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第一章

1 まっ裸な俺と被り物の男

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空ってこんなに青かったかな?
写真集で見たアフリカの空みたい……
上空を大きな影が通り過ぎる……飛行機?
違うな……大きな鳥……それも違う気がする。強いて言うなら、どでかいトカゲにコウモリみたいな羽……?

『目が覚めたら異世界でした』なんて……
嘘だろっ?

ガバッっと起き上がり、辺りを見渡した俺はベタではあるが、頬をムニーッとつねってみた。

「痛い……夢じゃない」
頬をつねったまま放心した俺の視界には、剣や槍を手に戦う、中世の剣士みたいな人達が映っていた。

「剣?槍?って、いつの時代だよ!ってかここ何処? チョンマゲ居ないし日本じゃないよね? 大体なんで、ゴリマッチョがケモ耳付けてんの!? 怖っわっ!!」

俺は「滝川クリス」三十六歳……
そこそこ人気のあるファッションモデル……だった。
薹が立っているのでモデルの仕事は少ないが、CMやテレビ出演もしているので、収入は充分にある。
そして、十九歳の息子を育てるシングルファーザーだ。

「俺、何してたっけ?急に仕事がオフになって『暇だし何処か行くかー』って思って……そう、ドライブだ!!
一人で山道ブイーンって走ってたら正面から……あえっ?」

車線をはみ出して走行する大型トラックが、物凄いスピードで近付いて来て、目の前が真っ暗になった。
それが最後の記憶……
痛みも、苦しみも無かった……

 俺、即死!!!?

ここは地獄だろうか?天国っぽくはない。
うわっ!あの人今、ズバッと首斬られたし……。
ってか危なくね? ここにいたら、死んだばっかりなのに、また死ぬよ?
目の前で繰り広げられる、血生臭い惨状に、俺の足はカクカク震え出し、みるみる血の気が引いて行くのが分かった。


「ここで何をしている?潰されたいか!?」

突然、怒鳴られ顔を上げると、そこには大きな馬に乗った、黒い狼の頭があった。狼だよな? 犬より強そうだし……って言うか、

ケモ耳じゃなくて、被り物!?

でも、ケモ耳達よりカッコイイ。
威厳?みたいな物を感じる。
ファンタジー映画のワンシーンを見ているようで、俺はアホみたいにポエーッと見上げた。

「聞いているのか?小僧……」
「小僧?」
俺は「滝川クリス」……だったよな?
まあ、俺は二十代にしか見えない程ピチピチで美しいけど「小僧」は言い過ぎだろ?
俺は改めて自分の姿を見た……

まっ?…………戦場で、まっ裸?

それに体、縮んでる!?
お肌も更にピチピチになってるし!

「チッ、いいから馬に乗れ!」
被り物の男から差し出された手に、藁をも掴む思いで手を伸ばすと、グイッと左腕一本で、馬上に引き上げられた。すげぇ馬鹿力!
被り物の男と向かい合う形になり、どうしたらいいか、分からない。馬ってこっち向きで乗るもんじゃないし……

「落ちないようにしっかり捕まっていろ!」
「は、はいっ!!」

怖いので言われる通りにしがみついたが、被り物の男は俺のことなどお構い無しで、戦場の真っ只中を進んで行く。その間も、ズバズバ敵を斬っていき、飛び散る血の生々しさに、衝撃が大きくて吐きそうになった。
それにさっきから漂ってくる甘い匂いは、血の匂いではないだろう。吸い込むと、意識が朦朧としてくる……

「……くっ、お前……こんな所で!」

「全軍撤退!」と遠くで声が聞こえると、敵と思われる熊みたいな丸耳の兵団が向きを変え、一斉に退去していく。周囲は味方らしき犬耳の兵団の歓声に沸いていた。
しかし俺の意識は、益々朦朧としていった。目の前の信じ難い状況に、ついて行けないだけだろうか?

「ガイン様!後を追いますか!?」
「ミゲルすまない。皆を連れて帰還してくれ!」
「ガイン様は? うっ、その者の匂いは?」
「兎に角、俺は、こいつをどうにかする。悪いが指揮を頼む!」
「し、承知しました!」

被り物の男は仲間と別れて、近くの林に入って行った。

「チッ、なんでこんな所で素っ裸で発情してんだよ!?」
 
さっきから舌打ちばっかだな!嫌な野郎だ。
はつじょう?発情って言った?誰が?
俺は、血をみて気分がモヤっとしているだけだろ?
あれ?でもチンコ勃ってる……裸で馬に乗ってるからかな?

「おい小僧、お前も馬を降りろ!」
俺は朦朧としたまま、いつの間にか馬から降りて、下から手を差し出す被り物の男に向かって、思い切りダイブした。

「あっ、おい馬鹿野郎!!」

どうやら俺は落馬したようだ。だけど痛くない。俺の下で唸っている被り物の男を下敷きにして、事なきを得たようだ。
グッジョブ俺!
それにしても体が……異様に熱い……

「はぁ、あぁっ……」

「何なんだ!この匂いは!キツすぎる!」

何言ってんだよ、この被り物!
なんかめっちゃ甘くていい匂いしてるけど、俺じゃなくてお前から匂ってますから!

ああ、駄目だ……この匂い、おかしくなる……
被り物の男の様子もおかしい。この匂いのせいだろうか?犬の唸り声のような音も聞こえる……

「グルゥゥゥ……はぁ、はぁ、くそっ、理性が持たない……」

そう言うと狼は長い舌で、俺の首筋をペロっと舐めた……

………えっ? 狼っ!!?
被り物じゃなかったのー!!?

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