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第一章
3 フェロモンって何?
しおりを挟む「ガイン様は、本気で人間を『番』にするおつもりかしら?」
「まさか……二十七歳になるまで数多の申し出を断って『運命の番』を探していらしたのよ? 今回の事は、事故に決まっているわ!」
「なら、なぜこの人を連れ帰ったのかしら? その場で殺して、契約解消してしまえば良かったのに……」
やかましい女どもの声が聞こえる……
俺は、また死んだのかな?今度はどんな世界に送られて来たのだろう?
『目を開けるの……嫌だな……』
体が痛い……頭が重い……腹が熱い……
しばらく現実逃避していてもいいかな?
目を開いても、いい事なんて無いんだから……
そうして何日過ぎたのだろう?
目を瞑っていても、誰かが流動食を食べさせたり、体を拭いたりしてくれる。宝物でも扱うかの様に優しく、優しく……
あれっ?もしかして全部夢だったのかな? 交通事故の後、病院で手厚い看護を受けているのかもしれない……
ヒロシに逢いたい……俺の可愛い息子……
僅かな希望を抱いて、重い瞼を押し上げるが、目に飛び込んで来たのは、そんなに甘い現実じゃなかった。
『あぁ……やっぱりケモ耳か……』
俺を覗き込んでいたのは、茶色い垂れ耳の若い男だった。
「お目覚めですか?私は、あなた様の身の回りの世話を仰せつかりました『ノイ』と申しますー」
ノイは茶色のクルクルパーマを無理矢理一つにまとめていて、まとめた所がボール状なっている。俺を笑わせたいのか?
だが、狼とは違い体も小さく威圧感を感じさせないので、少しだけ落ち着くことが出来た。
俺は、天蓋付きの大きなベッドに寝かされていた。部屋を見渡そうとして首を動かすと、うなじに激痛が走る。
「つぅ!」
「ああぁ、まだ、動かしてはなりません! ガイン様が、少々強く噛んでしまったようですので!」
「ガイン?」
ノイは掛け布団を直しながら、説明してくれた。
俺を犯した狼は、狼族の総長で『ガイン』といい、敵対するヒグマ族との戦闘中に、俺を保護したらしい。
「保護!?俺は犯されたんだぞ!?」
「副族長のミゲル様から、あなた様がフェロモンを出してらしたと聞いております」
『フェロモン』って何?動物じゃないんだから、そんなもん、出したり入れたり出来ないよ?
あ、でも確かに甘くていい匂いが漂っていた……あれって『フェロモン』?
「匂いは、俺じゃなくて狼野郎から出ていたんだ!」
ノイは『何言ってるの?』とでも言いたそうな顔で、説明を続けた。
「アルファが自らフェロモンを出すことはありません。オメガのフェロモンに反応して、相性の良い相手にのみ、放出されるのです」
『アルファ』?『オメガ』?
こっちの方こそ『何言ってるの?』だ!!
「そんなに引かれ合うなんて、きっと『運命の番』なのですねぇ……」
ノイの言っている事はサッパリ分からないし、謎のウットリ顔にも腹が立つ。
『運命』なんて簡単に言ってくれるなよ! 『世界一美しい顔』に選ばれたこともあるこの俺が、三十六年出会えなかったんだぞ! そもそも俺は、この世界の人間じゃないんだから……
俺のイライラを勘違いしたのか、ノイは「お腹空いてらっしゃるのですか?」と聞いてきた。
腹が減ってイライラしたと思って欲しくは無いが、空腹なのも確かだ。
何か食べ物を用意してくれると言うので、出来あがるまで、風呂を使わせて貰うことにした。
脱衣所でオールインワンの寝間着を脱いで、その場に設置された姿見の前を通り過ぎようとした俺は、違和感を感じ、一歩戻って二度見した。
「なんっじゃこりゃぁぁぁ!!」
鏡の中に、知らない男がいる!
何で黒髪?何で黒目?
そして何処行った? 俺の鼻筋!!
そこに、ゴージャスでファビュラスな滝川クリスは居なかった……
182センチあった身長も5センチ以上縮んで見える。
年齢は二十歳前後だろうか?
造形は悪くない……しかし……
今の俺、可愛らしいけど、
ちょっと地味……
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