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第一章『大規模盗賊団討伐作戦』
二十三話「幕引と盗品」
しおりを挟む「ん……ん?」
げ。盗賊が起きちゃった。
がっちり手足を縛られて魔封じも取り付けられているから安全なはずだけど……すす、と視界に入らないように遠ざかる。
「あー、頭いて一……あ!」
「あ」
あぁー、見つかっちゃった。
「お前!お前何者なんだよ!!ってか、さっきのやつ誰だよー!!」
「えー……いやぁ、ただの小娘ですよほんと。さっきのやつとは?誰かいたんですかぁ?」
「いたんだよ!お前の拘束だってとれてるだろ!」
「あ、やべ」
くそう、無関係を装おうと思ったのに。
……いや、討伐に来た冒険者が解いてくれたことにすれば良かったのか。しくじった!
「くそー、もう始まってるのか、戦闘。おい!これ外せ!」
「いや外す訳ないでしょ」
「今外してくれれば、後で酷い目にあわずに済むようにしてやってもいいぞー?」
「いやいや、君達もう負けるから」
なんか、ビタンビタンと魚みたいに暴れてて怖いな。拘束外れたりしないよね?ちょっと落ち着こうよ。
「ふん!シュゼットが負ける訳ないだろー!それに、俺達だけでも逃げるんだよ!準備はできてる!そして後から復讐してやるー!」
まあ随分と自信満々だ。
外の戦闘は過激化しているようで、激しい音や振動が伝わってくる。……あれ、もしかしてこの戦闘ってボス一人と冒険者達大勢が戦ってるの?そんなに強いの?怖。
でもキース達が負けることはないでしょ……たぶん。ない……よね?
心配になってきたため、入り口へと移動してそっと外を覗いてみる。
煙幕はもうだいぶ晴れてきている。私でも十分に見通しが効くくらいだ。
ドオン、と大きな振動が伝わってくる。
「うわっ……」
え、思ったより近くで戦ってるんですけど。
冒険者達が遠巻きに一人の大男を囲みながら、交代で斬り掛かったり魔法で攻撃したりしている。
ボスらしき人物は流石に全て防ぐことは不可能らしく攻撃を食らっているようだが、まだ全然倒れる気配はない。でも、数の有利からしても盗賊ボスの敗北はほぼ間違いないだろう。
「おい!シュゼットがそこにいるんだろ?早く拘束解けよー!」
「え?いや、いやいや、いないよ。シュゼットって誰?外には冒険者しかいないよぉ?」
「じゃあ誰が戦ってるんだよ!シュゼットに決まってるんだ、煙幕も出してたから出口に向かってるはずだ!」
「出口?」
この近くに出口があるの?
煙幕も晴れてきたため使えるようになっているはずの探知系魔道具を取り出し、作動してみる。
浮かび上がったのほここの地形と人の位置……あ、これのことかな、出口。ここからだとあっちの方か。目視でも見えるかな……あれ?
「なんか……出口、竹がびっしり生えて埋まってるけど」
「……え?」
ここからだと出口と思しき壁の穴を斜めの方向から覗くかたちになる。が、ちらっと見えるだけでも竹がところ狭しと四方八方から生えているのが分かる。
上に繋がってるってことはギリ遺跡内なのか、あそこ……あの竹遺跡の中ならどこでも生えてくるからね。
「……いやー!問題ないな!だって北にも出口あるもん!そこに荷物だってあるもん!」
なんかヤケになってない?君。大丈夫?そんな目をカッ開いてビチビチされると怖いんだけど。
でも、へぇー、なるほどね。
「……その北の出口のところに荷物があるのね?」
いいこと聞いたな。今回はまだ盗品いただいてないし……ちょっとそこまで行ってみようかな?討伐も終わりつつあるみたいだし、行くなら今だ。
今回は討伐に参加すらしてないから完全にアウトだろって?……バレなきゃいいのよ、盗賊の持ってるものなんて減ったところで誰も疑わないんだから。
そんなに沢山いただくつもりもないし。
「なー、お前、何考えて……」
「……教えてくれてありがとう。君はちょっともう少し寝てるといいかもよ?」
「え?え、ちょっと……ギャアース!!」
キース特製の小型電流発生装置だ。こんなに小さいのに流れる電流は強力で、大抵の敵は食らうと気絶する。……一応もう一人の盗賊にも当てとこ。まだ起きてないけど。
「……ギャァアース!?」
うん、これでよし。ちょっと、髪焦げてるけど……たぶん死んでない。大丈夫大丈夫。
そぉっと空洞の外へ顔を出しつつ、魔道具によって出口の位置と敵の位置を探る。
うーん……やっぱりまだ至る所で結構戦闘中っぽいな。というか、この魔道具じゃ敵味方の判別がつかないからよく分かんないし……
とりあえず、ワンピースのポケットから『かくれんぼ必勝反則リング』という隠密系の遺物を出して指にはめる。これでかなり見つかりづらくなったはずだ。『魔力壁生成用リング』で流れ弾対策も万全だし、あとは壁沿いに北の方にある出口に向かおう。
そろそろと壁に手をつき進んでいく。うん、バレてないね。大丈夫そうだ。
戦闘の様子を見るに、冒険者が優勢そうで安心している。盗賊はちらほら地面に転がってるけど冒険者は転がってないし、大怪我をして休んでいそうな人もいない。
決着がついたところからさらに戦闘中のところへ加勢していっているため、盗賊が完全に制圧されるのも時間の問題だろう。
と、ぼけーっと辺りを見ながら歩いていくと、さっき私がいたような空洞の前に辿り着いた。この奥に出口の道があるっぽい。
荷物どこかなー。いいのあるかな……
「ぐぁ!!」
……あれ、もしかして中で戦闘中?
