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5.アルトワ将軍視点
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俺はヴィクトル・デ・アルトワ将軍、侯爵家の次男で成人したと同時に近衛騎士となった。
護衛中に陛下を襲った刺客の襲撃で不覚にも顔に傷を負ったため、実力だけでなく見た目も重視される近衛騎士の任を降りて兵士へと転向した。
近衛騎士での手柄もあって順当に出世して二十三歳にして副将軍となり、二年後には将軍に着任した途端に戦争が始まる。
途中で代わった相手の指揮官が同じ貴族だったせいか考え方がなんとなくわかり、裏をかく事に成功して今回の戦争で功績をあげた。
戦争が終わり王都へと帰還すると、あと二年は続くだろうと言われていた戦争を終わらせた英雄だと祭り上げられていた。
一方では顔に傷があり、戦場で敵の血を大量に浴びた恐ろしい人物だと思われていて、特に貴族令嬢達からは恐れられていると聞いて落ち込んだ。
これでも学院にいた頃は結構モテていたが、卒業と同時に男所帯にいたせいか貴族令嬢の扱いなど記憶の彼方となった。
しかも顔に傷が付いた事で同性には名誉の負傷だと一目置かれたが、貴族令嬢からは当然敬遠された。
成人してからも筋肉で大きくなった身体のせいもあるかもしれないが。
そして凱旋した一週間後、祝勝会のパーティーが決定した。
三年間で婚約破棄された者もいれば、すぐに式を挙げる約束をしている者もいるが、俺には関係の無い話だった。
大勢に注目されて緊張する中、褒章として過分な程の領地と財宝、そして伯爵位までいただけた。
部下には「あとは奥方がいれば完璧ですね」などと言われたが、俺好みの見た目で俺の見た目が平気な令嬢なんていないだろう。
祝勝会で挨拶続きに辟易して風に当たろうとしたが、多くの人が窓の内外にいたので陛下に許可をもらって上の階の部屋を使わせてもらう事にした。
バルコニーの窓を開けた瞬間、可愛らしい声が聞こえて来たが、内容はかなり不穏なものだった。
覗き込むと、斜め下の小さなバルコニーで三人の男に逃げ道を塞がれている俺好みの令嬢が見える。
助けに行こうにも、今から階段を下りて行っては間に合わないだろう。
俺の身体能力ならここから飛び降りるのも可能な距離だ、そう考えていたら令嬢が身構えたのが見えた。
しかも身を守るためではなく、あれは攻撃する体勢だよな?
これまでにない胸の高鳴りを覚えて、気付けば隣のバルコニーの床部分に手をかけるように飛び移り、令嬢と男達の間に降り立っていた。
こんな線の細い三人なら、一撃でまとめて処理できる。
隣の広いバルコニーに人だかりができていたが、それよりも大事なのはこっちだ。
息を整え、緊張で震える手を差し出して令嬢をダンスに誘った。
怯えられる事も覚悟したが、令嬢は満開の花のような笑顔で手を取ってくれたのだ。
久々に貴族令嬢と話したという事もあり、緊張で何を話したのか半分も覚えていないが、令嬢の名前とまた会ってくれるという事だけは覚えている。
自分を守るために付いた傷のせいで結婚できていないと心苦しく思っていた陛下の暗躍もあり、令嬢と俺の婚約から結婚まであっという間に決定していた。
もちろん求婚は自分で花束を用意して気持ちを告げたが。
結婚をして半年を過ぎた頃、子供ができたと告げられた。
現実であることが信じられなくて自分の顔を殴りつけてしまい、アデルにもの凄く叱られてしまった。
仕事が早く終わり家に帰ると、夕方はかなり涼しくなる季節だというのに庭を散歩しているアデルを見つけ、背後から抱き締めて目立つようになってきたお腹を手で温めるように撫でる。
先日初めて触っている時に動いたので、命の存在に胸が熱くなって涙が零れた。
そんな俺をアデルはよく「可愛い人」と言う、こんなゴツイ男にそんな事を言うのは世界にただ一人だろう。
俺を見上げて瞳を閉じる、口付けをねだる時のいつもの行為。
