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第一章

17 お引越し

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「引っ越し?」

「はい、今日からご夫婦同室になります」

「えぇぇ!!何で急に!?」

「急ではありません。クリス様がいらした時から、その様に準備してございます。ここは、最初に意識を失われていたクリス様をお世話する為に用意されたお部屋です。クリス様が『伴侶にならない』とゴネたり、サミアン様を引き入れたりしていたので、移動出来ずにいたのですー」

聞いてないよ、そんなの!
一緒にいたら、心臓バクバクしちゃうのに、ずっと同じ部屋に居たら死んじゃうよ!!

いくら童貞でも36年も生きてればキスくらいは経験あるよ。仕事柄海外も多かったから、挨拶程度なら数えきれない程キスしてるよ。
でも、ガインのは違うんだよー!
あいつ、俺が一番恥ずかしいタイミングでキスしてくるんだよー!!!

絶対死ぬ……死因は「恥ずか死」もしくは「もだえ死」……
ノイは、ガインの殺傷能力を甘く見すぎている……

「サミアンは? 俺サミアンと離れるのやだ!!」
「おかあたまー!!」

俺の言葉に、サミアンが尻尾を振りながら駆け寄って、胸にダイブしてくる。
そして恨めしそうに、ノイを見つめた……
サミアンだって俺と離れたくないよね?

「サミアン様ー、そんな目で見ないで下さいー。大丈夫ですよ、ガイン様はサミアン様も御一緒にとおっしゃっておられましたから……」

俺はホッと胸を撫で下ろした。
サミアンも喜んで、俺の顔をペロペロ舐めた……
あれ?ちょっと既視感……
もしかしてガインのキスは、サミアンが顔舐めてくるタイミングと同じ!?

――「なるほど……狼流か……」

一人で納得した俺を、サミアンとノイは不思議そうに見つめていた。


 ~~~~~~~~


ガインの部屋は、今までの部屋の倍くらいの広さだった。寝室とリビングが一緒になったような部屋で、重厚感のある家具は、華美過ぎず落ち着いた雰囲気で、如何にもガインの部屋といった趣だ。

部屋が変わったことで、ノイ以外の使用人も顔ぶれが変わった。前の部屋の使用人とは、仲良くなってきていたので、残念だ。

窓から外を眺めると、上階なので眺めが違う。三階部分なのだが、それぞれの天井が高いのでビルの6階くらいの眺めだ。

「前の部屋は、俺の世話がしやすいように給仕場や大浴場の近くだったんだな……」

「5日も昏睡しておられましたからね……」

そういえば眠っている間、誰かが食事や清拭をしてくれていた気がする……

「ノイ、あの時は面倒掛けたね。大変だったよね?」
「いえ、私はほぼ何もしていませんので……。お湯やお食事を運んだだけです」
「え? じゃあ誰が……」

ノイが目をパチクリさせた。

「ガイン様に決まっているではありませんかー。それはそれは献身的にクリス様をお世話しておられました。 ―――下の世話まで」

うっ、ギャァァァぁ!!!

嘘でしょ!? 嘘だと言ってくれ!
あのガインが!? 総長自ら下の世話!?
そりゃあ、ガインとはアンナコトやコンナコトしちゃってるけど、それとは全然違うよね?
それに、そこまでしてくれた恩人に、俺、今まで酷いこといっぱい言ってるよ?

「早く言ってよ~ノイ~」

「はあ……」

ノイの力ない返事に、俺まで脱力した……


 ~~~~~~~~


「来たのか……?」

部屋に戻って来たガインは、俺とサミアンが居るのが意外だったかの様な顔をした。
そうだよね…… 俺、今まで散々抵抗していたもんね。

「今日から、お世話になります」

「ああ、もうお前たちの部屋だ。今まで通り、気負わず生活すればいい」

「うん、ありがとう……」

ん? ガインが何か待ってる……
――もしかして、アレかな?

俺は、ガインの側までトコトコ移動し、背伸びをして頬に口付けた。

「どういたしまして」

チュウっと、唇を軽く吸われる……
これからお礼を言う度、毎回やるのかな? やっぱり死ぬかも……
心なし、ガインのキスが長くなった気がする……

「おとうたま……」

俺が赤面して固まっていると、サミアンが足元に来てモジモジし始めた。そういえば、威嚇を受けてからガインを「おとうたま」と呼ぶのは初めてだ……
ガインがサミアンを抱き上げ、手の甲で顎の下を撫でる。
気持ちいいのか、サミアンの喉が「クゥ」と鳴った。

ライトブルーの美しい双眸で、サミアンを慈しむように見つめている。
子育ての経験も無く、総長として狼族を率いなくてはならない忙しい身で、サミアンを大事にしたい気持ちはあっても、もて余していたのだろう。
でも、ガインの中にも確実に父性が芽生え始めている……

不器用だが、優しい男なのだ。


どでかい寝台が1つしかないので、三人で「川」の字になって眠った。
でも真ん中のサミアンが「おかあたま」「おとうたま」と可愛く呼ぶので、段々距離が近づき、三人で密着する形になった。

ガインの傍はドキドキするのに不思議と安心する。
フカフカのサミアンを挟みながら、幸せな気持ちで眠りに就いた……



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