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日常
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「今日も終電か・・・・」
帰宅というには遅すぎる時間故か、周りの人の流れもまばら。
時折通り過ぎるのは週末を楽しむ大学生か、はたまた高校生か。
「・・・・元気だなぁ」
僕にもああいう時があったなあと一人現状を顧みてため息を吐いては明日の仕事を思い浮かべて憂鬱な気持ちを吐き出す。
「若いって良いなあ・・・・僕も休みたい・・・・」
子供の頃はこんなことを思う事も無く、日々輝いていた。
僕は主役で、世界はそんな僕を祝福しているのだと・・・・・。
「でも・・・・そんな事は無いわけで」
周りのみんなが現実を直視する中、夢見がちな僕はと言えばゲームのプロになるだの、プログラマーになるだの人生の方向性を決める事なく過ごしてきたつけをこうして今支払っている訳で・・・・。
「分かってますよ、分かってます。人生なんてものはクソゲーで、僕は主人公なんかじゃないって。本当の主人公は早いうちに先を見据えてこのクソゲーに対応した奴らだって」
当然、対応できない僕に残ったのは誰でもできるが、誰もやりたがらない仕事でしか無く、こうして連日夜も遅くに帰宅しては朝早く出社するという人生棺桶コースしかある訳も無く。
通り過ぎる若者たちへ羨ましいなと羨望の眼差しを向けるしかできないのがこの僕だ。
「・・・・若いってほんと・・・・良いなあ」
僕にとってみればこうした行為は過去への郷愁にすぎなかった。
過去を思い懐かしむ行為。
だが、それは僕の個人的な感想でしか無く、一方では愚かな行為であったか・・・。
今まで眺めていた金髪の少年が急激に顔を歪めたかと思うと。
「おい! そこのおっさん!」
などと声を荒げて距離を一歩、一歩と詰め掛ける。
当然、僕にその手の抵抗力などあろうはずも無く。
「ひゃ、ひゃぃ!?」
無様に漏れたのは気の抜けた返事のみ。
慌てて取り繕うべく手を振るが、それすら馬鹿にしている様に映ったのか・・・・。
「どっか行けってか!? まじで殺すぞ!」
「い、いや、そ、そういう訳じゃ無くて。う、羨ましいなって思っただけなんだ!」
「・・・・羨ましいだ? お前・・・本気で言ってんのか?」
何が気にくわなかったのか本当に理解できないが、彼の顔は見る間に赤くなり、抑えが効かぬと僕の襟首を掴むと右腕を振りかぶる。
反射的に拳を避けようと右手を広げるが、そんな事など何の役に立つわけも無く、掴まれた襟首を横にずらされるだけでグラついた体は吸い込まれる様にして振り下ろされた拳へとつんのめり、『ぐちゃ』という音がしたかと思うと、目の中に火花が散る。
「あっい」
ただの一発。
彼からすれば挨拶程度の一撃だったのだろうが、僕にとっては世界が歪む程の一撃。
運悪くか、狙っての事か、はたまた防ごうとした手を避けた為か。
顎を直撃した一撃によって僕の体は抵抗の術を奪われ、死に体を晒し、次いで襲い来る猛烈な吐き気によって自然と口元からは吐しゃ物が吐き出された。
「っぶ!」
此れには彼も呆れた表情で手を解き二歩三歩と距離をとる。
そうして支えを失った僕はといえば、当然に倒れるしか無く、重力に引かれて固い地面へと倒れ込む。
「恵まれた奴が不幸ずらしてんじゃねえよ!」
「・・・えぐ・・まれ・・・へる・・・?」
底辺であろうという自覚しか無い僕に対する言葉とは思えなかった。
僕はただの歯車。それも小さな小さな替えのきく部品。
壊れようとも誰も見向きもしない存在。
そんな僕を見て彼は恵まれていると言う。
「・・・・何・・・は・・・?」
僕は当然に否定する。
しかし、彼にとってはその言葉こそが嘲笑でしか無かったか。
「今日の飯を食える人間が何言ってんだ・・・・お前ら世代が糞みたいな政策をしたせいで俺らには何の職もねえんだよ! お前それでも大人か!? ニュースも見てない野郎どもに俺らは劣っているって思われてるのかよ!」
「・・・・ニュ・・・フ?」
ニュースなんて単語を聞くのは何時ぶりだろうか。
