【5話完結】転生して記憶が戻ったのはバツ3になってからでした

酒本 アズサ

文字の大きさ
上 下
2 / 5

2.王宮のパーティー

しおりを挟む
 翌日、遅い朝食を済ませて自室でくつろいでいたら、にわかに門の方が騒がしくなった。
 今お父様はお仕事で王宮に行っていていない、主のいない屋敷に約束どころか先ぶれすらなく訪問するなんてありえない。


 訪問者は恐らく元夫の誰かだろう、そう思って窓の外をレースのカーテン越しに覗くと、三台の馬車が門の前に停まっていた。
 馬車についている家紋には見覚えがある、まさかの元夫が全員集合しているようだ。


 もしかしたらお父様が王宮に向かったから来たのかもしれない。
 同等以下のシリル様とユーグ様はともかく、侯爵家のセドリック様を止めるのは不敬になるから門番では厳しいかも……。


 駆け落ちした時にギレム侯爵家が除籍してくれていたら面倒はなかったのに……チッ。
 どうやら門番は押し切られてしまったらしく、ギレム侯爵家の馬車が敷地内に入って来た。
 セドリック様が牽制したのか、シリル様とユーグ様の馬車が入って来る事はなかった。


『お嬢様、奥様がお部屋から出ないようにとの事です』


 ドアの外からエミリーの声が聞こえた。


「わかったわ。だけど無理はなさらないようにとお母様に伝えて。あと王宮にいるお父様へお知らせするように」


『はい……、では失礼します』


 私がこういう指示をしたのは初めてだったせいか、エミリーが戸惑ったようだった。
 再び窓の外を見ると、しばらくしてお父様に知らせに行くのか馬に乗った執事の一人が出て行き、その後を追うようにシリル様とユーグ様の馬車が姿を消した。


 一時間ほどしてからお父様の馬車が帰って来て、三十分後にはセドリック様が帰って行ったのが見えたので部屋を飛び出した。
 エミリーと共に応接室へと向かうと、両親がソファに座ってグッタリとしていた。


「お父様、お母様、大丈夫ですか!? セドリック様に何か酷い事を言われたりされたりしませんでした!?」


 もしそうならこちらから乗り込んで精神的にも身体的にもボッコボコしてやる!


「大丈夫よ、アデルに会わせて欲しいとしつこかっただけだから」


「シリルとユーグも王宮を出たところで待ち伏せていてな、戻って来るのが遅くなってしまった。三人共結局は来月開かれる祝勝会のパーティーでパートナーとしてアデライトを連れて行きたいと言いに来たんだぞ! 全く、厚顔無恥とはあいつらのような者の事を言うのだ!」


 お父様がソファの肘掛けにドンと拳を叩きつけた。
 まぁ、あれだけの醜聞が知られているのだから、いくら顔が良くても貴族令嬢であれば敬遠するのは当然でしょうね。


「お父様、これからは私は自分で彼らを撃退してみせますからご安心ください! 彼らは私がおとなしく言う事を聞く女だと思っているから失礼な申し出をしたのだと思います。ですがこれからは違いますから……」


 バチンバチンと掌に拳を打ち付けて気合を入れていたら、これまで見た事がなかった私の行動に両親とエミリーがポカンとしていた。


「おほほ……、これからは生まれ変わったつもりで強くなろうと思ったのです……」


 口元を手で隠して上品に笑ってみたところで、先ほどの行動は無かった事にならなかったようだ。
 いまだポカンとしてる両親を置いて、祝勝会のための準備をすると言い残しエミリーと自室に戻った。


「お嬢様……、余程ユーグ様の行動がショックだったのですね。おとなしく、おしとやかだったお嬢様があのような事を言うなど……」


「ま、まぁそうね。だけどそれより祝勝会の準備をしなければならないでしょう? 三年も続いた戦争が終わったんですもの。今回の功労者であるアルトワ将軍は今二十八歳なのにまだ独身なんですって、年頃の王女様がいらっしゃったら褒美に結婚を許されていたかもしれないわね」


「ですがアルトワ将軍のお顔には大きな傷があるとか。恐ろしい顔をしているからいまだに結婚ができないともっぱらの噂ですわ」


 想像したのか、エミリーはブルッと身体を震わせた。


「だけど将軍という立場上、後ろ傷ならともかく、向こう傷は勲章じゃなくて? 自分よりか弱い者にしか強く出られない人に比べたら何倍もマシだわ」


 将軍の姿は出陣式の時に遠くから後ろ姿を見ただけだが、遠目でもわかるくらいたくましい身体をしていた。
 当時の私は大きな身体の男性が怖くて近付く事は無かったため、将軍の顔をはっきり見た事は無いが。


 今回の祝勝会でパートナーがいたら、それはそれで社交界の噂を大いに盛り上げてしまうだろう。
 その後、なんとか元夫達をやり過ごし、祝勝会は両親と共に参加する事になった。


 パーティー当日、久々に妻と娘の両手に花状態でお父様はとてもご機嫌だ。
 出戻りだとあなどられてはならないと、メイド達が気合を入れて準備してくれたおかげで我ながら素晴らしい仕上がりだと思う。


 会場に入った時は好奇の目を向けられたりしたが、王族や将軍ら功労者が鮮やかなマントをひるがえして姿を見せると誰もが興味を失ってくれたようだった。
 褒美の金品や陞爵が告げられるたびに歓声が起こり、功労者の誰もが多くの貴族達に囲まれていたが、将軍だけはその身にまとう威圧感のせいか挨拶が終わった今周りは部下だけだ。


 幸い元夫達も見当たらないし、久々のヒールで足が限界だったので給仕が勧めてくれた人がいないバルコニーへこっそりと出た。
 しかし出る前に気付けばよかったのだ、パーティー会場で人のいないバルコニーがあるなんて不自然だと。
 給仕が勧めてくれたのは……、誰もいなかったのは……、元夫達がそう仕組んだからだったと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。 守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。 だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。 それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

王子の呪術を解除したら婚約破棄されましたが、また呪われた話。聞く?

十条沙良
恋愛
呪いを解いた途端に用済みだと婚約破棄されたんだって。ヒドクない?

こうしてあなたたちが生まれたの♪

夢草 蝶
恋愛
 あの日、お母様は婚約破棄を破棄するって言われたの。  そしてお父様に出会ったのよ──。

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!

みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。 結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。 妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。 …初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!

処理中です...