獣人の子育ては経験がありません

三国華子

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第一章

18 おはようごさいます

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ガインは自分の寝台で眠る、美しい番を眺めていた……

クリスが「あっちではもっと美しかった」という「あっち」の世界での価値観は分からないが、クリスは誰もが息をのむ程美しい……

髪を切る習慣のない獣人には奇妙に見える短い髪も、ガインは好ましく思っていた。

スッキリ切り揃えられた襟足には「番の証」がくっきりと刻まれている。
細く白い首筋にその「証」を確認する度、美しいクリスが、自分のモノだと実感できるのだ。

口を開けば賑やかなクリスだが、最近やたらと可愛らしい……
きっかけは、獣型の俺に暴言を吐いた後の、謝罪だった。

ヒグマ族との小競り合いを終え、狼の頭のまま館に戻ると、廊下でクリスと遭遇した。
喧嘩をしていたこともあるが、この姿を怖れるクリスを怯えさせたくなかった。
顔をそらし通り過ぎようとしたその時、クリスが突然、後ろから抱き付き、謝罪の言葉を口にした……
驚きで一瞬、現状を理解するのに時間を要したが、こちらも悪かったと思い、抱き締めて頭を撫でると、顔を真っ赤にしたクリスは、へらぁっと微妙な笑顔を残し部屋に戻って行った。

翌日から、明らかに俺を意識しているようだった。
目が合う度に乙女の様に頬を染める姿は、36歳と云うのは、嘘なんじゃないかと思う程、初々しい……

お礼をする度、頬を染めて俺の頬に口づけるクリスが愛しくて仕方がない。番だから愛しいのではなく、その人柄全てが好ましい……


クリスとの間には、サミアンが丸くなって眠っている……
クリスと出逢う前の俺は、叔父として甥っ子を可愛く思ってはいたが、深い哀しみの中にあるサミアンをどう扱っていいか、分からなかった。

クリスは、とんだ跳ねっ返りだが、サミアンに対する愛情は本物だ。
獣型になって威嚇する俺に迷わず近づき、怯えるサミアンを助け出した。
考えて出来ることではない……

威嚇をして怖がらせたサミアンも、俺を再び「父」と呼んでくれた。それもこれも、クリスの深い愛情に守られているからだろう……
サミアンを抱き上げると、クリスへの感謝と、サミアンへの愛情が急速に高まり、この二人が自分の守るべき家族だと自覚した。

幸せそうに眠る、愛しいクリスとサミアンを眺めながら、初めて味わう暖かい感情を胸に、俺は眠りについた……


 ~~~~~~~~~~


「クリス……おいっ、起きろ」

ガインの声が、聞こえる……
イケメンは、声までイケメンなんだな……
よく響く……腹の奥がざわめくような色気のある低音……
でも、まだ眠いよ。もう少し……

「起きろ、クリス!大変だ!」

『大変』? こんな朝っぱらから何を言っているんだ?

薄く目を開けた俺は、目の前の見慣れない白い餅のような肌に、一気に重い瞼を引き上げた。

ガインと俺の間には、真っ白な肌に白髪に近いプラチナブロンドの三歳くらいの幼児が、桃色の可愛らしい唇をチュパチュパさせながら、眠っていた。

ガバッと身を起こした俺に、同じように身を起こしていたガインが声を掛ける。

「目が覚めたか? クリス」

「あっ……ガイン、おはよう。この子ってもしかして……」

「ああ……サミアンだ……」

うわっ!狼の姿も可愛いけど、人型もめちゃめちゃ可愛いなっ!
人間よりも成長が早いのかな? まだ二歳になったばかりなのに……

寝返りをうちながら、フニャッと笑ったサミアンが、隣に俺が居ないのに気が付き目を開ける。
真っ白な顔の中に、キレイなライトブルーの瞳が輝いた。

いつもと様子が違うことに気が付いたのか、ポヤンとしながら自分の手を眺めている。

「おはよう、サミアン」

俺が声を掛けると、完全に目が覚めたのか、上体を起こし、俺とガインをキョロキョロ見回した。

「おはようごぢゃいまちゅ、おとうたま、おかあたま……」

「おはようサミアン」

サミアンは、ガインに頭を撫でられてニコニコ笑っているが、俺は、驚きで口が開きっぱなしになった。


サミアンが「おはようごぢゃいまちゅ」って言った!!


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