自分が生きていく事に必死なあまり、情報らしい情報も遮断し、生活していたつけとばかりに、彼の言葉は衝撃的であった。
曰く人間の労働力は不要であり、此れからはロボットがそれを担うものとする。
それに伴いこれより先、人間の労働力は不要であり、そうした技術者以外は排除する。
また、出生時より一人一人にスコアを与え、それを下回った者については、
排除対象となり、排除された者については都市での生活を禁ずる。
「・・・・・何ですか・・・・ほれ・・・」
「此れが馬鹿みたいな面して見ていた奴らの真実だよ! みんな此れから死ねって言われて生きてる者たちの姿だ! どうだ? 羨ましいか?」
言葉を交わすのはそこまでだとばかりに彼は足を振り上げ地べたに転がるゴミへ振り下ろす。
「っぶ・・・」
僕は馬鹿だ・・・・。
「・・・っひ」
僕だけが最悪なんだと思っていた・・・。
「いっ」
最低だ・・・。
「っぐ」
彼の怒りは周囲の者達にしても共感できるものだったのだろう、周りを行き交う人々も他人事。
日々生じる日常風景とばかりに飽きた顔さえ浮かべる者もおり、僕は恵まれていたのだと自覚する。
「・・・・・・」
見上げる空は子供の頃と変わらず綺麗な月が浮かび、人々をあざ笑うかの様に白銀の光を辺りに放つ。
「・・・・綺麗だ」
「・・・・余裕かよ!」
単純に月への言葉だったが、そんな事など地面を見る彼には嘲りの言葉。
最早、たがの外れた彼には犯罪に対する恐怖などあろう筈も無く、全力と思しき靴底が僕の眼前へと振り下ろされた・・・・・。
『規定の訓練時間経過を確認・・・・より良き未来の為、皆の奮闘に期待します』
何だ?
僕はそうして単純な感想を口にしようとしたが、時が止まったかの様に見える世界は動きを止め、空の月は白銀より赤々とした色へと変化していた。
『・・・仮想世界よりパージ開始。対象者は衝撃に備えてください』
え? あ・・・え?
衝撃だの何だのと言われても突然すぎる。
死ぬ手前から救われたと喜ぶべきか、断片的に聞き取った内容から何かの悪ふざけかと憤るべきか? そんな事を考えている間にも眺めていた光景は虫食いの様に鮮明さを失い、変わって見えてくるのは薄暗い光景。
何処・・・・?
帰宅というには遅すぎる時間故か、周りの人の流れもまばら。
時折通り過ぎるのは週末を楽しむ大学生か、はたまた高校生か。
「・・・・元気だなぁ」
僕にもああいう時があったなあと一人現状を顧みてため息を吐いては明日の仕事を思い浮かべて憂鬱な気持ちを吐き出す。
「若いって良いなあ・・・・僕も休みたい・・・・」
子供の頃はこんなことを思う事も無く、日々輝いていた。
僕は主役で、世界はそんな僕を祝福しているのだと・・・・・。
「でも・・・・そんな事は無いわけで」
周りのみんなが現実を直視する中、夢見がちな僕はと言えばゲームのプロになるだの、プログラマーになるだの人生の方向性を決める事なく過ごしてきたつけをこうして今支払っている訳で・・・・。
「分かってますよ、分かってます。人生なんてものはクソゲーで、僕は主人公なんかじゃないって。本当の主人公は早いうちに先を見据えてこのクソゲーに対応した奴らだって」
当然、対応できない僕に残ったのは誰でもできるが、誰もやりたがらない仕事でしか無く、こうして連日夜も遅くに帰宅しては朝早く出社するという人生棺桶コースしかある訳も無く。
通り過ぎる若者たちへ羨ましいなと羨望の眼差しを向けるしかできないのがこの僕だ。
「・・・・若いってほんと・・・・良いなあ」
僕にとってみればこうした行為は過去への郷愁にすぎなかった。
過去を思い懐かしむ行為。
だが、それは僕の個人的な感想でしか無く、一方では愚かな行為であったか・・・。
今まで眺めていた金髪の少年が急激に顔を歪めたかと思うと。
「おい! そこのおっさん!」
などと声を荒げて距離を一歩、一歩と詰め掛ける。
当然、僕にその手の抵抗力などあろうはずも無く。
「ひゃ、ひゃぃ!?」
無様に漏れたのは気の抜けた返事のみ。
慌てて取り繕うべく手を振るが、それすら馬鹿にしている様に映ったのか・・・・。
「どっか行けってか!? まじで殺すぞ!」
「い、いや、そ、そういう訳じゃ無くて。う、羨ましいなって思っただけなんだ!」