ちらっと覗いてみる。いるのは〈深紅の焔〉と冒険者数名、盗賊は転がっているのが四人と戦ってるのが、えーと、六?
「はっはぁ!俺はこの盗賊団でも三番目には入る強さなんだぜ!ナンバースリーだ!お前らみたいなのが何人集まったところで勝てねぇぜ!」
えー、ナンバースリーですって。強そう。怖い。っていうか、私を攫ったうちの一人じゃん。君そんなに強かったの。
ベテランのカーラ達でも苦戦しているようで、その表情は険しい。
カーラのパーティがナンバースリーの盗賊と戦いつつ、他の冒険者達がその他の盗賊数人と戦っているらしい。どうもカーラ達の消耗が激しく、攻撃を防ぐだけで手一杯といった感じがする。
ナンバースリーさんが振り回す剣を防ぎながら隙を探っているようだ。
どうしよう。戦闘終わってくれないと盗品いただけないし、何か手伝えることは……あ、そうだ。
さっきの電流装置、あれ追尾機能ついてたはず。
ポケットから追加の電流装置を取り出し、空洞の入り口部分から振りかぶって小さな装置を投げる。
ぽーいと投げた小さな物体は弧を描いて盗賊へ……あ、どんな方向に飛んでくのさ……だが装置はすぐに軌道修正をしてナンバースリーさんに飛んでいく。
「っ、なんだ!?誰だ!!」
が、ナンバースリーさんは素早く振り返ると剣で装置を叩き落としてしまった。あぁー。しかも見つかった。やばい。
「マスター!!」
「てめぇ!!」
うわ、どうしょう。えーと、とりあえず同じ装置三つくらい投げておこう!!
装置はまたもやあらぬ方向へ飛んでいきながら、三方向から盗賊へと迫る。
私が装置を投げたと同時、状況を悟ったカーラが盗賊に斬りかかる。カーラの剣を防ぎ、装置を叩き落とす盗賊、だが、二個落としたところで最後の一個が足に貼り付いた。
「ンギャーース!!」
全身に激しい電撃を受けた盗賊は髪を焦がしつつ倒れる。その悲鳴に他の盗賊達も振り返り、この場で最も強かった者の焦げた頭を目撃した。
「う、うわあ!!」
「逃がさないで、全員捕まえて!!」
引き攣った顔で出口へ向かって逃げ出した盗賊達だったが、戦っていた冒険者達に次々と捕らえられていく。
……良かった。助かった。
「はあ……マスター、ありがとう。……助けに来てくれたの?」
「え、まぁ……そうですね?」
結果的にはカーラ達のお役に立てたようで良かったです。感謝されてるなら、わざわざ盗品漁りに来ました、なんて言ってカーラを怒らせる必要もないでしょ。
にこぉ、と笑いながら中へ入り、荷物らしきものを探す。あれか。かなりあるな。
「遺物で隠れてた盗賊が待ち伏せていて、奇襲を受けたの。途中で何人か応援に来てくれたんだけどちよっと厳しくて……マスター、聞いてる?」
魔道具のランプに、最低限の生活雑貨、食料……あんまり良さそうなのは無いかなぁ。珍しいものもあんまり……あ、このバンダナかわいい……
これか、範囲型隠密系の遺物。ただの輪っかになった長いロープに見えるけど、どうやって使うんだろう。
金目のものや盗品はあまりないようだ。全て売ってしまったのか、そもそもあまり盗んでいないのか。
でもお金が置いてあるわけでもない。
いただけるとすれば、この辺の生活用魔道具をいくつかとかわいいバンダナくらいかな……
「……ちょっと、マスター。何してるの?」
「……えーっと……カーラさん、今回は大目に見てもらえませんかね……?」
呆れた目で私を見下ろすカーラ。言いたいことは分かるよ、私が悪いですね、ええ。盗品にしか目がなくてごめんなさい。
ただちょぉーっと、もう、ちょっとだけで良いので、盗品を漁らせてもらいたいんですけどもね……
はぁ、とカーラがため息をつく。
「……私がとやかく言えるものじゃないわ。一応助けてもらったし。ただ違反はしない範囲でお願いね?」
「え、ありがとう!」
やったぁ、保護者?からのお許しも出たし、もうちょっと色々漁ってみよーっと!!
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