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第一章
7 不器用すぎる男
しおりを挟む『狼族』と云うのは、イヌ科の群れの集合体の総称だ。それぞれの群れにアルファのリーダーが居て、それを束ねているのが総長であるガインだ。
……と言う事を、ノイから教えてもらった。何故『犬族』じゃないのかと言えば、最強のアルファが、必ず狼のアルファだから、ということらしい。
そして、最強のアルファの伴侶は、アルファの雌か、オメガが一般的であり、どちらの場合でも『狼の獣人』であることが必須条件と云うことだ。
つまり俺は、狼族にとって招かれざる客なのだ。
そんなわけで、俺の行動は部屋とテラスから通じる庭のみに制限されていて、直接話をするのはガインとサミアンとノイだけだった。
「おかあたま……」
「なあに?サミアン」
ソファーに座る俺の足元に真っ白な仔狼……。すっかり抱っこ癖のついたサミアンは、俺の膝に乗りたくなるとこうして足元までやって来る。まだ少し遠慮があるようで、抱き上げるまでしっぽを下げてモジモジしている。直ぐにでも抱き上げてやればいいのだが、このモジモジが可愛くて気付かれない程度に楽しんでから抱き上げることにしている。己の中に若干のSっ気を感じる……
獣人は獣型で産まれてくるらしく、半年程で人型になるらしい。本能が高まる程人型を取ることが難しくなるので、子供はよく獣化するそうだ。
獣化が解けなくなったサミアンの心の傷は、はかり知れない……
「サミアンは、また膝の上か?」
部屋に入って来るなり、不機嫌な様子でガインが言った。
ガインは毎日こうしてやって来るが、俺が相手をしないでいると、一時間ほど同じ部屋の中で、俺とサミアンの様子を観察していく。
これは俺が来る前からの日課で、サミアンがこの館に来た日から続いているという。
何がしたいのだろう?
正直気持ち悪い。残念なイケメンだ。
「夜はどうしているのだ?」
(あれ?今日は話しかけて来た……)
「夜も一緒に寝てるよ。俺もこっちに来て一人ぼっちだし、サミアンのおかげで寂しくならずに済んでるよ。ねっサミアン」
「おかあたま……」
「そ、そうか……」
ガインの耳がペタッと下がる。無表情で分かりにくいと思っていたが、ケモ耳は嘘がつけないようだ。
そうか……不器用なりにもサミアンを見守って来たのに、サミアンがこの俺に先に心を開いたから、焼きもち焼いているんだな?
「なぜニヤけている?」
ニヤけてました?顔に出ちゃってました?
仕方がない……少しばかり、この俺のスーパー子育て術をレクチャーしてやるか……
「狼の仕来たりなんて分からないけど、ガインも自分から抱っことかすればいいんだよ。遠くから観察してても心開いてくれないよ」
「そ、そうか……」
「よし」と小さく頷いたガインが、怖い顔で近づいてくる。
(そんなんじゃサミアンが怯えちゃうよ!!)
しかしガインは、なぜか俺ごと姫抱きにした。
何コレ、?
「……これでいいか?」
いやっ、よくないでしょう!?
「下ろしてガイン! サミアンが怖がる!」
そう言ってサミアンを確認すると、俺の腹の上にちょこんと座り、しっぽを大きく揺らしている……
「喜んでいるように見えるが……」
「……………」
「お前は、子供の事がよく分かるのだな……」
「それ嫌味?」
「いや、そうじゃない……サミアンはお前を信頼しているようだ……」
イケメンの姫抱き、かなり照れる。
破壊力半端ねぇ……
ガインのこと許したわけじゃないのにポーっとしちゃうじゃないか!
「俺、あっちの世界で子供いたから……」
ガインの顔色が変わった。
「何だと!俺以外にも伴侶がいるのか!?」
俺を抱く手に力が籠る。ガインは何をそんなに怒っているんだ?
俺以外もクソも、お前を伴侶と認めてないし!
だけどこういうタイプは、誤解させておくと、面倒くさいことになるに違いない。俺の尻の安全の為にも説明しておこう。
「お前と同じだよ、姉の忘れ形見だったんだ……」
暫しの沈黙の後、ガインは遠慮がちに口を開いた……
「……逢いたいか?」
「決まってるだろ!」
「そ、そうか……」
姫抱きのまま、しんみりとした変な空気になった……
バカじゃないの? 逢いたいに決まってる!
どうにもならないから思い出さない様にしてたのにっ!
「うぅ……」
こっちに来てからずっと我慢していた涙が溢れた……
直視したくなかったが、多分あっちの世界で、俺はもう死んでいる……
もう逢えない…… 可愛いヒロシに……
溢れる涙をガインの唇が受け止めた。
そして、ちゅ、ちゅと瞼にキスを落とされる……
何ですか?この『いきなり甘々モード』……
すごく照れるんですけど!
恥ずか死寸前の俺を助けるように、サミアンが反対側の涙をペロンと舐めた。
「ふふ、いい子だね」
誉められて喜ぶサミアンのしっぽが可愛く揺れたと思ったら、ガインの背後でも大きな黒い影が揺れている……
しっぽ!? しっぽ出てんじゃん!?
ガインの表情も心なしか緩んでいる……まさかこいつ?
『いい子』って、お前のことじゃないからなっ!!
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