17 / 67
第一章
17 お引越し
しおりを挟む「引っ越し?」
「はい、今日からご夫婦同室になります」
「えぇぇ!!何で急に!?」
「急ではありません。クリス様がいらした時から、その様に準備してございます。ここは、最初に意識を失われていたクリス様をお世話する為に用意されたお部屋です。クリス様が『伴侶にならない』とゴネたり、サミアン様を引き入れたりしていたので、移動出来ずにいたのですー」
聞いてないよ、そんなの!
一緒にいたら、心臓バクバクしちゃうのに、ずっと同じ部屋に居たら死んじゃうよ!!
いくら童貞でも36年も生きてればキスくらいは経験あるよ。仕事柄海外も多かったから、挨拶程度なら数えきれない程キスしてるよ。
でも、ガインのは違うんだよー!
あいつ、俺が一番恥ずかしいタイミングでキスしてくるんだよー!!!
絶対死ぬ……死因は「恥ずか死」もしくは「もだえ死」……
ノイは、ガインの殺傷能力を甘く見すぎている……
「サミアンは? 俺サミアンと離れるのやだ!!」
「おかあたまー!!」
俺の言葉に、サミアンが尻尾を振りながら駆け寄って、胸にダイブしてくる。
そして恨めしそうに、ノイを見つめた……
サミアンだって俺と離れたくないよね?
「サミアン様ー、そんな目で見ないで下さいー。大丈夫ですよ、ガイン様はサミアン様も御一緒にとおっしゃっておられましたから……」
俺はホッと胸を撫で下ろした。
サミアンも喜んで、俺の顔をペロペロ舐めた……
あれ?ちょっと既視感……
もしかしてガインのキスは、サミアンが顔舐めてくるタイミングと同じ!?
――「なるほど……狼流か……」
一人で納得した俺を、サミアンとノイは不思議そうに見つめていた。
~~~~~~~~
ガインの部屋は、今までの部屋の倍くらいの広さだった。寝室とリビングが一緒になったような部屋で、重厚感のある家具は、華美過ぎず落ち着いた雰囲気で、如何にもガインの部屋といった趣だ。
部屋が変わったことで、ノイ以外の使用人も顔ぶれが変わった。前の部屋の使用人とは、仲良くなってきていたので、残念だ。
窓から外を眺めると、上階なので眺めが違う。三階部分なのだが、それぞれの天井が高いのでビルの6階くらいの眺めだ。
「前の部屋は、俺の世話がしやすいように給仕場や大浴場の近くだったんだな……」
「5日も昏睡しておられましたからね……」
そういえば眠っている間、誰かが食事や清拭をしてくれていた気がする……
「ノイ、あの時は面倒掛けたね。大変だったよね?」
「いえ、私はほぼ何もしていませんので……。お湯やお食事を運んだだけです」
「え? じゃあ誰が……」
ノイが目をパチクリさせた。
「ガイン様に決まっているではありませんかー。それはそれは献身的にクリス様をお世話しておられました。 ―――下の世話まで」
うっ、ギャァァァぁ!!!
嘘でしょ!? 嘘だと言ってくれ!
あのガインが!? 総長自ら下の世話!?
そりゃあ、ガインとはアンナコトやコンナコトしちゃってるけど、それとは全然違うよね?
それに、そこまでしてくれた恩人に、俺、今まで酷いこといっぱい言ってるよ?
「早く言ってよ~ノイ~」
「はあ……」
ノイの力ない返事に、俺まで脱力した……
~~~~~~~~
「来たのか……?」
部屋に戻って来たガインは、俺とサミアンが居るのが意外だったかの様な顔をした。
そうだよね…… 俺、今まで散々抵抗していたもんね。
「今日から、お世話になります」
「ああ、もうお前たちの部屋だ。今まで通り、気負わず生活すればいい」
「うん、ありがとう……」
ん? ガインが何か待ってる……
――もしかして、アレかな?
俺は、ガインの側までトコトコ移動し、背伸びをして頬に口付けた。
「どういたしまして」
チュウっと、唇を軽く吸われる……
これからお礼を言う度、毎回やるのかな? やっぱり死ぬかも……
心なし、ガインのキスが長くなった気がする……
「おとうたま……」
俺が赤面して固まっていると、サミアンが足元に来てモジモジし始めた。そういえば、威嚇を受けてからガインを「おとうたま」と呼ぶのは初めてだ……
ガインがサミアンを抱き上げ、手の甲で顎の下を撫でる。
気持ちいいのか、サミアンの喉が「クゥ」と鳴った。
ライトブルーの美しい双眸で、サミアンを慈しむように見つめている。
子育ての経験も無く、総長として狼族を率いなくてはならない忙しい身で、サミアンを大事にしたい気持ちはあっても、もて余していたのだろう。
でも、ガインの中にも確実に父性が芽生え始めている……
不器用だが、優しい男なのだ。
どでかい寝台が1つしかないので、三人で「川」の字になって眠った。
でも真ん中のサミアンが「おかあたま」「おとうたま」と可愛く呼ぶので、段々距離が近づき、三人で密着する形になった。
ガインの傍はドキドキするのに不思議と安心する。
フカフカのサミアンを挟みながら、幸せな気持ちで眠りに就いた……
104
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
勇者のママは今日も魔王様と
蛮野晩
BL
『私が魔王に愛される方法は二つ。一つ目は勇者を魔王の望む子どもに育てること。二つ目は魔王に抱かれること』
人間のブレイラは魔王ハウストから勇者の卵を渡される。
卵が孵化して勇者イスラが誕生したことでブレイラの運命が大きく変わった。
孤児だったブレイラは不器用ながらも勇者のママとしてハウストと一緒に勇者イスラを育てだす。
今まで孤独に生きてきたブレイラだったがハウストに恋心を抱き、彼に一生懸命尽くしてイスラを育てる。
しかしハウストには魔王としての目的があり、ブレイラの想いが届くことはない。
恋を知らずに育ったブレイラにとってハウストは初恋で、どうすれば彼に振り向いてもらえるのか分からなかったのだ。そこでブレイラがとった方法は二つ。一つ目は、勇者イスラをハウストの望む子どもに育てること。二つ目は、ハウストに抱かれることだった……。
表紙イラスト@阿部十四さん
平民男子と騎士団長の行く末
きわ
BL
平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。
ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。
好きだという気持ちを隠したまま。
過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。
第十一回BL大賞参加作品です。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる