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第一章

14 俺、やっちゃった?

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ライヒアの話では、ルーシアでは二か月前から神子の捜索が始まったらしい。十五歳から二十五歳までの人間の女とオメガの男を片っ端から連行しているという。

嫌な予感しかしないじゃん!
ライヒアに俺の素性を知られたらマズイよね!って思っていたのに……

「二か月前と云うとクリス様がいらした時と重なりますね……」
――――ノイが余計なことを言った。

「失礼だが、クリス様はどちらの出身ですか?」

ほらね!そうなるよね!!
ライヒアは俺がルーシアから逃げてきたと疑っているようだ。
どう話したらいいものかと、考えあぐねていると、ガインが代わりに口を開いた。

「クリスは、異世界から来た」
あっさり、言っちゃったし……

「異世界? 実在するのか!?」

ガインは、ライヒアを信用しているみたいだから、あっちの世界で死んだことや、実際は36歳で、見た目が変わったこと、こちらに来てからオメガになったことなどを掻い摘まんで説明した。
すると、ライヒアが、ルーシアについて話してくれた。

ルーシアの王族の伴侶は、必ずしも神子というわけではなく、神子が現れなければ名家の子女から選ばれる。ただ、神子を娶るのと娶らないのでは「格」が全然違うのだ。なので、直系の王族は召還してでも神子を望む。

それを踏まえた上で、ライヒアが不吉な事を言い出した。 

「ルーシアの魔術師に召還されたんじゃないか? 近年新しい神子は産まれていないし、二十二歳になる王太子の妃候補も決まっていない筈だ」

推測の域を脱していないが、もしそれが事実なら、ガインは大国ルーシアの妃候補を寝取った男と云う事になる……

「ガイン……俺は頭が痛くなってきたぞ……」
ミゲルがボソリと呟く。
「お前はまだいいぞミゲル。ルーシア国民には、神子を見付けたら報告する義務があるんだ。しかも捜索対象の神子だ……。隠避したことが知れれば、俺は罪人だ……」

頭を抱える二人を尻目に、当のガインは獣型なのをいいことに、部屋の隅で丸くなってしまった。サミアンも付いて行き。ガインにくっついて丸くなる。
ガインの態度はあり得ないし、そんな場合じゃないのだけど、サミアンが可愛いすぎて顔が緩む。

「おいっ!ガイン!!お前の話だぞ!どうするつもりだ!!」

ガインは、伏せたまま渋々といった感じで口を開く。
「どうもこうもない。運命の番を引き裂くことなどできん。それで狼族に危険が及ぶなら、俺達が出て行く迄だ……」

みんなの困惑が分かった。
ガインの言い分は、この世界の人なら理解できるのだろうか?
『運命の番』一人の為に、狼族を離れる覚悟を当たり前のように口にするガインに腹が立った。

「『運命の番』じゃないかもしれないじゃないか!! 少なくとも俺は、ガインを伴侶と認めた訳じゃ無いんだから!!」

「なんだと!?」
勢いよくガインが立ち上がり、寄り掛かっていたサミアンが、コロンと転がる………
「あっ、サミアン!!」
サミアンはウトウトしていたのか、何が起きたのか分からず、ポヤンとしている。

「おとうたま……?」

「ウゥゥゥ」
ガインが毛を逆立て、俺を威嚇した。

怖いっ!!

背筋が凍るとはこういう事かと思う。
影響は他の者にも及ぶのか、威嚇を至近距離で受けたサミアンは、尻尾を丸めて震え出した。
俺も、怖くて足がガクガクしたけど、怯えるサミアンをガインから引き離さないと危ない。

意を決して近づき、サミアンを抱き上げ、急いでミゲル達の居る方に避難した。
俺はともかく、サミアンをこんなに怯えさせるなんて許せない!!
こっちには、アルファが二人居る。
安心して気が大きくなった俺は、つい、火に油を注ぐような事を口にしてしまった。

「そうやってすぐ怒るところも大嫌い!!」

「ガァウゥゥ!!!」

ガインは、部屋が震えるほどの大きな声で吠えた……
あれ? 
ミゲルとライヒアの耳が情けない感じになってる!?

「クリスさんよぉ、最強のアルファ怒らせんなよ……」

ライヒアは頬をピクピク痙攣させ、みるみる内に顔色を変えた……
「最強のアルファは、普通のアルファ五人でも抑えられんぞ…………」
ミゲルの冷や汗も半端ない!!

俺、やっちゃった!?

唸るガインは、今にも飛び掛かってきそうな勢いだ。
だが、暫く威嚇したあと、ふと力を抜いた。

「チッ、勝手にしろ!!ルーシアの王室でも何処でも、勝手に行くがいい!!」

そう言って、ガシャンと音をさせ、窓枠を破壊しながら部屋を出て行った……


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