黄昏よ、さらば・・・

紅龍

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死に体

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もう、駄目だ・・・・。
心の内からは諦めの二文字が浮かんでは脳裏を掠める。
体の感覚も緩やかに失われ、霞む視界の中、声が響く。
『死にたくなければ目を閉じろ!』
突然の声に驚き、反射的に目を閉じたと同時に閃光とでも呼ぶべき光が閉じた眼へ飛び込む。
咄嗟に手を掲げなければ眩しさに視力は失われていた。
「・・・ぐっ」
だが、それでも死に体なのは依然として変わらず、ボロボロになった体を何とか引きずり、怪物より逃げようとした最中、強烈な加速感を感じて目を開く。
「・・・・逃げたん・・・じゃ?」
霞む視界の先には見る影も無く破損したエトの姿。
無理やり僕を支えている為か、マニュピレーターの隙間からは油の様な物が絶えず滴り、まるで流血の様。木々の合間を走る足は何個も車輪が抜け落ち、四角い胴体には鋭利な爪で抉られた様な後が痛々しい。
「・・・・何でこんなにボロボロ・・・」
僕はそこまで呟いて気付いてしまった。
見た感じ小動物であったあの怪物は・・・・そう、ただの小動物だったのだと。
そして狩られる側の小動物であるのであれば、一匹であろう筈も無いのだと。
『理解しましたか? 此処がどの様な世界なのか・・・』
「身をもって・・・って笑えませんね・・・」
『そうですね。ですが、生きているだけでも良かったと思いましょう』
「・・・・そう・・・です・・・ね」
そこまで言ったところで僕の意識は途切れて消えた。


『・・・・きて下さい。起きないとそろそろ危険ですので・・・・』
「・・・・後五分・・・・」
『豪胆と言うべきなのでしょうか? それとも無自覚なのでしょうか?』
ことさら呆れた様な溜息と共に、声の主は破砕音を響かせつつ対象へ向かってバチバチと光る棒を突き刺し・・・・。
「アッバババババ!?」
対象がバタバタと暴れるのも関係無いと、静止する様に振るわれた手などお構い無し。
このままでは死ぬのでは無いかと思われた行為は、徐々に勢いを失っていく光と共に終わりを迎える。
『起きて頂けましたか?』
「これが起きるという事なら十二分に・・・・」
『皮肉を言えるのであれば結構です。これより先は比喩では無く、泥水を啜ってでも生きてもらわなければなりませんので』
出会った頃とは違い、エトとの間に溝の様なものは無く、真実から来る言葉なのだと知れた。
そして、それ故にその言葉もまた真実なのだと。
「・・・・視界の中では色々な警告が光ってますけど、僕はまだ助かる・・・と?」
現実的に死んでもおかしくない重傷。
今、生きている事が奇跡でしか無く、先ほどの怪物がただの雑魚とすれば、生きる価値など。

『気落ちしているのは理解しています。頭では無く、本能が抵抗を止めた事も重々承知。ですが、生きているのもまた事実。唯一喜ぶべきは貴方が、あのネズミの間に隔たれた力の差を理解されたという事』
エトが口にしたのは慰めにもならない言葉。
子供と大人異常の力の差を感じては、抵抗するのも馬鹿らしい。
僕個人としては、このまますべてを投げ捨てて終わりを迎えても・・・いや、迎えるべきだが、この身は既に助けられた命。
拾った者がまだゴミでは無いと言うならば、諦めて良い道理は無い。
「・・・・それで、何処の泥水を啜る?」
『生憎と表情は冷ややかですが、良い表情と評価致しましょう』
「それはどうも」
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