云うことはライオンだよね?
きっと怖いよなぁ~、リアルライオンヘッド……
みんな遊園地の着ぐるみみたいにデフォルメしてあればいいのに……

ファンシーな獣人界を想像して、顔を緩ませた俺の気を引き締める様に、ノイの無意識毒が放たれる。

「クリス様はガイン様の伴侶なのですから、くれぐれも粗相の無いようにお願いしますねー」

なんだよ、その「俺が粗相するてい」!

グランドルもネコ科の総長だから、偉い人だけど、グランドルのお父さんは、ここ「ガレニア共和国」の元首なんだって!! 

「………ところで『元首』って何?」

ノイが呆れ顔で話してくれた説明を要約すると、『元首』とは、ガレニアの全ての種族を取りまとめる、云わば大統領のような人みたいだ。
(なるほど、それは粗相できないね!)

でも元首の名前を聞いた途端、俺の緊張の糸はアッサリ切れた。

――元首「バランドル」
ププッ! 父はバラドル?

緊張感の無い俺を、ノイが般若のような顔で睨んでいた……



グランドルの到着は明日の予定なので、ガインとミゲルは準備に忙しいようだ。
俺とサミアンは、みんなの邪魔にならないよう、レパーダの居た丘でピクニックをすることにした。

「おかあたま、またドラゴンがとんでまちゅ!!」

サミアンの耳がピコピコ動く。
何かに興味を引かれると、少しでも多くの情報を収集しようとするみたいで、耳を動かしたり、鼻をフンフンさせたりする。
この姿が、たまらなく可愛い!
しかも上を見ているから桃色の唇が開きっぱなしになっちゃってる!

「ふふっ、本当だね、今日は赤いドラゴンだねー」
レパーダ以外のドラゴンは、原色が多い。二人でドラゴンに手を振ると、ドラゴンは俺達の上を旋回して、遠くの空に飛んでいった。

「クリス様ー!そろそろお昼にしませんかー?」
馬車の方からノイの声がする。
今日のランチは、この俺お手製のお弁当だ。

「ふわぁぁぁ!からあげでちゅ!!」

この間買ってきた調味料と、生姜に似たスパイスを使って作ってみた。意外と似たような植物があるので便利だが、現物を見るとちょっと引く食材も多い……

サミアンは街で食べた唐揚げが気に入ったらしい。唐揚げは、どこの世界でもお子様の心を掴んで離さないようだ。

「おかあたまのからあげ、おいちいでちゅー!」

「良かった!いっぱいあるからゆっくり食べな、ほっぺがリスみたいになってるよ!」

ハッとして頬を押さえるが、顔がニコニコしたままだ。
ヒロシも幸せそうに唐揚げ食べていたけど、こんなに喜んで貰えると作り甲斐があるよねぇ~。

一緒に唐揚げを頬張っていたノイが、空を見上げて「あっ!」と声をあげた。

見上げると、いつの間にか近くまで真っ黒な雨雲が近付いていた。
楽しい時間に、文字通り水を差すようにポツポツと降り出した雨は、あっという間に、どしゃ降りになった。
慌ててその場を片付けて、馬車に乗り込むが、みんなビッチョビチョだ。

ノイは使用人用の浴場があるというので、俺とサミアンは一階の大浴場に向かった。
館の地下から温泉が涌き出ているらしく、一日中入り放題なので、こういう時は助かる。

「サミアン!ちょっと待って!!走ったら危ないよ!!」

お風呂が大好きなサミアンは、人型になったら、毎日この調子だ。
大浴場はガインと俺たちしか入らないので、安心してサミアンを裸で追いかける……

「キュゥン!」

湯気でぼんやりした視界の浴室から、サミアンの鳴き声が聞こえる。
(どうして?人型だったのに!!)

獣型になったサミアンが、尻尾を丸めて怯えている。
サミアンに近付き、抱き上げようと屈み込むと、湯気の向こうに仁王立ちする、知らない男の姿があった……

「ひぃっ!」

背が高い……ガインより少し大きいかもしれない。
それにこの耳、狼じゃない!

「ほう……美しいな……オメガか?」

誰? もの凄い威圧を感じる……
アルファであることは間違いないだろう。お客さんは明日到着予定だし、耳もライオンとは少し違う気がする……

サミアンが怯えている。可哀想に、折角人型になれたのに、余程怖かったのだろう……

「サミアン!!走って逃げろ!」

「クゥン……」

サミアンは怯えて動けなくなっている…… だけど……「早く!!」

「キャン!!」

サミアンは風呂の床で滑りながらも、走って浴室を出ていった。
サミアンの危険を回避したことで、ホッと胸を撫で下ろした俺に、頭の上から声が響いた。

「人払いとは、気が利いてるな…… 獅子族に連れ帰り、俺のハーレムに入れてやろう!」

『ハーレム』だって!?
いや、今、獅子族って言った!?

「…………グランドルさん?」

「俺を知っているのか? 話が早いな」


どうしよう……これも粗相に入るかな?

どうでもいいけど、前隠せよ!!

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