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第一章『大規模盗賊団討伐作戦』
五話「茶会と助言」
しおりを挟む「クリアちゃん……先日協会に呼ばれたと聞いたのだけれど、貴女大丈夫なんですの?」
「え?何が?」
「その暮らしぶりですわよ……」
んー、プリン美味しいからいいんじゃない?
私達は今ギルド二階のカフェでお話している。
向かいに座るお嬢さんはうちのギルドメンバーのレイリィ・マグラス。星四冒険者の魔道士で私のお友達だ。
ギルド二階にはカフェスペースがあり、ゆっくりとティータイムを楽しんだり軽食を食べたりできるくつろぎの空間となっている。うちのギルドには女性冒険者も他と比べて多いため、一階の食堂兼酒場のようなガヤガヤとした場所とはまた違った憩いの場を設けたのだ。そしてこのカフェ、スイーツがおいしい。
ちなみに夜はバーへと変わり、これまた落ち着いた雰囲気でお酒が楽しめる。
レイリィはブロンドヘアを揺らしてため息をつく。
「どんなことを話したのかと聞き出すような野暮な真似はしませんけど、かといって貴女の自堕落を無視する訳にもいきませんわ」
「レイリィは優しいねー。そういう所好きだよ」
「ひっ……!やめてくださいまし!また、酷い目に合わされますわ……」
そう言うとカタカタと震えだした。
失礼な。でもまあレイリィが過去に受けた〈隕石〉のメンバー達からの仕打ちを考えれば当然か……可哀想に。
でも私だってこの数日は何もしないで食っちゃ寝してた訳じゃないし。
あの後シーファからリストを渡され、討伐に向かうメンバーをちゃんと選出した。内約としては星四冒険者がいるパーティが一つ、星三、星二冒険者中心のパーティが二つ、それとソロの星三冒険者が二人と星二冒険者が二人。
それに加えて、私の幼馴染……私のパーティメンバーの一人、星六冒険者メルちゃんを指名しておいた。
私を除くパーティメンバーはみんな遺跡攻略に出ているが、予定ではあと数日で帰ってくるはずなので討伐にはギリ間に合う……はずなのだ。
ちゃんと仕事してる私、えらい!
震えるレイリィを宥めてプリンを堪能していると、私達に誰かが声をかけた。
「レイリィ先輩、マスター!」
えーっと、あの子は確か。
「あらシーラちゃん」
「こんにちは。ご無沙法してますレイリィ先輩。マスター、お久しぶりです。この度の討伐作戦、私達のパーティを推薦してくださってありがとうございます」
「久しぶりだねシーラ」
いやー、相変わらずしっかりした子だね……うちのパーティに欲しいくらい。
他のメンバーの子もいい子ばかりなんだよね……やっぱりリーダーがしっかりしているからなんだろうか。
うちは駄目だ。リーダーはこんなだし、メンバーはみんな問題児だし。まったく、どこで教育を間違えたのかしら。
レイリィがこてりと首をかしげる。
「討伐に行くんですの?」
「そーそー。その話したの、協会で。盗賊団の討伐に行くんだよ」
「へー、そうなんですの」
「はい。光栄にもそのメンバーに選ばれましたので、一生懸命頑張らせていただきます!」
「頑張ってねー」
本当にいい子だよ。
シーラのとこの〈幸運を呼ぶ星〉はシーラともう一人星四がいる実力派のパーティだ。今回も真っ先に名前が上がり、本人達も快く依頼を受けてくれた。
プリンは美味しいし、ギルドの子はいい子だってことが再確認できたから、今日はいい日だね!
「え、貴女は行かないんですの?」
「? 勿論」
「いやいやいや……」
逆に何故私が参加するとお思いで?
参加したところで何もできないし指揮なんてもってのほかだ。こういった大人数の討伐作戦の場合、大体最もランクの高い冒険者が全体の指揮を担当する。お前はパーティリーダーでギルドマスターなんだから指揮もするだろうって?いえいえ、私が口を出すと大惨事になりかねないんで、全部他の人に任せてます。
もう引退しろよって感じだよね。私もそう思う。
「マスター、何か討伐に向けてのアドバイスなど、もらえませんか?」
「アドバイス以前に貴女が行かなくてどうするんですの!?どうせ暇なんでしょう!」
「失礼な。暇じゃ……な、ないよ?」
「どうかお願いします」
アドバイスねえ。
アドバイス、アドバイス……
私が??
「……そうだなー。どんなに小さなことも見逃さず、最後まで根気よく追いかける。これ討伐の基本ね」
「当たり前のことですわ」
「ありがとうございます!」
「貴女は貴女で心配ですわ」
シーラは頭を深く下げてから去っていった。
大丈夫大丈夫、たかが盗賊団なんだから問題なんて何も起きないよ。だから私は何も気にせず引きこもっていてもいいのだ。
「えっと……討伐隊のメンバーは聞いてもよろしく
て?」
「ん?〈幸運を呼ぶ星〉でしょ?〈朝露の微睡〉と〈深紅の焔〉、ソロでニーナ、バルタン、ライ、コリン、あとメルちゃん」
「メル!?」
目を見開いておののくレイリィ。
君さっきからリアクションがオーバーだよ。過剰反応だよ。まあ、確かにレイリィはうちのメンバーに遊ばされたりしてるけども……可哀想に。
「な、なんでよりによってメルを……」
「いや……対人戦とか捜索とか、得意だから……あとは時間がギリギリだから、最悪メルなら走って帰ってこれるかなって……」
「まあ確かに……ただ集団行動が不安ですわ。わざわざメルにしなくても、帝都に残ってる……」
「私は行かないけど?」
「いや……まあいいですわ。どっちにしろわたくしは遠征で行けないですし」
レイリィ達〈一角の乙女〉がいてくれたら頼もしかったんだけどね。〈一角〉はギルドを共に立ち上げたパーティの一つで、長い付き合いだし強さもよく知っている。
「今回はどこ行くんだっけ?」
「ブレスト森林ですわ。レベル四の遺跡に寄ったあとそこの素材納品依頼も受けてこようかと」
「あー、確かにあそこ中々行きづらいしね」
ブレスト森林とは帝国南方にある広い森林だ。一部が遺跡となっているのだが、その遺跡が帝国と森林を切り離すように位置しているため、ブレスト森林の素材はかなり大回りして遺跡を避けるか、遺跡を抜けなければ入手できないのだ。
〈一角〉のパーティランクは星四。遺跡の攻略難易度は冒険者のランクと比較して同じ数字であれば十分攻略可能だと言われている。〈一角〉ならブレスト森林の遺跡「眠る爆林」も問題なく攻略だきるだろう。
「お土産待ってるね」
「何を持って来いというんですの。観光地でもないし、素材は売るからあげませんわよ」
「なんか面白いのあったら持ってきてよ。買い取るからさー」
「分かりましたわ……文句は受け付けませんわよ」
わぁい。レイリィからはお土産もらえるし、討伐作戦はうん、まあ大丈夫だろうし。大丈夫だよ、たぶん!
最後のプリンの一欠片は勢い余ってスプーンからテーブルに滑り落ちた。
「もったいない!」
「ばっちいからおやめなさい!」
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