「・・・・羨ましいだ? お前・・・本気で言ってんのか?」
何が気にくわなかったのか本当に理解できないが、彼の顔は見る間に赤くなり、抑えが効かぬと僕の襟首を掴むと右腕を振りかぶる。
反射的に拳を避けようと右手を広げるが、そんな事など何の役に立つわけも無く、掴まれた襟首を横にずらされるだけでグラついた体は吸い込まれる様にして振り下ろされた拳へとつんのめり、『ぐちゃ』という音がしたかと思うと、目の中に火花が散る。
「あっい」
ただの一発。
彼からすれば挨拶程度の一撃だったのだろうが、僕にとっては世界が歪む程の一撃。
運悪くか、狙っての事か、はたまた防ごうとした手を避けた為か。
顎を直撃した一撃によって僕の体は抵抗の術を奪われ、死に体を晒し、次いで襲い来る猛烈な吐き気によって自然と口元からは吐しゃ物が吐き出された。
「っぶ!」
此れには彼も呆れた表情で手を解き二歩三歩と距離をとる。
そうして支えを失った僕はといえば、当然に倒れるしか無く、重力に引かれて固い地面へと倒れ込む。
「恵まれた奴が不幸ずらしてんじゃねえよ!」
「・・・えぐ・・まれ・・・へる・・・?」
底辺であろうという自覚しか無い僕に対する言葉とは思えなかった。
僕はただの歯車。それも小さな小さな替えのきく部品。
壊れようとも誰も見向きもしない存在。
そんな僕を見て彼は恵まれていると言う。
「・・・・何・・・は・・・?」
僕は当然に否定する。
しかし、彼にとってはその言葉こそが嘲笑でしか無かったか。
「今日の飯を食える人間が何言ってんだ・・・・お前ら世代が糞みたいな政策をしたせいで俺らには何の職もねえんだよ! お前それでも大人か!? ニュースも見てない野郎どもに俺らは劣っているって思われてるのかよ!」
「・・・・ニュ・・・フ?」
ニュースなんて単語を聞くのは何時ぶりだろうか。
自分が生きていく事に必死なあまり、情報らしい情報も遮断し、生活していたつけとばかりに、彼の言葉は衝撃的であった。
曰く人間の労働力は不要であり、此れからはロボットがそれを担うものとする。
それに伴いこれより先、人間の労働力は不要であり、そうした技術者以外は排除する。
また、出生時より一人一人にスコアを与え、それを下回った者については、
排除対象となり、排除された者については都市での生活を禁ずる。
「・・・・・何ですか・・・・ほれ・・・」
「此れが馬鹿みたいな面して見ていた奴らの真実だよ! みんな此れから死ねって言われて生きてる者たちの姿だ! どうだ? 羨ましいか?」
言葉を交わすのはそこまでだとばかりに彼は足を振り上げ地べたに転がるゴミへ振り下ろす。
「っぶ・・・」
僕は馬鹿だ・・・・。
「・・・っひ」
僕だけが最悪なんだと思っていた・・・。
「いっ」
最低だ・・・。
「っぐ」
彼の怒りは周囲の者達にしても共感できるものだったのだろう、周りを行き交う人々も他人事。
日々生じる日常風景とばかりに飽きた顔さえ浮かべる者もおり、僕は恵まれていたのだと自覚する。
「・・・・・・」
見上げる空は子供の頃と変わらず綺麗な月が浮かび、人々をあざ笑うかの様に白銀の光を辺りに放つ。
「・・・・綺麗だ」
「・・・・余裕かよ!」
単純に月への言葉だったが、そんな事など地面を見る彼には嘲りの言葉。
最早、たがの外れた彼には犯罪に対する恐怖などあろう筈も無く、全力と思しき靴底が僕の眼前へと振り下ろされた・・・・・。
『規定の訓練時間経過を確認・・・・より良き未来の為、皆の奮闘に期待します』
何だ?
僕はそうして単純な感想を口にしようとしたが、時が止まったかの様に見える世界は動きを止め、空の月は白銀より赤々とした色へと変化していた。
『・・・仮想世界よりパージ開始。対象者は衝撃に備えてください』
え? あ・・・え?
衝撃だの何だのと言われても突然すぎる。
死ぬ手前から救われたと喜ぶべきか、断片的に聞き取った内容から何かの悪ふざけかと憤るべきか? そんな事を考えている間にも眺めていた光景は虫食いの様に鮮明さを失い、変わって見えてくるのは薄暗い光景。
何処・・・・?
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