そんな自分の方がよほど可愛いだろうという抗議の代わりに、愛しい妻に何度も口付けた。
護衛中に陛下を襲った刺客の襲撃で不覚にも顔に傷を負ったため、実力だけでなく見た目も重視される近衛騎士の任を降りて兵士へと転向した。
近衛騎士での手柄もあって順当に出世して二十三歳にして副将軍となり、二年後には将軍に着任した途端に戦争が始まる。
途中で代わった相手の指揮官が同じ貴族だったせいか考え方がなんとなくわかり、裏をかく事に成功して今回の戦争で功績をあげた。
戦争が終わり王都へと帰還すると、あと二年は続くだろうと言われていた戦争を終わらせた英雄だと祭り上げられていた。
一方では顔に傷があり、戦場で敵の血を大量に浴びた恐ろしい人物だと思われていて、特に貴族令嬢達からは恐れられていると聞いて落ち込んだ。
これでも学院にいた頃は結構モテていたが、卒業と同時に男所帯にいたせいか貴族令嬢の扱いなど記憶の彼方となった。
しかも顔に傷が付いた事で同性には名誉の負傷だと一目置かれたが、貴族令嬢からは当然敬遠された。
成人してからも筋肉で大きくなった身体のせいもあるかもしれないが。
そして凱旋した一週間後、祝勝会のパーティーが決定した。
三年間で婚約破棄された者もいれば、すぐに式を挙げる約束をしている者もいるが、俺には関係の無い話だった。
大勢に注目されて緊張する中、褒章として過分な程の領地と財宝、そして伯爵位までいただけた。
部下には「あとは奥方がいれば完璧ですね」などと言われたが、俺好みの見た目で俺の見た目が平気な令嬢なんていないだろう。
祝勝会で挨拶続きに辟易して風に当たろうとしたが、多くの人が窓の内外にいたので陛下に許可をもらって上の階の部屋を使わせてもらう事にした。
バルコニーの窓を開けた瞬間、可愛らしい声が聞こえて来たが、内容はかなり不穏なものだった。
覗き込むと、斜め下の小さなバルコニーで三人の男に逃げ道を塞がれている俺好みの令嬢が見える。
助けに行こうにも、今から階段を下りて行っては間に合わないだろう。
俺の身体能力ならここから飛び降りるのも可能な距離だ、そう考えていたら令嬢が身構えたのが見えた。
しかも身を守るためではなく、あれは攻撃する体勢だよな?
これまでにない胸の高鳴りを覚えて、気付けば隣のバルコニーの床部分に手をかけるように飛び移り、令嬢と男達の間に降り立っていた。
こんな線の細い三人なら、一撃でまとめて処理できる。
隣の広いバルコニーに人だかりができていたが、それよりも大事なのはこっちだ。
息を整え、緊張で震える手を差し出して令嬢をダンスに誘った。
怯えられる事も覚悟したが、令嬢は満開の花のような笑顔で手を取ってくれたのだ。
久々に貴族令嬢と話したという事もあり、緊張で何を話したのか半分も覚えていないが、令嬢の名前とまた会ってくれるという事だけは覚えている。
自分を守るために付いた傷のせいで結婚できていないと心苦しく思っていた陛下の暗躍もあり、令嬢と俺の婚約から結婚まであっという間に決定していた。
もちろん求婚は自分で花束を用意して気持ちを告げたが。
結婚をして半年を過ぎた頃、子供ができたと告げられた。
現実であることが信じられなくて自分の顔を殴りつけてしまい、アデルにもの凄く叱られてしまった。
仕事が早く終わり家に帰ると、夕方はかなり涼しくなる季節だというのに庭を散歩しているアデルを見つけ、背後から抱き締めて目立つようになってきたお腹を手で温めるように撫でる。
先日初めて触っている時に動いたので、命の存在に胸が熱くなって涙が零れた。
そんな俺をアデルはよく「可愛い人」と言う、こんなゴツイ男にそんな事を言うのは世界にただ一人だろう。
俺を見上げて瞳を閉じる、口付けをねだる時のいつもの行為。
そんな自分の方がよほど可愛いだろうという抗議の代わりに、愛しい妻に何度も口付けた。
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